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“写真”

それは今や

生きていくうえで、欠かせないものになっている

昔の人は“魂”をとられる

そんなふうに 怯えていたらしいが

リエ

(それに近いものは、あるのかも…)

出産を祝い

成長を祝し

門出を祝う

そして

人の最期を見届ける

人とは切っても 切れないものだから

祖父が引退を決めた時

リエ

この写真館は…

リエ

わたしが引き継ぐ!

自分が跡を継ぐと決めた

リエの父

なにを言い出すんだ!

リエの父

いい歳になって、結婚もしないで!

リエの母

そうよ

リエの母

まずは、結婚が先

両親は反対したけれど

リエの祖父

いいじゃないか

リエの祖父

“あるがままを受け止める”

リエの祖父

それが、写真館の仕事だろう?

祖父はアッサリと 認めてくれた

リエの父

でも、親父!

リエの祖父

なら、お前が継いでくれるのか?

リエの父

そ、それは…

リエの祖父

じゃあ問題ないだろう?

リエの祖父

これで安心して引退できるよ

リエの祖父

ありがとう、リエ

―1ヶ月後―

リエ

これで、よし!

リエ

お清めの塩は置いたし

リエ

あとは、看板を出して…

リエ

ふぅ…

リエ

(この仕事も、だいぶ慣れてきたな…)

立地のせいなのか

うちの写真館には

飛び入りのお客様が 来ることがある

上島チカ子

あの、すみません

上島チカ子

予約してないんですけど…

上島チカ子

写真を撮ってもらえますか?

リエ

いいですよ

リエ

うちは、当日歓迎ですので

リエ

では、お名前を伺ってもよろしいですか?

上島チカ子

はい。上島チカ子です

リエ

上島チカ子様ですね

リエ

撮影は、室内でよろしいですか?

上島チカ子

はい。お願いします

リエ

では、こちらへどうぞ

リエ

(お化粧、どうしよう…)

リエ

(時間も少ないし…)

その時

祖父の言葉を思い出した

“あるがままを受け止める”

リエ

(そうだった)

リエ

(あるがままを受け止める…)

リエ

(それが、写真館の仕事!)

上島チカ子

あの、申し訳ありません

上島チカ子

普段着のまま、こちらへ来てしまって…

リエ

いえいえ!そんな!

リエ

日常の一コマを写すのが、わたしの仕事ですから

リエ

気軽に来てもらえて、嬉しいです

上島チカ子

まあ、ありがとうございます

上島チカ子

どうしても今日

上島チカ子

写真を撮っておきたかったものですから

リエ

なにか良い事があったんですか?

上島チカ子

ええ

上島チカ子

主人がね?嬉しい事を言ってくれたんです

そう言うと上島様は 「うふふ」と微笑んだ

リエ

ご主人がですか?

リエ

夫婦仲が良くて、うらやましいです

上島チカ子

そうですね…

上島チカ子

主人との仲は、いい方だと思います

リエ

(主人“との”?)

上島チカ子

実は、私

上島チカ子

前にも、この写真館で撮影して頂いたんです

上島チカ子

あれは、何十年前の事かしら…

上島様は懐かしむように 目を細めた

リエ

前は、何かのお祝いで?

ファインダー越しに 上島様を見つめると

その顔が僅かに曇った

上島チカ子

主人との、結婚祝いに

リエ

それは、おめでとうございます!

上島チカ子

ありがとうございます…

上島チカ子

次のお祝いも、ここで撮ろう

上島チカ子

そう、約束していたんですけど…

リエ

(何かあったのかしら?)

上島チカ子

私たち夫婦には、子どもが出来なくて…

リエ

そう、だったんですね

上島チカ子

主人は、気にしないと言ってくれたんですけれど…

上島チカ子

時おり、思ってしまうんです

上島チカ子

子どもさえ居れば

上島チカ子

主人は…

上島チカ子

寂しくなかったんじゃないかって

「子どもさえ居れば」

その言葉の呪いは

どれほど彼女を 悩ませたのだろう?

リエ

(上島様…)

リエ

(とても、悲しい顔をしてる…)

上島チカ子

また何かのお祝いに、撮りに来れたら…

上島チカ子

そう思っているうちに

上島チカ子

こんな、お婆さんになってしまったんですけどね?

上島様は「うふふ」と 照れ笑いを浮かべた

リエ

(綺麗…)

その美しい微笑みにむけて シャッターを押す

─カシャッ─

上島チカ子

あら…

上島チカ子

もう、撮ったんですか?

リエ

はい

リエ

上島様の笑顔が

リエ

あまりにも、お綺麗だったので

リエ

どうしても、お見せしたくなったんです

リエ

上島様の大事な人に

上島チカ子

まあ、お上手ね

上島様は「うふふ」と 上品に微笑んだ

リエ

(きっと、この笑顔を)

リエ

(ご主人は、愛していらしたんだろうな…)

―数日後―

チカ子の夫

あの、上島です…

チカ子の夫

写真を受け取りに来ました

リエ

はい、上島様ですね

チカ子の夫

あの、本当なんですか?

チカ子の夫

妻のチカ子が、ここに来たって…

リエ

もちろんです

リエ

ここは、写真館ですから

数日前に撮った写真を カウンターに並べる

リエ

こちらで、お間違いありませんか?

チカ子の夫

まっ…

チカ子の夫

間違え…ありません…!

上島様は声を詰まらせ

何度も首を縦に振った

チカ子の夫

チカ子は…なにか…

チカ子の夫

最期になにか、言っていませんでしたか!?

リエ

リエ

ご主人が「嬉しい事を言ってくれた」と…

チカ子の夫

チカ子が、そう言ったんですか!?

リエ

はい

リエ

とても幸せそうに、話して下さいました

チカ子の夫

チカ子…すまなかった…!

リエ

上島様?

チカ子の夫

「退院祝いに」なんて言わず

チカ子の夫

すぐに、写真を撮りに来れば良かった…

この写真館は 病院のすぐ近くにある

…とはいえ、入院中 撮影に来る人は僅かだ

チカ子の夫

「記念」なんて必要ない

チカ子の夫

チカ子と過ごした日常の全てが

チカ子の夫

特別な…時間だったのに…

リエ

上島様…

カウンターの上には 上島チカ子様の写真

その中で彼女は 上品に微笑んでいる

白く透きとおる肌に

向こう側の景色を 浮かべて

#TELLER文芸部

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