閻魔
さて、ここに呼ばれた理由はわかるか?玄武
何も無い真っ黒な空間
そこで椅子に座り上から見下ろす閻魔と膝まつき下を向いている玄武がいた
玄武
俺が、暴走した件かと……
少し怯えているような声を出した玄武
閻魔は小さくため息を付くと口を開く
閻魔
別に説教はしないさ。お前が無事で何よりだ
玄武
えっ……
玄武は驚いたように顔を上げる。閻魔は優しい顔で語りかける
閻魔
お前は相手に全力を尽くした。炎舞に止められたとはいえ、今回は相手が上手だった。それだけだ、よく頑張った
玄武
でも……俺は暴走しかけて招待者に怪我を負わそうと
閻魔
確かに、水晶越しに見ていたが最後は私利私欲に飲まれていた
閻魔
チーノ外交官補佐はお前にとったら敵だったかも知れない
閻魔
大切な人を失うきっかけを作った人間だ
閻魔
だが、実際は指の脱臼で済んでいるしダンスフロアにはスカイとタンザナイトが共同開発した『治癒結界』が張られている。それぐらいの怪我、大したことない
玄武
なら……何の話なんですか?
閻魔
お前は『努力』を綺麗事だと、そう思っている
閻魔
だが、お前に付いている”素質の王”は『努力の王、神名クニチェアンタイモン』
閻魔
素質の王と思想が合わないまま過ごしていれば、いずれ飲み込まれる
閻魔
素質の王とは怖いものだ。アビリティープレイヤーにとって、力と素質の王は心臓
閻魔
力が止まれば身体の自由を失い、素質の王に飲み込まれれば思想の自由や人格を失う。それが嫌ならば、素質の王を取り除く事が出来る
閻魔
どうする?
玄武
えっ……いったい、何の話を?
閻魔
素質の王が承諾すれば取り除く事が可能だ
閻魔
適正のないアビリティープレイヤーに適正ではない素質の王が入れば、本来出せる力は半分以下しか出せないし、デメリットが増えメリットが減る
閻魔
お前のアビリティーコストは他よりも多い。素質の王が適正では無いからだ
玄武
俺に……素質の王の適正がないと言いたいんですか?
閻魔
そういうことでは無い
閻魔
本来の素質の王が産まれる前にアンタイモンがお前の芯にある玉座に座り、独占しているんだ
閻魔
正直に言おう
閻魔
アビリティープレイヤーの芯に存在する素質の王は『神』だ
玄武
!?
閻魔
忌み子は嫌われ者の神に好かれるみたいだ
閻魔
俺はよく言うな?『神は存在しない』と
閻魔
自己暗示さ、自身に神が宿っている事実を信じたくないだけなんだ
閻魔
この事実の公言は禁止とする。いいな?
玄武
う、承りました
閻魔
ま、邪神が宿っているのは俺だけなんだが
閻魔は乾いた笑顔を見せた
その顔はかなり引きつっている
閻魔
炎舞は『喜怒の王』、エメラルドは『運命の王』
閻魔
まだまだいるんだが、芯にいる素質の王は善良な神ばかり
閻魔
少数の邪神は孤独を好み、団体行動を嫌う
閻魔
組織の中心にいる人物ほど、力の強い善良の神が宿るが……俺には見向きもしなかった
玄武
なんで……そんな秘密を、最底辺の俺に言うんですか?
閻魔
この先、素質の王に飲み込まれる可能性が1番高いとはんだんしたからだ
閻魔
適正では無い以上、素質の王が主人格を飲み込み乗っ取る可能性が高い
閻魔
お前本来の素質の王は既に生まれている
閻魔
『偽善の王、クニチェハイヒライ』は騙すことに秀でている良神だが、序列重視の神でもあるなら、序列が上のアンタイモンに、頭を下げるしかないんだ
玄武
ならどうやって、そのアンタイモンっていう神を退けるんですか?
閻魔
……仮死状態となり、自身の精神世界で交渉し勝ちを得る事しか、方法は無い
閻魔
失敗すれば、主人格は消滅し実質的な死を意味する
玄武
……俺は、神を信用しません。だから、閻魔先輩の発言は信用しがたいです
玄武
でも、先輩がここまで真剣で俺に話す事は、疑うことの無い真実なんだと思います
玄武
俺は、軍が嫌いだったから……あんな奴らと同じになんてなりたくなかったから……炎舞さんの誘いに乗ったんです
玄武
この組織で、炎舞さんや貴方に恩が返せるなら、本来の王も独占している王も、俺のモノにしてみせます
閻魔は面白そうに笑った
まるで、予想していたかのように笑った
閻魔
仮死状態になるには、俺のアビリティーで対象者のアビリティーを回収し、スカイのアビリティーを使い精神世界に入る
閻魔
失敗すれば、お前は死ぬ
閻魔
最悪の場合、魂だけが消滅し肉体は素質の王に乗っ取られる。全ての悪事はお前のせいにされ全世界で悪人になる可能性もある
閻魔
素質の王は忘れられた神の行き先のひとつ
閻魔
人間界は神にとって、好奇心を擽る原因だ
閻魔
その行為をするまだまだ先だが……必ず生きろよ
玄武
仰せのままに
そして現在、玄武は素質の王の座を独占している神も邪神では無い
思想が異なるだけで、害を基本的与えないのが善良な神だ
閻魔
話は以上だ。お前は本来癒し空間で休憩していなければならない
閻魔
戻るんだな、スカイは良いとして炎舞にバレると面倒だ
玄武
は、はい!
玄武はオレンジ色の渦に包まれて姿を消した。閻魔の後ろにはスカイがいた
閻魔
いつから居たんだ……それで、タンザナイトは安心させてきたか?
スカイ
玄武君と入れ違いだよ
スカイ
あの部屋に人を入れるのは初めてだし、逃がさないようにしてる。タンザナイトは緊張してなかったよ
閻魔
元は難攻不落の刑務所で最高責任者だったんだ
閻魔
久しぶりの囚人で内心ワクワクしてるかもな。彼奴のアビリティーは、囚人を捕らえるのに最適だ
スカイ
看守長だった名残から、あの部屋は『難攻不落の檻』と呼ばれタンザナイトには『看守長』の異名まで付いたぐらいだからね
閻魔
それなのに、彼奴が過ごした領土の領主閣下は彼奴を捨てた
閻魔
そして、都合のいいリアムを看守長の座に座らせた
閻魔
彼奴は溜め込みやすい、リアムと彼奴は同期だったんだろ?
スカイ
そうらしいよ。かなり仲が良かったみたい
スカイ
同期でもあり成績も二人がランキングを独占
スカイ
”全世界監獄担当看守育成学校”のエリート学科、”看守育成特別科”で永遠のライバルとまで言われてたらしいし
閻魔
タンザナイトが首席、リアムが次席
閻魔
当時の生徒は他の年と比べ成績優秀者が多く居て、問題行動を起こす奴も居なかった
閻魔
それは厳格なリアムと飴と鞭を使い分けるタンザナイトが学校内の生徒会に所属していたからだな
スカイ
それでも、タンザナイトの解雇にした領主閣下に不満を持ったリアムは、閣下の思惑通りには動かなかった
スカイ
それにより、道化師の侵入及び領主閣下殺害を許し、ましてや道化師が領主に化けているのを見抜けなかった
スカイ
突然性格が急変すれば、他人が化けているって選択肢は頭の中に出るはずなのに
閻魔
それが長引いた結果が、リアム看守とステイサム看守の殺人事件を引き起こした
閻魔
スティーブ看守も残念だっただろう。お前のお得意様も減った訳だしな
スカイ
それじゃ、俺は癒し空間に戻るよ。いつ、アメジスト君が来てもいいように
閻魔
お前も、無理すんじゃないぞ
スカイ
ほんと、”親友”同士で同じこと言うね。大丈夫、分かってるから
閻魔
……
閻魔
つくづく運が悪いな、これも全て”兄上”のせいか?
閻魔の耳に聞き慣れない声が聞こえ、目の前に灰色のモヤが現れる
閻魔
黙れ、誰だ
『我の手をとれ。お前を不幸にした兄に復讐したいと思わんか?』
閻魔
邪神か。邪神如きが、俺に指図するな
『お前はアンタイモンもハイヒライも手の内に入れないのだろう?彼らは神の中でも融通が利かない』
『だから芯の持ち主に頼った。滅多に居ないからな、素質の王を二つ持つ人間は。ある意味、あのノッポは素質の持ち主だ』
閻魔
お前の考えに共感はしない
閻魔
素質の王をどうするかは玄武次第だ
『彼らの本来の名を呼ぶ資格もないのに、よく回る口だ』
『素質の王全員を扱えるようになれば、計画は大きく広がる。何せ、『邪神の王』は我なんだからな。幼き頃に、書物で勉強済みだろう』
閻魔
……俺はお前の力を借りるつもりは無い
『そうだろうな。だが、お前は我の力無くして計画はなし得ない。それを自覚している尚、善良な神を増やす必要があるだろ。お前の望みは我なくして叶えられないのだから』
閻魔
調子に乗るのもいい加減にしろよ、邪神
『なら我なしで兄に勝てる算段があるのか?申してみよ』
閻魔
……とにかく、玄武が決めることにお前は口出すな
『あぁ……今はしないさ。まだ部下からの合図がないからな』
閻魔
待て、部下からの合図だと?この世界にお前の仲間がいるのか!?
『どうだかな。まぁ精々足掻いてみるが良い。その態度はいずれ身を滅ぼすぞ。せっかく、名高い極東の裁判長の名を持っておるのだからな』
閻魔
あ、おい!待たないか!
閻魔
くっそ……絶対に彼奴の思い通りになるものか
閻魔
(ん……?嫌な気配がしたな)
閻魔
おい、誰が居ないか?
?
どうされましたか?
閻魔
【智恵子】か
少し頼めるか?
智恵子
えぇ、あなたのお望みならば
『蝶野智恵子』
正中層部No.6
魔蝶族知蝶種の女性
閻魔
済まない、休んでいたところを
智恵子
いえ?大丈夫ですよ。身体はある様で無いものですし
智恵子
もし、他者に触れなければいけないものならば、他のメンバーよりわたくしの方が良いでしょ?
智恵子
だってこの身体は”貴方の叔母の身体”なのですから
閻魔
……ああ、そうだな
ありがとう、叔母上
智恵子
それでは、わたくしは貴方が望む事をしてきますね
そうやって、智恵子は青と白の羽根を持つ蝶となり、どこかへ飛んで行った
過去、閻魔とホワイトボマーの為に命を散らした蝶を、蛾すらも愛した人間の女性がいた
彼女の肉体にホワイトボマーのアビリティーが強く関与し知識の蝶として生まれ変わった
肉体はそのままの為、人間時代の名前以外の記憶を引き継いで
閻魔
……ほんと、俺はダメな人間だ
閻魔
いつも、目の前で大切な人が消える。なんの為に……いや、辞めておこう
そう言うと閻魔は椅子に座り直し、水晶に目線を向けた