狼
些末なことだった。
何をしても
兄と比べられている気がする
兄みたいになりなさいと
言われている気がする
そんなことで
だけど
そんなことが
生活のほとんどを
学校と家とを行き来するだけの
学校と
家しか
知らない
僕には
世界の半分だった。
だから
家に居るのが嫌だった。
僕は図書館で
本は読まず
写真や図鑑を広げ
ずっと絵を描いていた。
別に絵が上手いとか
絵描きになりたいとかじゃなく
ただ
絵を描くのが好きだった。
君は
そんな僕が
もの珍しかったのかもしれない。
君は
邪魔にならないよう
しばらく黙って見ていたね
ただ僕は
と思いながらも
君が気をつかって
喋らないもんだから
その事に気をつかって
仕方なく絵を描き続けた。
それが
写真の方なのか
絵の方なのか
わからなかったけど
なんだか
自分が誉められたような気がして
照れくさかった。
それから僕らは
頻繁にここで会うようになった。
嘘だ
忘れるはずがない
初めて自分が
認められた気がして
嬉しかった
あの日を。
君に会うたびに
君の嬉しそうな笑顔が
僕の嫌いだった
世界の半分を
上塗りしていった。
紙 の 月
その一言が
妙に心に残った
初めて話したあの日から
君の口から
綺麗という
言葉が出たのは
これで二度目だった。
風はまだ少し肌寒い
辺りを照らす月よりも
流れてくる君の匂いの方が
僕は気になっていた。
なんとなくだった。
ただ
一緒にいたい
それだけだった。
何も確信はない
今から僕は
仕事も探さなきゃならない
不安がないと言えば
嘘になる
それでも
君がいれば
なんとかなるような気がしていた
君が前に言った言葉
それが頭に残ってて
何気なく描いた
君と一緒に見た
夜空に浮かぶ月
なぜか君は
この月を
とても気に入った。
別段上手くもなく
何の変哲もない
紙の月
これから僕らは
二人で生きてく
何があろうと
二人なら
なんとか出来る
そう思っていた。
ただ
僕たちは
まだ子供だった。
哭 く
君は
僕の全てだった。
だから
勘違いをしていた。
僕は
君が
心の一部のように
体の一部のように
感じていた
だから
自分のことは
わかるだろうと
勘違いをしていた。
そして
思い通りにならない君に
苛立ちを覚えていった。
そう
まるで
自分の体の一部が
腕が
足が
自分の思い通りに動かないと
どうしようもなく
苛立つように。
働きはじめたばかりで
心の余裕もなかったんだと思う。
君は
口数が少なくなっていった。
ううん、違う
口数が減ったんじゃない。
きっと
僕が
君の為に
一生懸命働いてるんだ、と
君に
何も
言わせなくしていたんだ。
そして君はいなくなった。
何も言わず。
何も残さず。
僕はただ泣いた。
僕の世界の半分に穴があいた。
狼 は 紙 の 月 に 哭 く
もう
君を思い出すことも
少なくなった。
毎日
君を責めた。
毎日
自分を責めた。
もう君はいない
どんなに責めたところで
教えてくれる者なんていない
それでも
毎日責めた。
だけど
月が
徐々に満ちていくように
時間と共に
僕の心の穴も
自然と埋まっていった。
それでも時々
思い出すんだ
君の言葉を。
君と過ごした時間を。
君と一緒に見た月を。
そして
あの頃の後悔を。
部屋の中から
一枚の絵を見つけた。
僕が描いて
君にあげた
紙の月
何も残してないと思っていた君が
唯一
残したもの
その紙の月には
僕の描いていない
一匹の狼が佇んでいた。
この狼は
残された僕なのか
それとも
去っていった君なのか
それは
もうわからない
だけど
たった一匹で
月を見上げる狼は
なんとなく
哭いているように見えた。
コメント
3件
ホント失って初めて気付く事多いです。あれもこれも… この二人にもう一度チャンスが有ればいいのにな…( 。・-・。`)
初コメ失礼します。 表現力がとても素晴らしいですね、このお話に感動しました🥺