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梨本和広
とと
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ラミー
ラミーは俯き腕を組んだ。なにやら考え込んでいる。 そして断言した。
ラミー
真顔だ。クールな瞳ではなくクーラーボックスに閉じ込められた、やはり魚の目だ。もう死んでいる。
美来
ちっ、つまんなーいと言わんばかりの醒めた気分の美来は
もうこんなの観るの、やめようかな。たまたま観たデス声の回は衝撃だったけど
とパソコン画面をスクロールし、カーソルをバツの所に持って行きページを閉じようとした。
が、次の瞬間息を飲んだ。
美来
画面には肌色の部分にモザイクがかけられていた。
美来
でもやはり気になる。
真顔のままのラミーは、毛玉だらけの黒いスウェットパンツを履き、何事もなかったかのように次の質問を読むため、カサカサ! と音を立てA4用紙を再び手にした。
ラミー
どう答えるのかなと美来は興味が湧き、動画にくぎ付けになった。
ラミー
美来
美来は吹いてしまった。じゃあなんで『ラミーの一生懸命』というチャンネル名なのか。
続けてラミーが話した。
ラミー
美来は、なるほど、としっくり来た。
嫌なことは基本的にやらない美来である。好きなことを達成させるためのちょっと嫌なことなら頑張るけど、わかんないというまで気持ちがもつれると、面倒なので辞めるのだ。
次の質問は『ラミーさんの趣味はなんでしょうね』だった。
ラミー
美来
自分と趣味が一緒だなということよりも、このニヒリストのような偏屈男が、ちょっぴり温もりのある己を語った姿勢に対し、美来は心が動いたのだ。
その日の締めくくりももちろん
音楽隊
番組に似合わないハッピーな曲調。
***
そしてラミーのチャンネルが癖になった3週目から半年経過した今も、美来は動画を観続けている。
――――今日はどんな『一生懸命』だろ? ウフフ
定刻の19時半。パジャマに着替え光の輪を湛えている黒髪を梳かし、今か今かと動画のUPを待つ美来。
始まった。
ラミー
暗い! 7月の宵の薄暗さなど明るい、明るい。そんなものでは追い付かない深淵だ。ミッドナイトブルー。なんておどろおどろしい挨拶だろう。これなら黙って本編を始めたほうがマシなのに。
ラミー
棒読みだ。なんで。
あ! それもそのはずか。より一層暗さを増している理由は、今日の動画タイトルに書いてあるこれが原因ね。
『ラミーは一生懸命、活動休止します』
美来
視聴者が皆一斉にコメントを書き始める。
ラミーのファン
ラミーのファン
ラミーのファン
さすが登録者数50万人。皆心を痛めている。コメントは次から次へと綴られて行く。いったいラミーになにがあったというのか。
ラミー
驚いているうちの1人、美来は目を丸くして耳をそばだてパソコン画面とにらめっこだ。
ラミー
ブチッ。
まるで、喧嘩の電話で一方的に相手から電話を切られるみたいに動画は突如として終わった。
いつもの「♪ラー、ラ~、ラミ~、ラミ~。ラミ~はいつも一生懸命。フッフフー」のエンディングテーマはなかった。
美来
毎週土曜日の美来のお楽しみが儚くもたった今、消えてしまった。
***
今日はスタジオ練習。そう、土曜日! ラミーがいなくなった土曜日!
ハスタ
ロックバンド・美来来のリーダーであるハスタが、1曲演奏したところで心配そうに声を掛けて来た。
美来
辰
とギターの辰。
町木
ベーシストの町木が言う。
美来
ハスタ
美来
時計草こと美来はスタジオを出た後泣きそうになった。 本当は熱なんかない。
ラミーの動画、面白かったな。もう観れないなんて淋し過ぎる……。でも、ラミーは今から幸せを掴むんだよね。彼の幸せを祈るしかない
もう、もう美来の気持ちはいわゆる『推し』を軽く飛び越え『本気』かもしれない。本人は気づいていないらしいが。
気晴らしに80年代ジャパニーズコアのアナログ盤でも買ってか~えろっと
美来はいつもの中古レコードショップへ立ち寄った。
大切にレコードジャケットを掻き分け宝物探し。
わ! 超レアもの発見っ
とジャケットに手を伸ばした時、美来と同時にそのレコードを掴んだ男性の手が。
ハッとし
美来
と顔を上げた美来。
美来
驚いて両掌が前面を向いた。
ラミー
ピンク色のウルフカット、鼻ピアス、魚の死んだような目。
ラミーじゃん!
美来が感動に打ち震えていると、ラミーは美来にすぐ
ラミー
と手に取り差し出して来た。
美来
ラミー
男性はバツが悪そうな顔をした。
そうだよな
とその時美来は思った。
50万人から求められる人気者だもの。ゴシップ厳禁だよね。あたし、女性だし
美来
美来は立ち去ろうとした。
ラミー
フツーじゃん、ラミー。フツーの人。意外
美来
美来はとどまり、瞳を見た。ラミーがなにを望んでいるのかわからないから。
今魚の死んでるような目じゃない。でもこの人、ラミーよね?
ラミー
美来
言い当てられ、なんとなく逃げたいような気分に陥る美来。
ラミー
美来
美来はなんとなく恥ずかしい。なんで?
あたしってもしかして!
ラミー
レコードを持ちレジに向かうラミー。
美来
すぐに美来の所に戻って来た。
ラミー
美来
美来が質問するまなく店を出て行こうとするラミー。
慌てて追いかける。
店先のクスノキの木陰のもと、自分へ追いついた美来へレコードを差し出し
ラミー
とラミーが言う。
美来
戸惑いを隠せない美来。
ラミーもそうであるらしい。
ラミー
ギャ、ギャップよ。どうよ。なにゆえ?