さく、さく、さく。
月に照らされて白く光る砂浜の砂粒が、私の足裏に纏わりつきながら軽快な音を立てる。
そのさらさらした感触が指の間を通り、場違いながら心地よさを感じた。
波打ち際までたどり着き、そのままちゃぷちゃぷと海へと入っていく。
先ほど飲んだ睡眠薬が効いてきたようだ、ひどい眠気が私を包む。
…後は目を瞑って、自然に任せるだけ。
膨れ上がった体躯を出来る限り縮こませてさめざめと泣く女性の話を聞き、神妙に頷く。
ここは「自死界」。
自ら命を絶つ選択をしたもの、今際の際に命を諦めたものの魂が辿り着く
殆ど陽の光の当たらない、陰鬱な世界。
かく言う僕も、亡くなった恋人の居ない世界に絶望し、後を追ったここの住人だ。
永遠にも感じられる時間をこの世界で過ごす僕たち。
気が狂いそうになるほどに変化のない日々を、僕は他の自死者との対話でやり過ごす。
僕の言葉に、嗚咽を漏らしながらこくこくと頷く彼女に背を向け
果てがどこにあるのすらもわからない、鬱蒼と茂る木々をかき分けて次の自死者を探し始めた。
#TELLER文芸部 ベロニカさん案
テーマ:裸足 追加お題:白
コメント
5件
とある本で「綺麗に死ぬなんて理想は無理だ」というような言葉があったのを思い出しました。綺麗に死にたくて入水した女性も、また聞き役も恋人を追いかけてきたはずなのに、という「上手くいかない」人間らしさがでていてよかったです。
本当の自由を手に入れるためには、生きるしかないのかも知れませんね。 生きているから1人になりたい時もあるし、自由も欲しい。生きるって、本当に難しい事ですね💦