さく、さく、さく。
月に照らされて白く光る砂浜の砂粒が、私の足裏に纏わりつきながら軽快な音を立てる。
そのさらさらした感触が指の間を通り、場違いながら心地よさを感じた。
ふふ、なんだか子供の頃を思い出すな
…あの時はよかった
「あそぼ」「いいよ」で、公園で一緒になった見ず知らずの子達とすぐに遊べたんだから
大人は子供とは打って変わって自分勝手。
何が気に障ったのかわからないけれど、ある日から因縁をつけられる様になっちゃって
「辛気臭い顔を見せるな」って毎日のように怒られ、バカにされ…
「アットホームな職場」とか言うけれど、私はどうも家族とはみなされてなかったみたい
そんなに私の顔を見たくないなら、お望み通りにしてやるわよ
波打ち際までたどり着き、そのままちゃぷちゃぷと海へと入っていく。
このまま海を漂っていって、魚に食べられて
骨だけになって海に沈んでしまいたいな
そうしたら、痛みも悲しみも怒りも感じなくなる
んで、風化して細かくなって…
ずっと未来、には
海岸の砂に、混じって…
先ほど飲んだ睡眠薬が効いてきたようだ、ひどい眠気が私を包む。
…後は目を瞑って、自然に任せるだけ。
…そしてわたしは、居なくなるの
‥でも、現実は甘くなかった
水死体って腐る過程で、ガスが体に溜まるのね
そのガスと吸った水分のせいで、私の体は醜くぶくぶく膨らんで
よりによって海水浴客のよく来る海岸に打ち上げられちゃったの
目撃者には汚物を見る様な目で見られて
遺体を回収される前に撮られた写真は、グロ画像で有名なサイトに上げられて
今でも好き者たちに興味本位で見られ続けてる
人に見られたくなかった私にとって、これ以上に屈辱的なことってあると思う?
…うん、辛いね
膨れ上がった体躯を出来る限り縮こませてさめざめと泣く女性の話を聞き、神妙に頷く。
ここは「自死界」。
自ら命を絶つ選択をしたもの、今際の際に命を諦めたものの魂が辿り着く
殆ど陽の光の当たらない、陰鬱な世界。
かく言う僕も、亡くなった恋人の居ない世界に絶望し、後を追ったここの住人だ。
永遠にも感じられる時間をこの世界で過ごす僕たち。
気が狂いそうになるほどに変化のない日々を、僕は他の自死者との対話でやり過ごす。
…話してくれてありがとう
見られるのも辛いよね、僕はもう行くから
僕の言葉に、嗚咽を漏らしながらこくこくと頷く彼女に背を向け
果てがどこにあるのすらもわからない、鬱蒼と茂る木々をかき分けて次の自死者を探し始めた。
#TELLER文芸部 ベロニカさん案
テーマ:裸足 追加お題:白