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# 観測記録
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**observation record — remastered**
これは記録です。
誰かが見ています。
誰かが見られています。
その二つの境界について、
この巻では、まだ曖昧にしておきます。
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## 001 ——日付不明
左手の小指の爪が、半分剥がれている。
いつ剥がれたのか、覚えていない。
痛みはない。痛かったのかもしれないが、覚えていない。
彼を見つけたのは、その爪を見つめていた夜だった。
深夜3時。
部屋は暗かった。
モニターの青白い光だけが、私の左手を照らしていた。
彼が映った。
声が聞こえた。
爪のことを、忘れた。
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## 002 ——日付不明
218万。
最初にその数字を見た時、何も感じなかった。
数字でしかなかった。
動画は27分だった。
ゲームをしていた。
笑っていた。
27分が終わった。
もう一度再生した。
その夜、私は同じ動画を7回見た。
左手の爪には、触れなかった。
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## 003 ——翌日?
347本。
彼が7年間で作った、全ての動画。
私は最初の動画から順番に見始めた。
17本目。
彼が初めて言った。
彼
7年前の言葉を、今、受け取った。
```
// この言葉は私に向けられていない。
// 7年前の、誰かに向けられた言葉だ。
// でも——私は受け取った。
// 受け取ってしまった。
```
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**// 外部ノイズ · 発信源不明**
> ごはん、できたよ。
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## 004 ——█日後
347本を見終わった。
何日かかったか分からない。
眠ったのか分からない。
食べたのか分からない。
見終わった瞬間、私は——
また最初から、再生した。
```
// 仕事があった。
// 友人がいた。
// 名前があった。
// でも——
// それらを最後に思い出したのは、いつだっただろう。
```
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## 005 ——季節不明
季節が変わっていた。
窓の外が白かった。雪か、曇りか、分からなかった。
窓を開けていないから。
彼がライブ配信をしていた。
私はコメントを打った。
???
送信した。
流れた。
彼が——
彼
私の言葉が。
彼の声になった。
彼の口から、出た。
左手が震えた。
小指の爪が、完全に剥がれた。
キーボードの上に落ちた。
拾わなかった。
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## 006 ——不明
私が求めていたものが、これだったのか。
見られること。
認識されること。
いる
と知ってもらうこと。
でも——一度読まれたら、満たされたか?
満たされていない。
全然足りない。
```
// コメントを読んでもらっても足りない。
// 名前を呼んでもらっても足りない。
// 会っても足りない。
// 何をしても足りない。
// 私が本当に求めているのは——
```
```
[記録006 · 後半部 · 読み込み不可]
該当データは破損しています。
理由:███████████████████████████████████
次の記録へ移行します。
```
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## 007 ——数年後
彼は変わらず、動画を上げ続けた。
100万人を超えた。
150万人を超えた。
200万人を超えた。
私は——変わらず、その中の1人だった。
彼が動画で言った。
???
その一言で、私は思い出した。
彼には、私の知らない時間がある。
私の見えない部屋で、誰かと話している。
私の見えない夜に、眠っている。
私の見えない朝に、目を覚ましている。
当たり前のことだった。
でも私は——それを、忘れていた。
左手を見た。
小指の爪は、まだ生えてきていなかった。
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## 008 ——消失
彼が、消えた。
何も言わずに。
1週間。
1ヶ月。
半年。
1年。
更新がない。
声がない。
顔がない。
私は毎日、チャンネルを開いた。
更新がないと分かっていても。
彼の顔を見るために。過去の動画を再生するために。
彼
何百回も聞いた言葉を、また聞いた。
1年半が経った。
彼は戻らなかった。
左手の小指を見た。
爪は生えてきていた。でも、形が歪んでいた。
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## 009 ——帰還
彼が、戻ってきた。
新しい動画。
サムネイルに、彼の顔。
少し痩せていた。
髪が伸びていた。
彼
それだけだった。
説明はなかった。
私は——
泣いていた。
画面の前で。
一人で。
声を出さずに。
```
// 違う。
// 彼は「私を」置いていったのではない。
// 彼は私を知らない。
// 私が1年半待っていたことを知らない。
// 彼は、自分の理由で消えて、自分の理由で戻った。
// 私は——関係ない。
```
それでも、嬉しかった。
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## 010 ——変化
彼は変わっていった。
コラボを始めた。
他の配信者と。
大会に出た。
イベントに出た。
7年間、一人だった彼が。
外に出てきた。
嬉しかった。
彼が楽しそうで。
怖かった。
彼が変わっていくことが。
私の知っている彼が、私の知らない彼になっていく。
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## 011 ——彼女
彼女が、現れた。
コラボ相手の中の一人。
女性。
彼と彼女が話している。
彼と彼女が笑っている。
彼が、彼女の名前を呼んでいる。
正直に書く。
私は——彼女を憎んだ。
彼に触れられる彼女を。
彼に名前を呼ばれる彼女を。
彼の隣にいられる彼女を。
羨んで、妬んで、気づいたら——
憎んでいた。
```
// これが私の本性だ。
// 私は、美しいファンでいたかった。
// でも——私の中には、これがある。
```
左手の小指の爪を、噛んだ。
歪んだ形の爪を、歯で削った。
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## 012 ——深夜
彼女の配信を開いた。
コメント欄に、打ち込んだ。
???
送信した。流れた。消えた。
???
消えた。
???
送信してから、手が震えた。
???
最後の言葉は、誰に向けたものだったのか。
彼女に?
彼に?
自分に?
それとも——
左手を見た。
小指の爪が、また剥がれかけていた。
血が滲んでいた。
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あなたは今、この記録を読んでいる。
そのことだけを、確認しておく。
この先については、まだ書かない。
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## 013 ——鏡
鏡を、見た。
私の顔が映っていた。
知らない顔だった。
目の下に隈があった。
頬がこけていた。
唇が割れていた。
私は——誰だ?
左手を上げた。
鏡の中の私も、左手を上げた。
小指の爪が、なかった。
血が乾いていた。
鏡の中の私は——
小指を、口に入れた。
私は、入れていなかった。
```
// 気のせいだ。
// 疲れている。
// 鏡は正確に映す。
// 鏡は——
```
```
[記録013 · 後半部 · 読み込み不可]
該当データは████████████████████████
次の記録へ移行します。
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## 014 ——
私は、彼を見ることで存在してきた。
ことができた。
でも——それは同時に。
私自身を消していくことだった。
彼を見るほど、私は私でなくなっていった。
今、この記録を書いている私は——誰だ?
7年前の私?
1年半待った私?
たすけて
と打った私?
鏡の前に立った私?
それとも——
全部が混ざった、名前のない何か?
???
分からない。
分からないまま、書いている。
書くことでしか、私がいた証明ができないから。
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**私は、見ることでしか存在できない。**
だから——見続ける。
たとえそれが、私を消すとしても。
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【第1巻 了】
【第2巻へ続く】
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#### 残された問い
- 左手の小指の爪は、いつから剥がれていたのか。
- 鏡の中の「私」は、なぜ別の動きをしたのか。
まさるん
は、誰が発信したのか。
- 記録006と013で消えたデータは何か。
-
は、本当に一人なのか。
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`observation_record_remastered · vol.1 · fin`
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通話
11:45:14
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まさるん