草薙理解
……〜ッ
草薙理解
何をしている理解……!
彼は草薙理解。 秩序のカリスマで、このハウスの風紀委員を自称する。本来なら今の時間は、公園で挨拶回りをしているはずだった。
しかし、書店を飛び出し真っ直ぐ家へ帰ってきてしまった。女性の手に触れ、酷く動揺したのだ。
あの女性は、彼も以前から気にかけていた方だった。 喫茶店で小説を読む姿を見る度に“素晴らしいご趣味をお持ちだ……”と、本人も無意識のうちに秩序をチャージしていた。
草薙理解
……
“ご淑女のお手に触れてしまった”という罪悪感に苛まれた理解は、悶々とその事について悩み続けていた。
草薙理解
どう謝罪するべきだろうか……。
翌週、書店にて
私
あ……
草薙理解
!!
例のお方とまた出くわした。 お互い目が合い、つい肩を揺らしてしまった。
私
……先日は、すみませんでした。
草薙理解
いっ⤴︎ィえ、ゴホン、こちらこそ……不注意でした。
手が触れただけだよね?と思いつつも、互いに丁寧に謝る。この方、目が合わないんだよな……。
沈黙が流れる中、空気を割り切るように声を発した。
私
あ、あのっ
草薙理解
は、ハイ!?
私
日本文学の本、お好きですか……?
草薙理解
に、ニホンブンガク!?あ、日本文……
草薙理解
は、はい、よく読みますッ
私
本当ですか!私も好きでよく読むんです!!
私
同世代で好きな方あまり居らっしゃらないので、嬉しいです……!
草薙理解
ぇあ、ハハ……!
耳まで真っ赤にしながらしどろもどろ応答する理解。 心の中は騒ぎ立てまくっていた。
草薙理解
(落ち着け理解!落ち着くんだ理解!!)
草薙理解
(お相手の言葉を聞き逃すなぞ、ご淑女に失礼だ!)
草薙理解
(しっかりと耳を傾けよ!聞き逃すな理解!!)
私
先日も、島崎藤村さんの『破戒』をお手になさっていましたよね?
草薙理解
〜っソ、そそ、そうでしたねッ!
私
日本が誇る素晴らしい文豪の方々…紡ぐ言葉の一つ一つが美しくて、栞を使う間もなく読み切ってしまうんです…!
草薙理解
……!!
草薙理解
ま、眩い……
私
えっ?
草薙理解
っえ?!あ、し、失礼しました!!!!
また行ってしまった、女性慣れしていないのかな……?
競歩の世界大会で優勝してしまいそうなフォームで去る彼の背中を見届ける。
私
……眩い?