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ある朝、美咲は静かに眠るように旅立った。
誰にも知られないように、最後まで微笑みを残して。
数日後、雨が降った。
璃子は傘も差さず、あの日と同じ紫陽花の小径を歩いた。
紫の花々は雨に濡れ、鮮やかに輝いている。
耳の奥で、確かにあの鼻歌が聞こえた。
振り向けば、美咲がそこにいる気がした。
でも次の瞬間には、雨粒とともに消えてしまう。
璃子は立ち止まり、空を仰いだ。
涙と雨が頬を流れ落ちる。
璃子
その言葉は雨音にかき消された。 けれど璃子の心には確かに届いていた。
――紫陽花の雨の下、二人だけの記憶が永遠に刻まれていた。