テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
息が出来なくなるような圧迫感から解放された時、目前に広がっていたのは、深い、藍色の闇だった。 あまりに唐突に訪れたそれに、思わず手元を確認する。 視界に映るぼんやりとした手の輪郭が、孤独を認識させる。 気持ちが酷く不安定になる。 嗚咽のように漏らした息が、中途半端な透明色となって、藍色の空を不自然に染める。
??
(ちゃんと慣れなくちゃ)
自分は、そろそろ死ぬのだろう。 だから、あの人に顔向け出来るようにならないといけない。
(僕には出来ないかもしれない)
今はただ、どうすれば良いのか分からない。
(いつも、貴方は道を示してくれた)
その貴方も、今は居ない。 何も無いせいでただっ広く見える石レンガの硬い道を、暫く歩いた。 前夜の雪で湿った石段に、腰を掛ける。 冬の空気に触れて、冷たかった。 残酷な程に温かみの無いその温度が、衣服を伝ってじんわりと広がっていく。
不意に、闇を切り裂く光が見えた。 いつの間にか、重く深い藍色の空の縁が、燃える炎のような茜色に変わっている。 空が透き通るような群青色に染まった時、無造作に散りばめられた星々は、髪を梳くような滑らかさで、姿を消していく。 石レンガの通りも、灰色に廃れた建物でさえも、白い光に抗うことは叶わない。 それはまるで、世界が色を失っているかのようだった。 ただ、自分だけが圧倒的な光の強さに立ち竦んでいる。
(また、置いていかれる)
ぬるく、漠然とした、そういう感覚。 誰か、誰か。 自分は誰に、何を求めるのだろう。 それすら、分からない。
寒い、淋しい、夜明けだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!