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東の空が、夜明け前の紫雲を纏う。
予想した通り、キャラバンの足が動き出すよりも早く
地平の先から近づく、いくつかの砂塵が見えた。
ルティ
ルティ
状況の変化を感じたのか、眠り姫が目を覚ます。
ルティ
ルティ
目に映るのは、ルティの言葉のとおりの状況だった。
開けた視界の中に、馬に乗った荒くれどもが複数。
そしてその背後を、歪で巨大な球形の砂嵐が追従している。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティは〈鑑定〉の技能で、砂嵐の正体を測ったらしい。
野盗の狙いはシンプルだ。
砂暴竜は砂嵐を纏う魔物。
それを誘導してキャラバンを襲わせ、混乱に乗じて略奪するつもりなのだろう。
ルティ
ルティの提案はもっともだ。
ただ、キャラバンはまだ動ける状況にない。
そうなると、残された選択肢は限られる。
ルティ
ルティ
ルティ
勝てる可能性は、高くはないだろう。
そして、護りながら戦うことはできそうにない。
だから、ルティを退避させて前に出る。
目標は砂暴竜。
それさえ倒せば、野盗の目論見は崩れる。
野盗
砂暴竜を誘導してきた野盗が、品のないセリフを吐きながら横を走り抜けていく。
三下に構っている時間はない。
砂嵐によって視界が狭まり、頬を砂が打ち、乾いた風を感じる。
巻き上げられた粒子がぶつかり合い、場に、雷気が溢れていることを感じた。
僅かな時間の後、眼前に、砂暴竜の影が現れる。
一言で言えば、それは巨大な蛇に見えた。
もたげた頭の位置ははるか高所にあり
小さな城の尖塔を見上げているような感覚を覚え
更にその胴は太く、樹齢数百年の老木を思わせた。
その瞳にあるのは、怒りだった。
野盗にテリトリーを犯されたのが、余程気に食わなかったのだろう。
ただ、今のこの状況下では、それが有り難くすら思えた。
大きく口を開け、それは正面から真っ直ぐに突っ込んでくる。
初めて戦う相手のはずだが、その動きは手に取るように分かった。
口を開けると正面が見えない。
それが、ヘビ型の魔物の性だ。
僅かに横に動けば、その捕食行動を回避することは容易い。
そして、首を伸びきったところで、その眼の隙間に剣を突き立てた。
相手は竜と称される魔物。
この程度のダメージで動きが止まるわけもなく
だが、眼に異物を差し込まれて痛みを感じないわけもなく
剣を突き刺したまま仰け反り、その首を大きくもたげる。
その瞬間、勝利を確信した。
左手を、蛇の目に刺さる剣に向け
CAST A SPELL
ささやかな雷撃魔法が剣に触れて弾け
一瞬の後、そこに本物の雷が突き刺さった。
砂嵐は嵐の一種。その内には雷気を纏う。
そこに放電経路を作れば、容易に雷を落とすことができる。
光が爆ぜ、肉が焦げる匂いが漂い
砂暴竜の巨体が倒れ、吹き荒れていた砂嵐が止まった
野盗
砂暴竜の背後に潜んでいたのだろう
姿を現した野盗の下っ端が、悲鳴を上げる。
野盗
野盗
野盗の戦意は低下している。
予備の短刀を抜き、戦闘を継続――
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野盗
不意に背後から、声が聞こえた。
ルティ
そこに見えたのは、ルティと、ルティを捕らえる男の姿。
ルティ
二重三重に手が込んでいる。
魔物すらも陽動で、こんな奥の手を残していたらしい。
野盗
野盗
それは、捻りのない要求だった。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティは気丈に、そう言い放つ。
ルティ
ルティ
ルティ
声は、聞こえていた。
この状況を、昔どこかで、目にした気がする。
あのときは……。
あのときの選択は……。
武器を手放して、大切なものを護ったはずだ。
ルティ
ルティは、泣きそうな顔をしていた。
野盗
野盗
野盗
野盗
男が指示を出し、下っ端たちが周囲を取り囲んでいく。
不自然なくらいに思考はクリアで、感情が、ひどく不安定だった。
世界の動きがひどくゆっくりに見え、心音は、いやに早かった。
有象無象の影の中に、ルティの姿だけが、はっきりと見えていた。
守るものは見えていた。
滅ぼすものはわかっていた。
野盗
野盗
野盗
野盗
この場のすべてのヒトの声が、聞こえていた。
この場のすべてのヒトの動きが、見えていた。
野盗
野盗
ルティ
ルティが男と言葉を交わす。
野盗
野盗
野盗
それは、この状況に綻びを生じさせた。
ルティ
三下に用はなかった。
狙いは、ルティに危害を加える男、ただひとり。
ルティ
野盗
野盗
慌てた声。
あまりにも鈍い反応に、呆れを覚えた。
一撃で、急所を穿つ。
野盗
野盗
それが、男の最後の言葉になった。
敵が、散っていく。
幹部をやられて組織の体を失えば、あとはただの烏合。
追い打ちを、かけるまでもない。
だから今は
ただ、倒れる事を選択した。
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???
誰かの声が、聞こえた。
???
???
???
薄れる意識の中で、誰かの声を、聞いた気がした。
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気を、失っていたらしい。
馬車の荷台に寝かされているようだ。
ルティ
ルティ
傍にはルティの姿。
どうやら、無事だったらしい。
そして気分は、あまり良くはない。
交戦中の記憶に、妙な霞がかかっている。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティに尋ねると、驚いた顔をされる。
思い出せるのは、あの一言ぐらいだが……。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
それを口にすると、ルティは動揺を顕にする。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ