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或る夏の日 月の見える河原にて

梶井基次郎

……マーサ

梶井基次郎

本当に……こんなので宇宙に行くつもり?

マーサ

こんなの、だと?

マーサ

ふーむ、確かに見てくれはボロそのものだな!

梶井基次郎

そりゃそうだよ……

梶井基次郎

土管で出来た本体に車のエンジンとか変な小窓とか……

梶井基次郎

……巫山戯てる?

マーサ

む!

マーサ

そういえばお前には私の異能を見せていなかったな!

マーサ

異能力……「檸檬月夜の宇宙船」!

マーサ

お前たちは……ホンモノの宇宙船だ!

マーサがそう高らかに宣言すると 二人の作ったロケットは光に包まれた

梶井基次郎

……!?

梶井が目を開けると

そこにあったのは紛れもなく… 立派な本物のロケットであった

梶井基次郎

なんだこれ……すごい!凄いよ!

梶井基次郎

雑誌で見たのとそっくりそのまま……というよりもっと立派に見える!

梶井基次郎

……相変わらず小さいけど

マーサ

ふふん、どうだ!凄いだろう!

マーサ

私の異能は「私が命ずることにより物体を別のものだと思い込ませる」力だ!

マーサ

有り体にいえば、あるモノを姿かたちの似通ったモノに変える力だな

マーサ

もっとも……思い込ませるだけだから当人が思い違いに気づけば効果はなくなるがな

梶井基次郎

……何が何やら……

梶井基次郎

もっとこう、そういう感覚的な話じゃなく論理立てて言ってくれない?

マーサ

む、これも我らの理論なのだが……

マーサ

世界は量子的揺らぎが常に生じるものだから、そこの隙間をちょいと突いて本来観測されうる確率が最も高い事象とは別の事象を引き摺り出しているのだ

マーサ

分かったか?

梶井基次郎

なるほど、それなら分かりやすいや

梶井基次郎

……って、待って!

マーサ

なんだ、疑問でもあるなら答えてやろう!

梶井基次郎

違う……

梶井基次郎

ロケットが完成したってことは、マーサは宇宙に帰っていくんだろ!?

梶井基次郎

そんなの嫌だ!

マーサ

……基次郎、すまないが私の宇宙船は私の規格に合わせて作ったものだ

マーサ

地球人を乗せて無事に母星へ連れ帰れる保証はない

梶井基次郎

そんなの確かめてみなきゃ分かんないじゃないか!僕も乗せてくれたっていいだろ!?

梶井基次郎

マーサ……本当のこと言うと、ずっと失敗しちゃえばいいと思ってた

梶井基次郎

君がいない世界なんて……僕にはもう耐えられそうにない

梶井基次郎

僕を連れて行ってよ、こんな狭い星抜け出して、君の住む理想郷に……

マーサ

基次郎……

マーサ

……泣かないでくれ、基次郎。私も悲しくなってしまう……それに、何も永遠の別れというわけでもないのだからそう悲観することもないぞ!

マーサ

私が母星に帰還した暁には、お前を我が宇宙軍の研究者として……いや、私の側近……あるいは伴侶だとか!?

マーサ

そう、とにかくお前の望むお前に相応しい地位を授けてやる!

マーサ

お前の星と私の星は時間の流れが違うから、いつ帰ってくるかは約束できないが……

マーサ

いつか必ずお前を迎えに来る!必ずだ!

梶井基次郎

……本当に?

マーサ

本当だとも!私は宇宙大元帥だからな!約束は必ず守る!

梶井基次郎

……向こうで別の誰かを見つけて、僕のことを忘れちゃ嫌ですよ

マーサ

お前のような愉快で優秀な男を忘れるものか!

マーサ

……よし、私が地球に不在の間、お前には銀河帝国国民としてこの星の管理を命ずる!

マーサ

基次郎、お前は今日から宇宙大元帥直々に指名された銀河帝国外交大使地球特派員となるのだ!

マーサ

その証に……

マーサ

よし、これをやろう!

マーサは自分の嵌めていた指輪をひとつ、 梶井に差し出した

梶井基次郎

……これは?

マーサ

私の家宝のひとつ、銀河系模型入りの指輪だ

マーサ

これを紛失したことが知れたら元老院はさぞ怒るだろう……

マーサ

これをお前に託す!

梶井基次郎

なんか安っぽい指輪に見えるけど

マーサ

……地球人からしたらそう見えるだけだ!
……きっと

マーサ

ともかく!私は将来必ずこれを回収しに地球へ来る!それまでお前も、指輪をなくしたり体を壊したりするんじゃないぞ!

そう言うと、マーサは宇宙船に乗り込んだ

梶井基次郎

……待ってよ!

梶井基次郎

こんなのいらない、僕は君にそばに居てほしいんだ!

マーサ

制限時間いっぱい、ヨーソロー!

マーサ

私が長期不在であれば銀河系に支障が出るからな……お前を連れていけないのが非常に心残りだ!

梶井基次郎

マーサ!絶対に……迎えに来てくれよ!

梶井基次郎

来なかったらこんな宇宙ぶっ壊してやるからな!

マーサ

……ああ、必ず迎えに来るともさ!

マーサ

私を信じるがいい!

梶井基次郎

マーサ……また会おうね

マーサ

ああ……また会おう!

マーサを乗せた宇宙船は 月の光る方へ飛んでいった

檸檬のような月が浮かぶ快晴の空

見上げる梶井に一粒の雫が降ってきた

梶井基次郎

……マーサ……さよなら、僕の宇宙大元帥

それから数ヶ月後

梶井基次郎

(マーサが行ってしまったからしばらく経つけど……)

梶井基次郎

(未だに夏の夢じゃないかと思ってしまいそうだ)

梶井基次郎

(でも、この指輪は確かに本物だし……彼女がここにいたことはきっと本当だ)

コツン、と梶井の頭に何か当たった

梶井基次郎

いてっ……

同級生

よっしゃヒット〜www

同級生

おっ!こっち向くか?

梶井基次郎

なんだよ……

振り返った梶井の顔めがけて牛乳瓶が飛んできた

梶井基次郎

うわっ!?

同級生

は〜〜〜つまんね

同級生

いや避けるとかおもんな(わら)

同級生

ワンモアいっとく?

梶井基次郎

……うっざ……

梶井基次郎

(そのうち収まるだろ……)

梶井基次郎

(アイツら、こういうつまんない事しか娯楽がなくて可哀想だな……)

梶井基次郎

(……マーサがいたら良かったのに)

さらに一年後

梶井基次郎

……僕の人生、どうしてこうも上手くいかないんだろ

梶井基次郎

宇宙研究とかに携わればマーサの手がかりが掴めるかもしれないのに……

梶井基次郎

……働く気がないなら大学行く金は出さないって……

梶井基次郎

……いいさ、僕一人でやってやる

梶井基次郎

僕は宇宙大元帥に認められた地球人なんだぞ!

梶井基次郎

……そうだよね、マーサ?

梶井基次郎

……はぁ

梶井基次郎

いつになったら……君は来てくれるんだい?

ヨコハマに来た女の子

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