一人暮らしをするために借りたアパートには

先住民がいた

今日も何も答えてくれない

ここに住み始めて１ヶ月

彼女が現れたのは

ほんの２週間前

彼女はテレビのリモコンを指差す

彼女のほっぺが膨れた

「さわれないの知ってるくせに」

そう言っている気がした

そう、彼女は

半透明人間なのだ

つまり、オバケである

「君には追い出せっこないよー」

と言わんばかりの顔で彼女は手を振る

彼女を残して学校に向かう

彼女の顔を見たらそう思った

一週間後

めいというのは透明のめいからきてる

名前がないのが不便だったのだ

くるくるしながら自分の体を確認する

めいもそれに気がついたみたいで

露骨に落ち込んでいる

さらに１ヶ月後

めいの体はもうほとんど消えていた

２ヶ月と少し一緒にいたおかげで

めいの伝えたいことが大体わかるようになった

同時に

惹かれてしまった…

めいが俺を睨んだ

「無責任なこと言わないで」

「こっちこそごめん」

めいが頷いたのでテレビをつける

そこには信じられない光景が写っていた

俺は外に飛び出す

パトカーが何台か止まっていた

めい…芽衣子は体を震わせていた

目一杯首を横にする

きっと怖くて仕方ないのだろう…

連続で流れる報道に

被害者の顔が写った

それはやっぱりめいの写真で…

容疑者は俺の丁度真上に住む男だった…

毎朝顔を合わせていた

そういえばちょうど４ヶ月前から

姿を見なくなった…

俺の手の上にめいの手を置いて

「君のせいじゃない」

俺の目をまっすぐに見て彼女は首を振る

「２ヶ月、死ぬ程怖かった」

「ずっとあの人に捕まってた」

「でも死んだ後の２ヶ月間は」

「死ぬほど楽しかったの」

「まぁ死んでたんだけどね」

俺は形だけでもめいを抱きしめた

彼女が抱き返してくれた

温もりが、確かにあった気がした…

出て行ってくれることを

何よりも望んだのは俺なのに…

「出て行ってやるぞっ」

得意げな顔でそう言う

彼女は困った顔をする

彼女は俺に手を振る

俺も、振り返した

「さよなら！！！」

・

さよなら…

・

・

・

後から知った

めいは容疑者と婚約していて

２ヶ月間

容疑者に束縛をされていたと言う

参列者を見渡すと

めいと同い年くらいの子は見当たらなかった…

そうか、喋らないんじゃなくて

喋れなかったのか…

この２ヶ月間で

彼女の今までの人生を知れたわけじゃない

でも２ヶ月間は確かに楽しくて

かけがえのないものだった…

棺の中で眠っているめいは

笑うことも泣くこともできない

不謹慎だろうか…

眠ってるめいの顔は何よりも美しかった