誰もいない教室にひとり
自分の机でないのに、その人の机にうつ伏せの状態だった
春の木漏れ日がそよそよと差し込む
外から楽しそうに帰る友達を見た
ひとり、落ち込む彼女の教室は彼女の教室でもなかった
彼女は1年生、この教室は3年生のものだった
明日は、卒業式
もう逢えない「彼」を味わいたかったらしい
彼女は彼の机に再度うつ伏せ、涙を流した
「先輩、好きでした」
そう、呟きながら
彼女は一人で帰る
もう逢えなくなる先輩を堪能したあと、一緒に帰る友達がいる訳でもなく
いい具合に溶けた雪が、角砂糖のような踏み心地をしていた
ゆっくり息を吐いても、白い息は立ち上らず
彼女の哀しみだけが、雲ひとつない青空に溶けていった
交差点
初めて一緒に先輩と帰った時、慌ててたな、とか
住宅街
クリスマスの時あのコンビニであんまん買って貰ったよな、とか
公園では
真夏の暑い時に日陰に隠れるブランコに乗って先輩と共に風をめいっぱい感じたんだよな、とか
先輩との思い出が溢れ出て
彼女は泣いた
ひとり、もう隣に誰かがいる訳ではないのに
交差点で緊張して
コンビニであんまんを買い食いして
ひとり公園でブランコを漕いだ
「彼は年上だから」
もし、付き合ってたとしても
彼女は彼に甘えられない、怖くて
彼に会えなくても
何も言えない
「ウザイやつ」だと思われたくなくて
彼女がだした結果だった
空が七色に色づき出した時
彼女はまだブランコに座っていた
けして遊んではいない
ただ、
先輩との思い出が溢れ出すぎて
思い出が涙と化して溢れただけだ
誰もいない、彼女の隣は
ゆらゆらと、風に揺られていた
同級生でも
きっと話していても
彼女は彼に恋をしていた
でも
彼は好きな人がいた
彼の幼馴染
可愛らしくて、ふわふわのゆるい髪に、柔らかい声
涙をながす彼女にはないものだった
彼女はその幼馴染を羨ましく思うも
けして恨んではいなかった
彼女も一生懸命生きているのだから
私ごときが否定してはいけない、と
雨が降った
まるで泣き止まない彼女を慰めるかのように
雪ではない、久々の雨はしっとり降り
ゆっくり彼女を濡らしていった
それでも彼女は動かなかった
彼との、...先輩との思い出も流れてしまう気がして
更に泣いた
しっとり降る雨は彼女の嗚咽を誤魔化すことなく
ただ、響くだけだった
ふと
どうせ叶わないなら、と
私は男の子になろうと思った
彼のそばにずっと居られるなら
私達、ずっと友達のままで━━━━
彼女...いや、彼はそういった
短い髪に、ゆるいタレ目が特徴の
先輩に、恋する男の娘
もう友達でしかない彼は
ひとり、雨の音と共に
「さようなら、私の初恋」
そう呟いて、1粒の水を流した
〜参考〜
作詞 作曲 倉橋ヨエコ
「友達のうた」
コメント
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哀しい。悲しい。というか、言い回しが綺麗すぎますね。主人公いい人ですね✨
なんでこんなすごいの生み出せるか不思議なんだけど