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………
赤には兄が五人居た。
紫、桃、青、橙、黄
いつだって守ってくれて、笑ってくれて
「赤が一番かわいい」
なんて当たり前のように言ってくれていた。
怒られない。否定されない。傷つけられない
優しさが、常に一つ上から落ちてくる。
何を言っても
紫
桃
橙
___どうして?
赤
赤
赤
赤
気づいてくれない
夕飯、笑い声の中でふと青が言った。
青
皆んな微笑みを浮かべた。
けど、その瞬間、赤の胸の中で何かが崩れた。
変わらないって、褒め言葉じゃなかった。
それはもう
諦めの言葉だったのかな。
夜、トイレの前の廊下で赤は声を殺して泣いた。
泣く理由なんてなかった。
でも、どこにも行き場がないまま愛され続けることが
どうしようもなく苦しかった。
赤
赤
次の日
食卓で紫が
紫
と聞いた。
赤は俯いて、小さく言った
赤
兄たちが静かになった。
たった数秒の沈黙が、地獄のように長く感じた。
桃
赤
赤はうなずくことしかできなかった。
声を出したら泣いてしまうと思ったから。
けれど次の瞬間
誰かの腕が背中に回った。
気づけば皆んなが俺を優しく包み込んでいた。
紫
橙
黄
青
ごめんなさい(皆
赤
堪えていた涙が止まらない。
あぁやっとだ
やっと俺が怖いと感じていたものに気づくことができた__
怖かったのは、誰にも傷つけられていないのに、
優しさだけで壊れてしまう自分自身だった。
壊してきたのは誰かじゃない
''守られること''に甘えてきた自分だったんだ。
でも___
それでも、「戻ってきていい」って抱きしめてくれる場所があること
辛かったら助けてくれる''仲間''がいることを
赤
夜
赤は兄たちの寝息を背に、そっと呟いた
赤
その言葉は誰にも届かなかったけど
どこかで誰かが、きっと微笑んだ気がした。