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朝の通学路
風は冷たいのに、肌に触れている感覚だけが曖昧だった
歩いているはずなのに、 地面を踏む音が自分のものじゃないみたいに遠い
横から友達が話しかけてくる
なぎ
返事はできる いつも通りの会話もできる
だけど、言葉がどこかに 吸い込まれていくような感じがした
教室に着いた途端 視界が一瞬だけノイズのようにざらつく
チリッと走る静電気みたいな違和感
なぎ
瞬きをするといつも通りに戻っている
誰も気づいてない
席につくと、机の端に小さな傷があるのを見つけた
見覚えのない… けれど妙に見覚えがあるような、削れた跡
指先で触れた瞬間、 胸がきゅっと痛んだ
授業が始まる。 黒板の文字はちゃんと見えているのに、 意味が頭に入ってこない
ただ、頭のどこかでずっと誰かの声が響いていた
ー戻ってこいよ。
その声が鮮明すぎて、現実の音が薄くなる
昼休み
窓際に座って外を眺めていると、ふと視界が揺れた
遠くの空に、黒い影がよぎる バイクの音がした気がした
でも、次の瞬間には消えていた
友達が覗き込む
なぎ
その“ぼーっと”が、 自分の意思じゃない気がして怖かった
帰り道
鞄を開けたとき、底の方に何か引っかかった
黒い布の切れ端
こんなもの入れた覚えはない
だけど、触れた瞬間、胸がえぐられるように痛んだ
なぎ
そんな考えが浮かんだ自分に驚いた
なぜそんな発想をしたのかわからないのに、 涙が出そうになった
意味もなく、ただ寂しくて。 ただ誰かの名前を思い出しそうで
でも、思い出せない
夜
布団に入って目を閉じる
眠気が来るたびに胸の奥から声がする
ーいなくなんなよ。
震えるほどリアルな声
夢なのに夢じゃないような
知らないのに誰より知ってるような
そしてまた落ちていく
あの世界へ
あの少年のいる場所へ
その瞬間だけ自分が“生きてる”と思ってしまう
そんな自分がいた