ー玄関ー
えと
…これ、受け取ってくれる?
そう言ってえとさんが差し出したのは、 可愛らしいラッピングに包まれたクッキーだった。
ヒロ
…………
えと
あっ、安心して、全然義理だから
のあ
チョコばっかりでも疲れるでしょ?
のあ
お口直しにでも食べてくださいね
ヒロ
……っ
ヒロ
わかった…ありがとう、
えと
え……
えと
…ちょっとやだ、そんな泣きそうな顔しないでよ…w
えと
私が虐めてるみたいじゃん
ヒロ
ごめん…w
ヒロ
でも、なんか…本当に、
ヒロ
今日で一番嬉しい…
ヒロ
これ、絶対捨てないようにする
ヒロ
大切に食べるね…
のあ
…はい
のあ
そう言ってもらえて嬉しいです( ´▽`)
えと
うんうん、私達全員の手作りだからね〜
えと
…ってことで、はい
えと
うりにもあげる。ちゃんと食べてよね
うり
お、おう…さんきゅ
ヒロ
…うりさんのは、ちゃんとチョコなんだ
ヒロ
よく見てるな〜…
のあ
ヒロさんと違って、全部断ってるの知ってますからねぇ
当の本人はというと、貰った包みを大事そうに抱えて、少し照れくさそうに頬を緩めている。
うり
………
うり
…めっちゃ、美味しそう
うり
ありがとな!
のあ
っ……
のあ
えへへっ…やったぁ、
えと
ミッション達成、だね!
ぱち、とハイタッチの音が響く。
のあさんもえとさんも笑っていて、こっちまで心が澄んでゆく気がした。
えと
は〜…それにしても、すっっっきりした!
のあ
私も…!
のあ
渡せて良かったです!
えと
ほんとほんと
えと
…それじゃ、用も済ませたし
えと
帰ろっか…!
のあ
そうしましょう!
のあ
ヒロさん達も、他の女子が追っかけてくる前に早く帰ったほうが良いですよー
ヒロ
嫌味にしか聞こえないんだけどw
うり
余計なお世話だわw
えと
あははっ!
のあ
モテ男子が何か言ってますねw
えと
ーー!ーーww
のあ
ーーー…
うり
…楽しそうだな
ヒロ
だねぇ…
ヒロ
…でも、よかった
談笑しながら帰路を辿り始めるえとさん達を見送ってから、やっと先程の女子生徒の事を思い出す。
ヒロ
(そうだ、さっきの…!)
ヒロ
………
ヒロ
…あれ?
うり
ん、どうした?
ヒロ
いや、ここに来てた女の子…
ヒロ
どっか行っちゃったみたい…
うり
……別に
うり
良いんじゃないの
ヒロ
え?
うり
だって今のヒロくん、心底嬉しそうな顔してる
うり
気持ち悪いくらいにやけてるもん
うり
…今年のバレンタインは、笑顔で終わっとこうぜ
ヒロ
…………
ヒロ
…あは、
ヒロ
そうかもね…w
うり
そーだよ
うり
ほら、俺らも帰るぞー
ヒロ
うん、!
ーロッカー室ー
女子生徒
………はぁ
女子生徒
逃げてきちゃった…
女子生徒
……仲良しだな、あの人達
女子生徒
…あたしには、そんな人いないけど…
いいなぁ…
***
『これ、灰宮先輩に渡してきてよ』
『良いじゃん、どうせ勉強しかやること無いんでしょ?』
***
自分のものですら無い、高級チョコレートをきゅっと握りしめる。
女子生徒
(先輩に渡っていないのが分かれば、あたしは多分…ハブられる)
女子生徒
(………)
女子生徒
(でも…もう、良いかな)
女子生徒
(あんなの、友達でもなんでも無いし…)
先刻目の当たりにした友情は、今の私とクラスメイトとの間にある縁とは縁遠い。
きっとあれが、『本物』の親友なんだろう。
女子生徒
…………
女子生徒
……ん、
バサッ…
無機質な音を立てて、チョコレートの箱がゴミ袋の中へ滑り落ちる。
女子生徒
…これで、良いんだ
女子生徒
きっと……
女子生徒
…………
女子生徒
……ふふっ、
女子生徒
…あたしも帰ろ…
くるりと踵を返して、ロッカー室を出る。
女子生徒
………
女子生徒
…〜♪
重い鞄を背負っている筈の背中は、いつもよりも軽く感じた。
-to be continued-