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「綺麗だね」 手が届くことのない大空を見上げ、そう呟く彼は一段と儚く綺麗に見えた。 そんな彼に僕はそうだね、と相槌を打つ。すると彼は下を向き歩き出した。 僕は彼の歩幅に合わせ、ついていく。僕はこの時間が一生続いてほしかった。 けれど、そんな願いは叶わず彼の携帯が鳴った。そして彼は足を止め、その電話に応えた。 「うん、分かった」 「今行くね。」 彼の携帯から聞こえる声を僕は聞きたくなかった。前にもこういう事があったから。 女の人の声で「ねぇ、会いたいな」と聞こえた。 でも、彼は僕と遊ぶ予定があるからごめんって断ると思って気にしなかった。 けど、彼は僕より彼女のほうが大事だった。 僕との時間が今から始まるというのに彼は「ごめん、あの子が待ってるから」とだけ言って走り去った。 本当は嫌だったけど、嫌だとか行かないでって言って彼を困らせたくなかった。 だから、僕は彼の為を想い「全然、大丈夫」と心と正反対な事を言った。 でも、もうあの言葉は聞きたくない。行かないでほしい。 「ごめん」 ああ、またか。またあの言葉を言うのか。 「あの子が待ってるから」 ……。 彼はまたあの言葉を言い放った。僕の気持ちには気づいていないからだろう。 僕は数秒下を向いて黙ってしまった。そんな僕に彼は、ただ一言だけ 「もう行くね」 僕は咄嗟にそれだけなんだね、と口に出してしまいそうになった。今すぐ泣き出してしまいそうになった。でも、これだけは言っておかないと。そうじゃないと、いつか絶対後悔することになるから。 「僕より幸せになってね」 なんとか全身から絞り出して彼の目を見て言った。ちゃんと、笑顔で言えただろうか。 泣かずに言えただろうか。僕の彼への気持ちがバレていないだろうか。 「なんだよ、急に」 彼は僕の言葉に少し照れたのか顔の頬が少し紅くなっていた。 そんな顔をする彼に、ずるいよと思いながら僕も少し恥ずかしくなった。 そんなことを感じていると、彼は「またな」と、後ろを向き歩み始めた。 そんな彼の後ろ姿を見て、僕は一言、彼に聞こえるか聞こえないかの声で放った。 「さようなら、僕の好きな人」