美咲
効果音:パリパリ(ポテチを食べる音)

美咲
美咲:「でも『辞めます』って言って、すんなり辞めれるもんなの? その会社」

美咲
美咲:「たまに『揉めた』っていう話とか、聞くじゃん?」

美咲
美咲:「……やっとく?」
(シュッシュッ!とシャドウボクシングの構え)

永良(えいら)
四人:「((((実力行使!?))))」

和代
和代:「実力行使は一旦横に置いておくとして」

歩
歩:(一旦なんだ)

和代
和代:「言い返してやりたい気持ちはあるわよねぇ。ちょっとした意趣返しっていうか」

歩
歩:「それなら言い返すより、法に訴えた方がいいような気がするけど」

美咲
美咲:「法?」

歩
歩:「少なくとも残業代が未払いなのは、証拠さえ揃えば請求できると思う」

永良(えいら)
-言いながら、歩さんが近くにあった紙とペンを手に取り、サラサラと字を書いていく。

<残業の立証に有効なもの>
・タイムカードや勤怠管理システムの記録
・オフィスの入退館記録
・交通系ICカードの乗車記録
・会社のシステムへのアクセス記録
歩
歩:「他にも日記とかも証拠になる可能性はあるけど、かなり細かく書いてないと『主観でしかない』って判断されちゃうから」

美咲
美咲:「タイムカードとか勤怠は、会社から改ざんとかされるんじゃないの?」

歩
歩:「そうだね。だからこの場合はICカードの記録で戦って、相手が『寄り道してただけだろ』って言ってきたら、その足でパソコンの使用ログを抑えるのが一番いいかも」

唯子
唯子:「歩さん、詳しいですね。もしかして法律関係のお仕事を?」

歩
歩:「私がしているのは弁護士さんの補助ですけどね」

歩
歩:「もし訴えるなら、先生紹介できますよ」

和代
和代:「お願いしちゃえば? 永良ちゃん」

永良(えいら)
永良:「……いざとなったら、お願いするかもしれません」

永良(えいら)
永良:「でも、穏便に退職できるのがベストかなって。なんかもう、あの人たちのために自分の体力とかお金とか使うの、勿体ないような気がして」

和代
和代:「それは確かに」

歩
歩:「それなら、作戦を立てません?」

歩
歩:「何か言われても言い返せるようにしておけば、相手が面倒臭がって、素直に未払い賃金とか退職の要望に応えてくれるかも」

和代
和代:「そうしましょう! 変に相手に丸め込まれて仕事辞められないのもよくないし」

<賃金未払いについて>
〇証拠
・電車のICカード(、PCログ)
〇労働組合
→ない。社外の労働組合にも未加入。
〇労働基準監督署に連絡
→職場環境の是正はできるかも。
未払い要求に関する指導をしてもらうのは可能。
会社に復讐するんなら通報もアリ。
永良(えいら)
歩:「これでとりあえず、未払いに関しては一通りかな」

和代
和代:「最悪あれよ、退職代行? 頼めば職場からは逃げられるし――」

永良(えいら)
効果音:ピリリリリリッ!

美咲
美咲:「誰の電話?」

永良(えいら)
永良:「……私です」

永良(えいら)
着信:会社
-その文字を見た瞬間、皆の顔に緊張が走った。

歩
歩:「『会社』、っていう事は……」

永良(えいら)
永良:「……多分、上司です」

永良(えいら)
-自分でも、一気に血の気が引いていくのが分かる。

歩
歩:「えっ、ど、どうする? 出る?」

美咲
美咲:「いいでしょ出なくって。ほらもう切っちゃえば――」

美咲
効果音:ピッ(通話開始音)

美咲
美咲:「あ」

上司
上司:「加納!! 仕事をサボってどういうつもりだ!!」

永良(えいら)
-スマホのスピーカーから、上司の怒鳴り声が響いた。

歩
歩:「(ちょっ、美咲さん! 何で通話ボタン押しちゃったんですか!)」

美咲
美咲:「(いや、普通に間違えちゃって!)」

唯子
唯子:「(ど、どうしたら……)」

和代
和代:「(とりあえずスピーカーにしましょう、聞こえるように)」

和代
効果音:ポチッ(スピーカーをオンにする音)

上司
上司:「昨日だって、俺が君の仕事のしりぬぐいをしてやったのに、謝罪の言葉一つないのか!」

永良(えいら)
-受話器を耳にあてている訳でもないのに、耳にキィンと響くその声に、肩が独りでにビクッと跳ねた。

永良(えいら)
-会社で怒られている時の恐怖が、フラッシュバックする。

永良(えいら)
効果音:ギュッ(手を握り込む)

永良(えいら)
-震える私の手に、温かい手がフワッと重なった。

永良(えいら)
-顔を上げると、和代さんが力強く頷いてくれる。

永良(えいら)
-「私たちがいる」。
-そう言われているような気がした。

永良(えいら)
-周りを見ると、歩さんが自分のスマホで録音アプリを起動している。
-受話器に向かって今にも殴りかかりそうな形相の美咲さんと、少し不安げではあるものの、私を心配してくれている事が目で伝わる唯子さん。

永良(えいら)
永良:(大丈夫。今なら、皆がついてる……!)

永良(えいら)
-私は唇をグッと噛み締め、震える声で口を開いた。

永良(えいら)
永良:「昨日の仕事は、元々係長のものだったじゃないですか」

上司
上司:「はー。まったく何を言うかと思ったら」

上司
上司:「君に任せた時点で君の仕事だろ?」

永良(えいら)
永良:「わ、私は『できる』とは言っていません!」

永良(えいら)
永良:「そもそも終業時間の30分前に渡されて、終わる分量じゃなかったじゃないですか」

上司
上司:「まったく……。仕事ができない奴に限って、分かったような口で自己弁護に走る」

上司
上司:「仕事を始めて半年も経っていない小娘の言う事を、俺より信じる奴がいると思っているのか?」

上司
上司:「そんな事より早く出勤しろ。今ならちょっとのペナルティで許してやる」

永良(えいら)
永良:「ペナルティ……?」

上司
上司:「昼飯抜き……は、いつもの事だな。仕事が遅いから食べてる暇なんて元々ないだろ」

歩
効果音:スッ

永良(えいら)
-歩さんが、無言で作戦会議のメモを私の前に滑らせた。

<労働基準法>
8時間を超える場合は60分以上の休憩が必要。
永良(えいら)
永良:「(……!)」

永良(えいら)
永良:「は、『8時間を超える場合は60分以上の休憩が必要』って、労働基準法で定められています」

上司
上司:「何だぁ? もしかしてネットの情報でも拾ってきたか?」

上司
効果音:ギッ(椅子の背もたれによりかかる音)

上司
上司:「でもそんなの関係ないよ。現場には現場のルールっていうものがある」

永良(えいら)
永良:「そのルールが『仕事ができない人は昼休憩返上で仕事しろ』ですか……?」

永良(えいら)
-私の問いに、電話の向こう側から軽い嘲笑が聞こえてくる。

上司
上司:「ルールっていうか、マナーっていうか、モラルっていうか……こんなのは、社会人の常識だよ?」

上司
上司:「まぁそれも、うち以外に内定取れなかった奴にはちょっと難しいか?」

上司
上司:「仕事もできない・社会常識も知らないじゃあ、他に雇ってくれるところなんてないぞ?」

永良(えいら)
-暗に「他に行くところがないんだから、うちを止めることなんてできる筈ないよなぁ?」という意味だろう。

上司
上司:「賢い生き方っていうのはさぁ。うちの会社で、できないなりにがむしゃらに働く事だと思うなぁ。小賢しい事を考えてないで」

永良(えいら)
-イラッとした美咲さんが、今にもスマホに掴みかかりそうになる。

永良(えいら)
-それを歩さんが必死に止めているけれど、歩さん自身の手も震えている。
-多分、かなり怒ってくれている。

永良(えいら)

永良(えいら)
-今まで言われてきた事が、脳裏を次々によぎる。

上司
上司:「ほら、仕事できないんなら。せめて女として職場に花を添える努力くらいしないと」

上司
上司:「君、暗いんだよねぇ」

永良(えいら)
-そう言って、憐みの仮面を被って私を馬鹿にする上司。

上司
上司:「このご時世だし? まさか『お茶くみしろ』なんて、時代錯誤な事は言わないよ? パワハラとか言われたらヤだし」

上司
上司:「でもニコニコくらいはできるでしょ」

上司
上司:「ほら、どっかのファストフード店もスマイルゼロ円で売ってるくらいだし」

永良(えいら)
-そう言って、私の存在を貶す上司。

上司
上司:「あ、一応言っておくけど、君のために敢えて言ってやってんだからね?」

上司
上司:「俺だってこんな事言いたかないよ。俺の優しさに感謝してほしいな」

上司
上司:「ほら、『ありがとう』は?」

永良(えいら)
-最近は、私が何も言い返さないと踏んだのか。
-そんな事まで言われるようになって。

永良(えいら)

永良(えいら)
-今までは、仕方がないのかもしれないと思っていた。
-事実も混じっていると思ったから、尚の事。

永良(えいら)
-でも。

美咲
美咲:「……んな」

上司
上司:「ん?」

美咲
美咲:「ふざけんなって言ってんだよ!!!」

美咲
効果音:バターン!!(美咲が立ち上がり、椅子が倒れる音)

美咲
美咲:「さっきから聞いてりゃあネチネチネチネチネチネチネチネチ!!」

美咲
美咲:「お前は何だ?! 陰湿な姑か何かか! あぁ?!」

永良(えいら)
-私が弾ける前に、美咲さんが暴発した。

永良(えいら)
-唯子さんと歩さんがオロオロする中、和代さんだけは「やっちゃえ!」とガッツポーズをしている。

美咲
美咲:「大体なぁ! 『お前のため』とか違うだろ!」

美咲
美咲:「ただの鬱憤晴らしに八つ当たりされて、こっちはいい迷惑なんだよ!」

上司
上司:「な、何なんだね君は!」

美咲
美咲:「ただのチャット仲間ですが!!!」

上司
上司:「は!? 部外者は黙ってろ!」

美咲
美咲:「部外者? 誰が部外者だって? このクソ野郎!」

永良(えいら)
-手が届いたら、すぐにでも通話中のスマホを壁に投げつけそうな美咲さんを、歩さんが羽交い絞めにして止める。

永良(えいら)
-すると今度は和代さんが「ちょっと貴方」と声を上げた。

和代
和代:「永良ちゃんに聞いたけど、仕事をちゃんと教えずに『できない』とか言ったんですって?」

和代
和代:「先輩社員として、教えるべきところを教えないのは職務怠慢っていうのよ? 人生の先輩としてもあり得ないわ」

歩
歩:「(美咲さんを抑えながら)それに、さっき『パワハラだって言われたら嫌だし』って言ってましたけど!」

歩
歩:「『ニコニコくらいはできるでしょ』は、言うだけでも立派なセクハラですよ!」

上司
上司:「し、失礼な! ただの一意見を言ってるだけだろうが!」

歩
歩:「セクハラは親告罪なので、どういうつもりで言ったかはあまり関係ありません! あとキモい!」

上司
上司:「きもっ……?」

永良(えいら)
-そんなやり取りを聞いていて、私は深く息を吐く。

永良(えいら)
-皆、私のために色々と言ってくれている。
-でも、いや、だからこそ、私もちゃんと覚悟を決めて、目の前の事に向き合わなければならない。

永良(えいら)
永良:「係長」

永良(えいら)
-私は、まっすぐにスマホを見つめて言った。

永良(えいら)
永良:「私、この会社辞めます」

上司
上司:「は?」

永良(えいら)
-彼の声に、思わず怯みそうになる自分がいる。
-でも、ここで引くのはダメな気がした。

永良(えいら)
-勇気を出して、一歩踏み込む。

永良(えいら)
永良:「この前ちょうど半年経って有給出た筈ですよね」

永良(えいら)
永良:「それと、これまでの休日出勤分の代休で、事前申告の30日を休みにさせてください」

永良(えいら)
-歩さんが渡してくれた手元の作戦メモには『有給+これまでの休日出勤分の代休で、事前申告の三十日を休みに』と書かれている。

永良(えいら)
永良:「あと、残業と残りの休日出勤分の給料未払いは請求します」

永良(えいら)
永良:「ちゃんと払ってくださいと、会社にお伝えください」

上司
上司:「……何を言ってる。君は残業も休日出勤もしていない」

上司
上司:「その証拠に、付けている勤怠はすべて平日の定時退社だ」

永良(えいら)
-ニヤリと笑ったのが、声越しに分かった。
-いつも私に向けていた嘲笑が思い浮かぶけど、彼は今私の目の前にはいないし、私にも今は武器がある。

永良(えいら)
永良:「係長は知らないんですね」

永良(えいら)
永良:「勤怠表がなくても、残業した事実が証明できれば、働いた分は請求できるんですよ」

上司
上司:「はっ、そんな適当な事を言っても無駄だ」

永良(えいら)
永良:「そうですか。分かりました。では後日改めて、会社と係長宛に弁護士から請求します」

永良(えいら)
永良:「――私に対して行われた精神的・肉体的疲労に伴う慰謝料も上乗せして」

上司
上司:「なっ?!」

永良(えいら)
-会社ではなく、自分個人に対する請求。それを告げて、初めてきちんと彼を動揺させる事ができたような気がした。

永良(えいら)
-そこに、更に援護が来る。

和代
和代:「労基への相談の事も忘れちゃダメよぉ、永良ちゃん」

永良(えいら)
永良:「あぁそうでしたね。そちらにも通報させていただきます」

上司
上司:「ちょっと待て!」

唯子
唯子:「課長さん」

永良(えいら)
-唯子さんが初めて口を開いたので、皆の視線が唯子さんに注がれる。

唯子
唯子:「私、医師免許を持っているのですが、昨日その私の前で永良さんが倒れました」

唯子
唯子:「まだ診断は確定していませんが、おそらく過労の気があると思います」

唯子
唯子:「診断書が出れば、慰謝料の金額も上がるでしょう」

永良(えいら)
-今まで抱いていた唯子さんのイメージは、「物静かで柔らかな物腰の人」だった。
-しかし今は、医師としての矜持を感じさせる凛とした声が印象的だ。

永良(えいら)
-綺麗。カッコいい。
-誰かに対してそう思ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。

上司
上司:「…………」

歩
歩:「因みにですけど、今日のこの電話は最初から、すべて録音しています」

歩
歩:「今までの事は未だしも、今日言った事は言い逃れできませんよ」

永良(えいら)
永良:「……私は別に、裁判がしたい訳ではないんです」

永良(えいら)
永良:「ただ純粋に働いただけの正当な対価と、退職さえ叶えば、それで」

上司

上司
上司:「~~~っ! もう勝手にしろ!!!」

上司
効果音:プツッ、ツーツー……(終話音)

永良(えいら)
-ディスプレイが元の表示に戻る。

永良(えいら)
-誰からともなく全員の口から「……はぁ〜〜〜っ」という深いため息が漏れた。

美咲
美咲:「勝ったわね!!」

和代
和代:「成敗完了だわ!!」

永良(えいら)
-ガッツポーズの美咲さんと、鼻を鳴らす和代さん。

歩
歩:「ちょっと、心臓に悪いですって〜」

美咲
美咲:「そんな事言いながら何だかんだで、貴女も言い返してたじゃない!」
(歩の脇腹を肘でつつきながら)

和代
和代:「それよりも、『ゆー』さんが言い返したのがちょっと意外だったわぁ。お嬢様っぽいし、普段口数少ないのに」

唯子
唯子:「つい……。飲み物、温かいの淹れ直しますね」

美咲
美咲:「でも何より」

永良(えいら)
-美咲さんが、私を見て満足げに言った。

美咲
美咲:「永良ちゃん、よく頑張ったわ!」

和代
和代:「そうねぇ。ちゃんと言い返せたわよ!」

永良(えいら)
永良:「あ……」

永良(えいら)
-私は、ふわりと笑った。

永良(えいら)

永良(えいら)
永良:「皆が一緒にいてくれたから。作戦考えてくれたからです。ありがとう」

永良(えいら)
-こんなに晴れやかな気持ちになったのは、本当に久しぶりだった。

美咲の子ども
子ども1:「ママ……」

美咲
美咲:「あら、起きたのね」

永良(えいら)
-美咲さんが、子どもたちのいる和室の方へ向かう。

和代
和代:「それにしても、まさか他人の修羅場に居合わせる事になるなんてねぇ」

永良(えいら)
-和代さんが、しみじみとそんな事を言った。

歩
歩:「改めて思いますけど、チャット仲間じゃなかったら、絶対集まらなかった面子ですよね。よく来たな私も(苦笑)」

永良(えいら)
-たしかに私も普通なら……それこそ職場に悩みを抱え、ここまで追い詰められていなければ、顔も名前も知らない人たちとの集まりにいきなり参加だなんて、そんな大胆な事はしていなかったような気がする。

永良(えいら)
-そしてそれは、きっと他の人たちも同じなんじゃないだろうか。

永良(えいら)
-歩さんも自分でそう言っているし、美咲さん……は見るからにヤンママだからもしかしたら結構こういう事もあるのかもしれないけど、でも余程の事がなければ小学生と多分幼稚園生くらいの子どもたちと大荷物を抱えてこんなところには来ていないような気がする。

永良(えいら)
-和代さんだって、私たちの中では多分、最年長。
-チャットの印象と全く変わらない『おしゃべり好きな元気なオバチャン』という感じだけど、たしか二世帯住宅の家事を一手に担っていると前にチャットで言っていた筈だ。
-本来なら、こんなに突然外泊なんてできないんじゃないだろうか。

永良(えいら)
-唯子さんも。
-彼女こそ、自分で言うのも何だけど、こんな場所には……いや、私たちには似つかわしくないような雰囲気がある。
-彼女一人だけ、何だかお嬢様っぽいのだ。育ちが違う、というか。

永良(えいら)
-そして、独身社畜の私。

永良(えいら)
-本当に、年的にも性格的にも生活環境的にも、普通に生活していたらおおよそ被らない・出会わないような人たちが集まっているような気がした。

歩
歩:「あのチャットグループへの招待DM、結局誰から送られてきたんだろ」

和代
和代:「そういえば、私も知らないアカウントから来たわねぇ」

永良(えいら)
-彼女たちの言葉に、思いだす。

永良(えいら)
-そうだ。
-私たちは誰かによって、あのチャットグループに誘導された。

永良(えいら)
-それってつまり、誰かによって集められたという事なのではないか。

美咲
美咲:「誰からだろって思って、招待が来た時にアカウント見に行ったけど、投稿数ゼロだったんだよねー」

永良(えいら)
-子どもたちのいる部屋から戻ってきた美咲さんも話に入ってくる。

和代
和代:「貴女は?」

唯子
唯子:「いえ、私にも心当たりなくて。急に来ました。一体何が目的なのか」

美咲
美咲:「誰なんだろうね~、『I(アイ)』って」

永良(えいら)
永良:「アイ?」

美咲
美咲:「そのアカウントの名前――」

美咲
効果音:ブルルッ(着信のバイブ音)

永良(えいら)
永良:「電話、出なくていいんですか?」

永良(えいら)
-スマホをチラリと一瞥した美咲さんが、嫌そうな顔をで目を逸らした。
-それを見て問いかければ、彼女から「いいのよ、別に」という投げやりな声が返ってくる。

美咲
美咲:「いいのよ。ちょっとは思い知らせてやらなきゃあ、こんな事でもないとちゃんと考えもしないんだから」

永良(えいら)
-そんな事を言っている間に、着信が切れ、代わりにブブッとまたバイブが鳴った。

新着メッセージが1件あります。
『夫:ねぇ、いつ帰ってくる予定? 昨日ご飯なくて困ったんだけど』