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#たまに雑談
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十畳ほどの広さの部屋に、琴の音が響く。 襖が開き、「広幡役継」が入ってくる。
広幡才彩
振り返った_才彩の目には、疲労が滲んでいた。 そのことに気づく素振りも見せず、淡々とした声で役継は言葉を紡ぐ。
広幡役継
広幡才彩
広幡役継
端から期待などしていなかったというような素振りで返事をし、役継は部屋を出ていく。襖の閉まる音が、才彩にはやけに乾いたように聞こえた。 広幡家は代々、様々なものを人前に出しており、どれも街の名物として知れ渡っていた。 だが、その背景には途方もない努力が積み重なっていた。 五つに満たない頃から技術を習い始め、十になる頃には表に出ていく。それが当たり前だった。 ただ、才彩は違った。 今の才彩は九つ。だが、その実力は、従来の五つほど。 皮肉なことに、才彩には 才能 というものが無かったのだ。
ある日の午後、才彩は役継に琴の様子を見てもらっていた。
広幡役継
広幡才彩
才彩は目を伏せ、顔を悲しげに顰める。 重い空気の中、役継は口を開いた。
広幡役継
才彩は勢いよく顔を上げ、茶色掛かった瞳を見開く。
広幡才彩
説得しようとするが、言葉は尻すぼみに小さくなっていく。 縋るように言った才彩の目は、微かに潤んでいた。
広幡役継
安心したのも束の間、才彩の顔はまた歪むこととなる。
広幡役継
「あの日」から二月、お父様が私の部屋に入ってきた。 顔はいつもの仏頂面だが、気配が明らかに固い。
広幡才彩
怖気づきながら私が尋ねると、少し間を開けた後にお父様は答える。
広幡役継
「私を連れて山へ行く」。つまり、捨てられるということ。 次の視察で、私の運命が決まる。 その事実が受け入れ難かった。
汗が止まらない。 捨てることを告げられた日から六日後、私は運命が決まる視察に臨んでいた。 あれから必死に練習したが、焼け石に水のような気がしていた。その思いは、今でも払拭できていない。 意を決して弦を_弾@はじ_き始める。お父様の視線に身を固めながらも、手を止めることはしない。 一音、また一音と奏でていく。心臓の鼓動を抑制しながら、丁寧に音を繋げていった。 気づけば最後の一音を弾き終わり、空気の揺れも収まっていた。部屋に沈黙が降りる。ゆっくりと顔を上げ、お父様の口が開くのを待った。
広幡役継
「見せることはできない。」
その言葉が、部屋を寒々と揺らした。