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砂漠での激戦を終えた俺と爽は 足を止めるまもなく、世界中を駆けた
深い闇が常に地表を覆う森では 木々の隙間から差す光は細く
息をする度に 肺に冷たい湿気が染み込んだ
何度も足を取られ 倒木に手を付きながら進む度
爽の小さな肩が僅かに上下し 荒い息が夜気に白く溶けていった
別の日は、罠だらけの古代遺跡
床板を一枚踏む度 背後で石の扉が閉まる音が響く
俺は汗ばむ掌で剣を握り締め 先を行く爽の背を目で追った
爽は振り返ることなく ただ「こっち」と短く言う
その声にだけ 俺は縋るようについていった
開けた草原を突っ切った日もあった
─────風が強く、髪が目にかかる
陽光は柔らかく 草の匂いが鼻をくすぐるが
……脚は鉛のように、重い
爽が少し前を走りながらも 時折、振り返って俺の足取りを確かめる
その瞳に 心配と信頼が入り交じった光があった
少し栄えた街では 村を襲う盗賊団を潰した
歓声の中、街の子供たちが 「つばささま!」と叫びながら
俺の腰や腕にしがみついてきた
その瞬間 戦いで固まっていた肩の力が抜け
少しだけ、笑みが零れる
市場の広場では 村の大人たちから「お礼です」と
大量の食材が積まれ 俺と爽は顔を合わせて苦笑いした
……食べきれない量のパンや果物の山
爽はふふっと微笑み しっぽを揺らしながら荷を分けていた
そんな日々の合間─────
俺は2度 完全に力尽きて半日眠り続けた
目を開けた瞬間 すぐ側に座っていた爽が低い声で
「……馬鹿」とだけ呟く
俺は何も言えず ただ、目を閉じて息を整える
爽の吐息だけが すぐ近くでゆるやかに揺れていた
─────2年間
闇の森も、遺跡の罠も、吹き渡る草原も 喧騒の街も─────
どこを駆けても 足を止める理由は見つからなかった
疲労は骨の奥まで沁み 時折、瞼を閉じたまま歩きそうになった
……疲労には、流石に勝てなかった
それでも前へ進むのは
俺の隣にいるあいつの背中が 俺を待っているからだ
遂に、今日を迎えた
─────やっと、“彼”に会いに行ける
どれほどこの日を 心の奥で数えてきただろう
荒れ果てた森も 血の匂い漂う戦場も─────
全て、この瞬間のため────…
胸の奥に熱とも痛みともつかないものが じわりと広がっていき
握り締めた手に、汗が滲んだ
俺はただ前を見据え、歩を進めた
……“彼”の─────
Mr.バナナの運命を変える為に─────