テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
空はまだ薄墨色に染まり 星々の輝きが儚げに揺れていた
高台から見下ろす王国の街並みは
宝石箱のように、美しく輝いていた
水路は鏡のように澄み
微かな風に揺れる灯りが ゆっくりと水面を撫でていた
─────流石、バナナ王国だ
爽がそっと息を吐き、風に目を細めた
俺は黙って頷く
胸の奥に これから起きる未来の重みを抱えながらも
この穏やかな光景に、ただ息を呑んだ
空気がひんやりと肌を撫でていき 遠くで小鳥の囁きが、かすかに響いた
爽の声は小さく だが、確かな響きを持っていた
俺はわずかに笑みを零した
それ以上の言葉は要らなかった
爽も、それ以上言葉を発さない
俺たちは 穏やかに吹く風の音や
柔らかな川のせせらぎに耳を澄ませていた
─────その時
東の空が ゆっくりと朱に染まり始めた
雲の隙間から金色の光が差し込み 世界を優しく照らす
キラッと、王国の屋根が 黄金色に輝いた
爽の声が、心の奥底から静かに漏れる
俺はその朝日の柔らかな温もりに 心を委ねた
─────ふと、 視線を近くの城壁に向けた
小さな影が、静かに そして慎重に動きだしていた
まだ、小さく幼い子供─────
朝露に濡れた黄色い髪が 陽の光を受けてそっと煌めく
透き通るエメラルドの瞳は
幼さの奥に、強い決意を秘め 夜の闇を切り裂くように輝いていた
爽は穏やかな声で まるで、風に問いかけるように呟いた
俺は息を殺し その一挙手一投足をそっと見守る
砂利の微かな軋みも そよ風の音に溶けて消えていく
その足取りを 爽は柔らかな眼差しで追う
何か胸に秘めた“想い”を 感じ取っているようだった
俺がそっと問うと 爽はゆっくりと頷いた
俺は言葉少なに微笑み 物陰に影が消えるまで見つめ続けた
小さな背中に宿る 揺るがぬ覚悟を感じながら
風が少し強くなり 木々の葉がさわさわと囁く
爽が俺の肩に手を添えたのを合図に
静かに砂利を踏みしめ その場を離れていく
この国に迫る黒い影を
早く、阻止しなければ……