誰かにこの心臓をあげたいと思った
“俺”という存在は必要ないから
価値のない人間の心臓をもらって 嬉しいやつはいないだろう
それでも
最後くらい
誰かの必要な存在になりたかった
ふらふらと道を歩いていると
うずくまっている少年がいた
その少年の名は青というらしい
彼はとても苦しそうにしていた
助けようとしたが
助けなくていい、と彼は叫んだ
よくよく話を聞けば
彼は心臓病を患っているらしい
ドナーが見つからず
このまま死ぬだけなのだと彼は言う
だから助けなくていいと
そう言った
価値のない人間の
価値のない心臓であれば
今ここにある
そんな俺の心臓でよければ
君にあげるよ
君と隣に並んで
真っ白なベッドに寝転がって
他愛のない会話を交わす
最期にこんな幸せが待ってるだなんて
誰が想像しただろう
こんな俺にも
「ありがとう」だなんて君は言う
そんな君には
価値のない俺の心臓を使ってでも
幸せになってほしいと思う
俺の人生最後の日
最後の一言は、君にかけた
「幸せになれよ」
その一言を言った時、
君は少し泣いているように見えた
でも
生まれて初めて
俺の価値が見出せた気がした
絶望しかなかった僕の人生に
一人の青年が現れた
彼の名前は桃というらしい
彼は僕の話を聞き
「俺のでよければあげるよ」と言った
冗談だと思った
今までも
僕に心臓をくれると言った人は
何人も何人もいた
でも、みんな本気じゃなかった
「やっぱり怖い」
「気持ちは嘘じゃない」
みんな最初から渡す気なんてなかった
だから
彼もそうだろうと思っていた
でも、違った
どんどん手術の日は近づいて
キャンセルされることさえなかった
手術前日
君と他愛のない会話を交わして
話したこともなかった君を
どんどん好きになってしまって
もう生きなくてもいいと思うくらい
幸せな時間だった
君に伝えることといえば
「ありがとう」
それだけだった
君は少し黙って
僕の目をまっすぐ見つめて
「幸せになれよ」とだけ言った
君も僕も
一緒に生きていければいいのに
そう考えていると、涙が出てきて
君の姿が見えなくなるまで
止まらなかった
誰かにとってのハッピーエンドは
誰かにとってのバッドエンドであり
何をハッピーエンドとするかは
人それぞれである
これは
一人の生きたい少年と
死にたい青年の
ハッピーエンドでも
バッドエンドでもない
いのちの物語
コメント
1件
…控えめに言って泣きました… 両方共に幸せになって欲しいのになれないって言う… なんか…うわぁって感じです…((