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Side.夢
雨の季節が過ぎ去り、すっかり湿っぽさも消え、 からりと乾いた青く澄み渡った空を一人眺める。
まこち町。東風商店街。風鈴高校。防風鈴。
…施設の中で自身を妹と呼び、慈しみ、可愛がってくれたあの人は
あの荒れていたらしい町に 平和をもたらしたその瞬間から、
きっと彼は私達だけの兄ではなくなって。
……だから彼と私の距離は もうあの雲のように遠くなってしまったのだと
空高く浮かぶ入道雲を眺めながら、すとんと思った。
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思い出していた、彼と交わした最後のあの言葉。
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梅宮一
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だって夏は、 兄さんがあの青空に溶けて消える様な気がしたから。
そう伝えた時、彼は少し驚いたような表情を浮かべてから、へにゃりと眉を下げながら笑って
私の頭をわしゃ、と撫でながら……
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愛おしく思う程貴方は苦しんだ。
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今思うと、あの人は常に失う恐さに怯えていて。
きっとその気持ちが、 消えることはなかったのだと思う。
それでもあの人は家族を、 私達を愛する事をやめられなくて。
それで、また失う恐怖に苦しんで。
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人知れず、一人で苦しむ彼を、 幼いながらに不憫な人だと思った。
「さよなら」
そう耳の奥で響く、声が、酷く不愉快で。
私は、目を閉じた。