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探偵は黄昏時に

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探偵は黄昏時に

6 - 無理心中未遂と過去 ㊤

♥

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2024年02月22日

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出雲 治

晴翔さーん、応接間の掃除終わりましたよぅ

月見 晴翔

ん、ありがとう

最近は電話で依頼を受けて現場に出向いて事件解決なんてことが多かったが、今日は久しぶりに依頼人がこちらの事務所まで出向いてくれる。

そのため、暫く使っていなかった応接間の掃除を出雲に任せた。

案外彼は綺麗好きで手際も良いらしく、小一時間程度で綺麗にしてくれたようだ。

出雲 治

それにしても電話じゃ話しにくいことでしたか

月見 晴翔

嗚呼…そんなことを言っていたね

月見 晴翔

女性の声だったし、僕じゃなくてお前に話を聞いて欲しいとも言っていたよね

出雲 治

んー、浮気の調査とかですかね?

月見 晴翔

さあ、でもそういうのは確かに僕よりお前の方が得意そうだ

出雲 治

あは、そうですかねえ

今日来るまだ顔も知らない依頼人の話をしながらゆっくりと待つ。

そうして暫くすると、事務所の扉のベルが鳴った。

依頼人

あの、今日お話をしたくて電話した者ですが…

出雲 治

はぁい、こちらへどうぞ

そう言って彼女を応接間に通した。

ちなみに応接間には俺と依頼人だけで、晴翔さんは他にやることがあるらしく、別の部屋にいる。

彼女の手にはそれこそ財布とスマホしか入らないような小さな鞄と、紙袋。

何か大事なものなのか、それを持つ手には力が入っていた。

出雲 治

そちらの椅子におかけになってくださいね

依頼人

は、はい…

緊張した面持ちでそろそろと椅子に腰かける依頼人は、あの、と気まずそうな声で持っていた紙袋をこちらに渡してきた。

出雲 治

……これは?

依頼人

あの、えっと、紅茶なんです

依頼人

私、こういう依頼とかしたこと無くって、手土産とかそういったものが必要なのかなと……

依頼人

私がいつも飲んでるものではないのですが、その、ちゃんとしたお店の紅茶ですので…!

ああなるほど、と納得し、無下にするのも流石に気が引けたので一度晴翔さんのところへ戻って紅茶を淹れることにした。

出雲 治

ありがとうございます、それじゃ、少々お待ちを

依頼人

あ、は、はい……

出雲 治

晴翔さぁん…これ

月見 晴翔

ん?……紅茶か

月見 晴翔

飲むなよ、それ

出雲 治

分かってますよ

月見 晴翔

別のものを出してね

出雲 治

はい、飲んだこともなさそうなのでバレないでしょう

月見 晴翔

ん、演技はしなよー

出雲 治

了解でーす

俺もそうだが、恐らく晴翔さんもこの紅茶に細工がされていることが分かっている。

睡眠薬か、もしくは毒物か。

晴翔さんや俺のような探偵が普通に依頼を受けていて普通に活動しているように、この街の治安はいいとは言えない。

毒物の入手方法なんてものは完全には断ち切れていないのだろう。

というかそもそも、毒物なんてものはそこらに蔓延っている。

なんの害もなさそうな植物が猛毒を持っていて、凶器として犯罪に使おうとすれば使えてしまう。

出雲 治

んー……これが一番香りが似てるかな

事務所には多くの種類の紅茶やコーヒー、日本茶が置いてある。

その中から一番香りの近いものを選び、淹れていく。

よく見れば持ってこられた紅茶の茶葉には、所々変な葉が混じっているような気がする。

ひとつため息をつき、依頼人の待つ応接間にもう一度足を運んだ。

出雲 治

お待たせしました

出雲 治

いい香りですね

依頼人

はい、そう言って貰えて嬉しいです…

カチャリとテーブルにカップを置いていく。

依頼人はその淹れられた紅茶の水面をじいっと見詰めて、それからゆっくりと俺の方を見て、を何度か繰り返した。

__どうやら俺に先に口をつけて欲しいらしい。

出雲 治

それで、お話とは?

そう言いながら、毒入りらしき紅茶__入れ替えているが__に口をつける。

もちろん、毒を飲んだような素振りは忘れずに。

依頼人

__!うふ、ふ

依頼人の顔が醜く歪んだ。

本当に毒入りだったらしい。

彼女もカップの紅茶に口をつけ、一気に飲み干した。

依頼人

貴方がずっと好きで、それで、一緒に死んで欲しくて……!

依頼人

だから、この紅茶に、毒、を……

出雲 治

うふふ、そうでしたか

彼女の反応からすると、入れた毒物は即効性らしく、中身が入れ替わっていることに気が付いたらしい。

依頼人

え、あれ……?

出雲 治

いやあ、流石に探偵を舐めないで頂きたいですね

依頼人

嘘、そんな…!

出雲 治

あは、こんなの赤子の手をひねる程度ですから

がっくりと項垂れた彼女を横目に、扉が開くのを待つ。

早くしてくれないと、襲われそうだな__なんて考えていると、目の前の依頼人がガタッと立ち上がる。

その手には、何処から出したのか分からない裁ち鋏が。

出雲 治

裁ち鋏…何処から?

依頼人

ど、どうでもいいでしょ!私と一緒に来てよ__!

流石に不味い、とこちらも立ち上がると、不意に応接間の扉が開いてよく見知った人物__朝霧司刑事がそこにいた。

朝霧 司

おいおい、後一歩遅かったらヤバかったんじゃあねぇのかコレ…

依頼人

__っ!

出雲 治

ナイスタイミング!

やれやれ、と言いながらも手早く依頼人を拘束して凶器を奪い取る朝霧司。

朝霧 司

話は署で聞くからな

依頼人

ぅ、嘘よ……

ブツブツと呟く彼女は、体格差を分かってか抵抗しようともしない。

朝霧 司

はぁ、月見探偵も警察使いが荒くて困るな

出雲 治

あはは……頼みますよ

朝霧 司

おう

頼もしい返事をくれたかと思うと、すぐに出ていってしまう。

確かに晴翔さんはなかなか人使いが荒いところがあるな、なんて考えながら晴翔さんの元に戻る。

月見 晴翔

お疲れ様

  

お疲れさん!

出雲 治

は……?

出雲 治

なんでいるんです、アンタ

月見 晴翔

まあまあ……

月見 晴翔

そんな仲悪かったっけ?出雲と眞琴って……

出雲 治

いや、別にそういうんじゃあ、ないですけど

宮田 眞琴

せやでホンマ、なんなら仲良しやもんな!

出雲 治

いやそうでもないんですけど…!

宮田 眞琴

なんや、難儀なやっちゃなあ?

やいやい言い合う出雲と眞琴を見ながら苦笑いする。

彼__宮田眞琴は、自分と長い付き合いの雑誌編集者で、最近の事件についての取材をするためにアポなしで来るようなやつだ。

だがそれを自分が許すのは、眞琴とは昔からの縁__所謂、幼馴染と言ってもいい関係にあるからだ。

宮田 眞琴

んで?

宮田 眞琴

なんや治くん、自殺に付き合わされそうになったらしいやん?

月見 晴翔

大丈夫だったのか?

出雲 治

えぇ、特に何もありませんでしたよ

出雲 治

……まあ、手のひらサイズの鞄から裁ち鋏が出てきたときは焦りましたが

月見 晴翔

へぇ……

宮田 眞琴

なんや怖い話やなあ

宮田 眞琴

探偵業て大変なんやねやっぱ

月見 晴翔

うーん、まあそうかな

月見 晴翔

恨み買ってるから、いつ刺されるか分からないからね

出雲 治

あはは、確かに

月見 晴翔

うん、だから、出雲にはいつも申し訳なく思っているところもあるんだよ

出雲 治

え、そうなんですか?

出雲 治

私は晴翔さんに雇われて良かったですよ、本当、命の恩人ですもん

月見 晴翔

それなら、良いんだけどね

そんな会話をしていると、心底驚いたという様子で眞琴が口を開いた。

宮田 眞琴

……晴翔にそこまで言わせるんや

宮田 眞琴

ほんま治くんておもろいなあ

くつくつと喉を鳴らして楽しそうにする眞琴に、何故だかこちらも笑みがこぼれる。

宮田 眞琴

そういや、なんで晴翔は治くんを拾ったんや?

出雲 治

拾ったって…まあ、そうなんですけど…

その眞琴の物言いが気に食わなかったのか、出雲がもごもごと反論する。

出雲は仲がいいわけじゃないとは言っていたが、実は相性のいい二人なんじゃないかと思った。

宮田 眞琴

な、晴翔、治くん

宮田 眞琴

教えてぇな、二人の過去

月見 晴翔

……記事にするのかい?

宮田 眞琴

せやなあ、面白そうやしな

宮田 眞琴

しかも、アンタら探偵の話はよう売れるんや

宮田 眞琴

まるで小説みたいな話やからな、一般人からしたら

出雲 治

そんなものなんですか?

月見 晴翔

ま、僕らが扱う犯罪なんてのは通常ありえないようなことばかりだからね

宮田 眞琴

そーそー!

宮田 眞琴

で、それで?

宮田 眞琴

どうなん、取材受けてくれるんか?

月見 晴翔

んー、まあ僕は良いけど…

出雲 治

私も大丈夫ですよ、宮田さん、別に嘘書きませんもんね

宮田 眞琴

お、信頼されてるやないの

宮田 眞琴

嬉しいなあ

宮田 眞琴

雑誌編集者様々やで!

取材相手からの許可を得ることができたからか、眞琴は生き生きとした様子で懐からまだ新しい手帳を取り出す。

宮田 眞琴

それじゃあ、早速取材開始しよか

彼は愛想のいい笑顔を浮かべて、話はひとつとて聞き逃すまい、と耳を傾けていた。

__[無理心中未遂と過去 ㊦]に続く

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