TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

忠成

第十話

忠成

始まります。

門倉

新入り

宇佐美

ん?

門倉

あの男が気になるか?

宇佐美

そりゃあまあ…

宇佐美

あんな恐ろしい顔を男はなかなかいませんからね

門倉

ハア……

門倉

先輩として忠告しておくぞ

門倉

ここに来て1番に学ぶことは、のっぺら坊に関わるなだ

男が1人、暗闇の中を歩き、小屋に入る

宇佐美

のっぺら坊は、毎日のように房を移動させられているようです

宇佐美

移動の順序に一定の規則性があるとすれば──

宇佐美

数日先の予測ができるかもしれません

小屋の外

門倉

ハア……

宇佐美

へえ、ここが養豚場ですか

門倉

あっちの奥に、木箱があるから、外に運び出しておいてくれ

宇佐美

あ…分かりました

門倉

新入り

宇佐美

ん?

門倉

刀はそこに置いていけ

門倉

足に絡まって転んだら豚のクソまみれだぞ

宇佐美

ああぁはい!

宇佐美

木箱はどこですか?門倉部長

犬童

やはりあの新人、第七師団の内通者か

犬童

処理は任せたぞ、門倉看守部長

門倉

私がやるんですか?

犬童

囚人を使えばいい、殺しが得意な者ばかりだからな

犬童

ここは私の監獄だ

犬童

勝手なマネをするやつは、豚の餌にしてやる

門倉

(悪く思うなよ、新入り)

宇佐美

あ……ん?

男性

……

宇佐美

か…門倉部長…

男性

ハア……

宇佐美

…門倉部長!どこですか?

宇佐美

あれ、刀は…

囚人が宇佐美に金槌で殴ろうとする

宇佐美

……

宇佐美が囚人の手から金槌を奪い取り、殴り掛かる

宇佐美が次々と囚人たちを殺していく

門倉

うへえ……

宇佐美

フウ……

宇佐美

門倉部長〜……?

門倉

(おいおいマジかよ、あいつめちゃくちゃ強えじゃねえか)

門倉

(勝てねえケンカはしない主義だぜ俺は)

門倉

言われた通り、あの新入りは豚に食わせました

門倉

意外と抵抗激しく──

門倉

新入り、囚人ら、それぞれ瀕死のところを

門倉

私が間に入って、きっちりカタをつけました

門倉

新入りは行方不明、囚人2人はケンカの末の同士討ちで処理しました

犬童

門倉部長、ここに来て7年だったか

門倉

はい

犬童

私はずっと貴様を金玉の伸びきった腑抜けタヌキだと思っていた

犬童

役立たずを辞書で調べたら門倉が出てくると

犬童

だが、今日はほんの少し、貴様に対する評価を改めよう

門倉

そりゃどうも、記念日にします

宇佐美

もっとここでら調べることがあったのになあ

宇佐美

門倉部長を見くびっていた

宇佐美

…鶴見中尉殿に叱られてしまう……!

男性

ペカンペか、沢山採ったな

アシㇼパ

塘路湖(とうろこ)を通った時に採っておいた

杉元

へえ、いつの間に

アシㇼパ

ペカンペは水の上にあるもの、という意味で、ヒシの実のことだ

アシㇼパ

冬の保存食にするんだ

杉元

すげえトゲ、乾かしてカチカチになったのを昔の忍者はマキビシに使ったんだよな

アシㇼパ

忍者?

外ではシマフクロウが鳴いている

忠成

(シマフクロウがよく鳴くな、何かあったのか)

男性

この頃、コタンコロカムイが騒がしい

杉元

ん?

アシㇼパ

シマフクロウだ

アシㇼパ

村を守るカムイで、闇の奥から、忍び寄る魔物を大声で怒鳴りつける

男性

カムイに頼ってばかりもいられない

男性

奴らが現れたら村の男たちも命懸けで戦うつもりだ

杉元

奴ら?

男性

この辺りに現れるようになった盗賊だ

男性

真っ暗闇の中、たいまつも灯さず森を抜けて襲ってくる

男性

奴らは全員、目が見えない盲目の盗賊なのだ

男性

襲われた時姿を見た者がいる、そいつらの親玉の体には奇妙な入れ墨があるそうだ

杉元

網走監獄の脱獄囚か、

白石

硫黄山で苦役させられた囚人の生き残りだ

白石

名前は都丹庵士

忠成

都丹庵士……

白石

硫黄山に派遣された囚人は─

白石

生きて帰って来られないと言われていた

白石

硫黄は、火薬などの原料として発掘される重要な資源だ、

白石

でもな、辺りから絶えず噴き出す亜硫酸ガスってのは、採掘者の目を侵すんだ

白石

失明する者が続出して、発掘が中止され閉山するまで、たった半年間で42人もガスで死んだそうだ

白石

ところが最近らひそかに再開され、犬童典獄が囚人を貸し出しているってウワサだ

白石

恐らく、殺される前に逃げ出したやつらが、都丹の手下どもだろう

男性

前の新月の時、隣の村のやつらが襲われた、やつらは用心深い

男性

集団で村ごと襲うときは、必ず月の出ない新月に襲ってくる

杉元

新月まで待つより、やつらの寝床を見つけた方が手っ取り早そうだな

男性

この近くに和人が経営する温泉旅館がある、

白石

お……

男性

何か聞けるかもな

白石

温泉?それはありがてえ、ひとっ風呂浴びてえなあ

アシㇼパが突然外に出る

杉元

アシㇼパさん、どうかした?

忠成

なにかあったか?

アシㇼパ

いや、聞いた事のない音が森から…

アシㇼパ

気のせいかも

男性

いろんな人間の体を触ってきましたが、こんなに柔らかい筋肉は初めてです

男性

手が沈み込む、大きな猫…いや、虎のような

男性

すばらしい天賦の才だ

男性

それに、この体中の深い傷痕、どうして生きていられるのか

杉元

あんまさん、知ってる?

杉元

アイヌってのは、葬式の時に個人の道具や着物に傷つけて、持ち主があの世で使えるように魂を抜いてやるんだって

杉元

俺の魂が抜きたきゃ、もっとでかい傷が必要なのさ

アシㇼパ

魂が抜けるのは、この世での役目を終えたから、

アシㇼパ

杉元が傷を負っても死なないのは、この世での役目がまだ残っているということだ

忠成

(なら俺はまだまだやることがありそうだ……)

杉元

あんまさんから聞いた話では、昔はこの辺にもっと温泉宿があったそうだ

杉元

閉山で客が激減して、廃屋になってる旅館が、森の中に点在しているらしい

白石

盗賊の隠れ家にはもってこいだな

白石

夜が明けたら探しに行くか

忠成

チカパシ、あんまり泳ぐなよ〜

アシㇼパ

1人で大丈夫か?

男性

ありがとう、夜道はお嬢ちゃんより得意だよ

アシㇼパ

ホントに?

男性

ああ、目が見えない分、私らにしか見えないものがある

男性

そうだお嬢ちゃん、夜の下駄の音に気をつけなさい

アシㇼパ

下駄?

男性

夜になると出てくる盲目の盗賊さ、

男性

みんなは下駄の音だって言うけど、あれは違う

男性

とある晩に、私も聞いたことがある

男性

あれは舌の音だ

男性

舌を鳴らした音の反響でものを見る

アシㇼパ

どんな音だ?舌を鳴らすって、どんな風に?

男性

(舌を鳴らす)

舌を鳴らす音がなっている

杉元

何の音だ?

盗賊たちが飛び出してくる

谷垣

何だお前ら!

杉元

こっちにも!

忠成

あちこちいるぞ!

白石

あ……こいつが都丹庵士だ!

ランプが撃たれる

杉元

(真っ暗で何も見えないのにどうやって戦う…?しかもフリチンで!)

都丹

こっちからは丸見えだぜ

都丹

さっきのは白石の声だな、鉱山業者に雇われたか?

白石

そっちとは無関係だ、入れ墨を写させてくれたら分け前をやる?

白石

すぐに撃ってこねえのは、取り引きの余地があるってことだろ?

都丹

ガキに当てたくないだけだ

都丹

さっさと風呂から出さなきゃ撃ちまくるぜ、

都丹

ん……

リュウが都丹に噛み付く

チカパシ

リュウの声だ!

一斉に風呂から出る

都丹

音がゴチャゴチャで分からんな

都丹

向こうへ連れて行け

白石

ひとまず森へ逃げろ!ウッ…

忠成

白石ー!

男性

捕らえた!

杉元

く……うおおお!

杉元が手下を蹴り飛ばす

杉元

こんな傷じゃ、俺は殺せねえぞ!

舌を鳴らす音

杉元

う……

銃声

アシㇼパ

銃声だ…!

谷垣

銃を持っているのは、都丹庵士だけのようだ

谷垣

同士討ちを避けるためか…

キロランケ

明かりのあるほうへ逃げられないように、旅館を背にして近づいてきた

キロランケ

あいつら、闇の中の戦いに慣れている

谷垣

用心深く銃を近くに隠してたのは尾形だけだ、忠成は短剣を持っていた

谷垣

また嫌みを言われる

ボルトを引く音

忠成

……(俺短剣持ってきたの失敗だったな……)

枝の折れる音

アシㇼパ

杉元?

男性

明かりを消せ

都丹

たいまつに近づくな!銃を持っているやつがいるぞ

銃声

返り血でたいまつの火が消えてしまった

都丹

うおお!(銃を連射している)

忠成

クッソ……

舌を鳴らす音

尾形

何も見えん、あと4発だ、ムダ撃ちは出来ない

足音

アシㇼパ

あっ…放……

杉元

アシㇼパさん、俺だ

アシㇼパ

これは血か、杉元のか?ケガしたのか?

杉元

平気だ

杉元

暗くなきゃ、あんなヤツら俺の相手じゃねえんだが

杉元

明け方まで逃げ切ったら反撃開始だ

都丹

血の匂いがプンプンする

都丹は杉元の近くに移動する

忠成

(これはマズいな…全員と離れてしまった)

忠成の体を長い刀身が貫く

そして男が捕らえたと叫びかけたとき、男の首が宙を舞う

忠成

……

忠成

クソ…

忠成

(心臓部をいかれたか…これは回復に専念せねばな、動きながらだと時間が倍かかってしまう)

忠成

(木の上にでも…いや音でバレる。)

忠成

(考えろ、考えろ俺)

尾形

おい

忠成

おー尾形、きたのか!(小声)

尾形

…何だその傷(小声)

忠成

普通に刺された(小声)

尾形

ははぁ…お前アホか

忠成

ひどー…

その頃、インカラマッと谷垣はなんかいちゃついていた

銃声

都丹

しまった…!

アシㇼパ

夜が明ける

都丹

戻るぞ急げ、こちらが丸裸になる!

リュウが吠える

チカパシ

リュウ?

 

杉元

ハアッ(殴りを入れる)

杉元

形勢逆転だ…!

アシㇼパ

杉元

 

杉元

尾形、忠成

尾形

都丹庵士と手下たちが入った

尾形

あれが奴らのアジトだ

杉元

銃を取りに戻っていたら逃げられる

忠成

どうするよ、そのまま突撃か?

杉元

ああ、このまま突入して、一気に片をつけよう

杉元

アシㇼパさんは外で待機しててくれ

杉元、尾形、忠成が小屋の中を覗く

杉元

暗いな……飛び込んで窓を開けるぞ

窓を開けようとする

杉元

ん……何だこれは、窓に板が打ちつけられて……

戸が閉まる

アシㇼパ

杉元!

舌が鳴る音

尾形

走れ!

銃声

都丹

う……

銃声が2回ほど鳴り、杉元は物陰に隠れていた

アシㇼパ

(杉元の尻を広げて)杉元

杉元

ん…アシㇼパさん

杉元

どこから入ってきた?

アシㇼパ

尾形と忠成は?

杉元

はぐれた

アシㇼパ

下手に動けない、どうする?

舌を鳴らす音

杉元

(どこから来る?)

杉元

(何も見えない、ここは奴らの寝床、奴らからは丸見えだ…)

手下が何かを踏む

男性

グッ……

アシㇼパ

ペカンペだ

杉元

オラァァァ!

手下を壁に叩きつけ、その反動で板が少しずれ、光が差し込んできた

敵の居場所が分かった杉元は、都丹に攻撃を仕掛ける

都丹

う……うおお!

都丹は杉元に突進し、床に叩きつけた

杉元は殴られ、首を締められる

都丹

貴様ら鉱山会社の連中と、網走監獄の犬童は報いを受けるべきだ!

都丹

囚人の命と光を奪って得たものをすべて奪ってやる!

杉元

だァァァ!

都丹

うお……

都丹が背負い投げをされる

アシㇼパ

杉元、どこだ!

杉元

アシㇼパさんはそこを動くな!

杉元

無関係のアイヌの村も襲って回った分際でよ…

杉元

てめえらに大義なんてねえだろう、盗っ人が!

都丹

…そうさ、

都丹

飢えて目も見えない俺たちはそう生きるしかない

都丹

だが、無関係の人間は殺しちゃいねえ

杉元

そのうち見境がなくなるさ…

都丹

分かるのかい?

都丹

俺にも見えるぜ…あんたは、もう、元の自分に戻れねえ…!

杉元

ハッ……

杉元は昔の記憶、皆で仲良く干し柿を食べたあの頃の記憶を思い出していた

都丹が杉元に銃を突きつける

土方

久しぶりだな

土方

都丹庵士

都丹

う…その声、なんであなたがこんな所に…

土方

犬童典獄とケンカだ

牛山が小屋の壁を壊して入ってくる

牛山

ん?お嬢、また会ったな

アシㇼパ

チンポ先生…!

杉元

よくここがわかったな

土方

外にいる犬っころだ

土方

都丹庵士がこの辺りに潜伏している情報はつかんでいた

永倉

杉元、都丹の処遇は我々に任せてはくれないか

杉元

俺の分も入れ墨を写させてくれるなら

杉元

ただ、ここらにはアシㇼパさんの親戚たちがいる

杉元

殺してひん剥いてくれると、こちらとしては安心だがね

アシㇼパ

こんな暗い所で隠れて暮らして、悪さをするため外に出るのは夜になってから

アシㇼパ

これではいつまでたっても、お前の人生は闇から抜け出せない

都丹

……

都丹

まいったな、こりゃ

宇佐美

犬童典獄は、囚人を硫黄山で働かせ、武器購入の資金としていたようです、マキシム機関銃までありました

宇佐美

他にも、強力な武器を隠し持っている可能性は大きいです

鶴見

…で、その武器を保管している場所を探る前に、正体がバレてしまったと

鶴見

そういうわけだな?宇佐美上等兵

宇佐美

ハア…!

鶴見

月島、座らせろ

宇佐美

ああ…

鶴見

貴様を看守として潜入させるために、どれだけ手間がかかったか分かっているのか?

宇佐美

(ハア…近い近い…!)

鶴見

ここのほくろにこうしてこうして体を描いて

鶴見

走らせてやる

宇佐美

ああ……

浩平

プーッ走ってるー!ウフフー!

鶴見

もう片方のほくろも走らせてやる

宇佐美

(頭が沸騰しちゃう…)

浩平

アハッアハハッ!

宇佐美

ハア…ハア……

鶴見

2人のほくろ君は一生懸命走る、だが、ほくろ君たちの距離は永遠に縮まることはない

浩平

かあいそう…うう…

永倉

インカラマッとキロランケか

杉元

すべて鶴見中尉の仕組んだことで、片付けばいいんだけどな

土方

私も思うところがあって、

土方

実は古い知り合いをこの街に呼んでいる

土方

あの2人の写真を採って誰かに調べさせよう

 

キロランケ

なんで急に写真なんか…

杉元

アシㇼパさんの写真をフチに送ってあげようと思ってね

杉元

せっかくだから、思い出にみんなで撮ろうぜ

忠成

(写真を見て)うん、皆良く写ってるぞ

杉元

忠成は撮らねえのか?

忠成

俺は良いよ、第一俺の写真需要ないだろw

杉元

ええ〜?顔が良いのに勿体ない!

忠成

みんなは俺の写真いるのか?

アシㇼパ

私は欲しいぞ、仲間の写真は持っておきたいんだ

忠成

……そうか、

杉元

俺も欲しい、一緒に撮ろうぜ!

白石

俺も入るー!

忠成

じゃあ全員で撮ろうか!

撮影時

キロランケ

これ全員入るか?

忠成

アシㇼパとチカパシは前だな

尾形

……

忠成

尾形、ほらこっちだ

牛山

忠成、お前真ん中いけよ

忠成

なんで俺!?

位置決め完了

男性

では、皆さん笑顔でー!

パシャッ

その後忠成は色んな人と撮った(土方さん、永倉さんと肩組んだり、尾形と撮ったり…)

男性

土方さん、ずっと我が家で大切にしていた物をお渡ししたくて

土方の写った写真を手渡した

土方

ほお……

都丹

杉元と言うんですか……

都丹

殺し合いのさなかにふと、懐かしさを感じた

都丹

あの男、網走監獄で初めて出会った頃の、若い土方さんにそっくりだ

都丹

鬼のように凶暴だが、どこか優しくて…

アシㇼパ

今頃フチは、穀物を収穫しているんだろうな

アシㇼパ

空を渡ってくるガンの群れは、私たちに宝物をもたらす鮭が川をさかのぼってくる知らせだ

アシㇼパ

私たちは鮭のことをカムイチェプ、神の魚とか、シペ、本当の食べ物と呼んでいる

アシㇼパ

杉元、あれ採ってくれ、クッチ、サルナシの実だ

杉元

ん…クッチうまいよアシㇼパさん、とっても甘い

アシㇼパ

クッチは食べすぎると、肛門がとてもかゆくなる

アシㇼパ

いっぱい食べろ、杉元

アシㇼパ

東のアイヌは、野イチゴを鮭イチゴと呼ぶそうだ

アシㇼパ

実が赤くなると、鮭がさかのぼってくるから

杉元

そうやってアイヌは、毎年鮭を待ち望んでいたんだね

忠成

いや……俺はそういうのでは無い……

男性

えー?来いよ〜、痛くはしないからさ!

忠成

そういう問題ではないのだが…

男性

てかなんで顔見してくんないの?見せてよ

忠成

いやあ…遠慮させていただいて…

男性

ハー?早く見せろよ💢

忠成

……じゃあ

忠成

見たいなら、俺を捕まえてみてくれ

忠成は隙をついて森の方へと逃げる

男性

は?おいちょっと待てよ!

 

アシㇼパ

見ろ杉元、ヒグマが爪で引っ掻いた跡だ

アシㇼパ

この時期のヒグマは、サルナシの実ばっかり食べるから

アシㇼパ

肉がクッチみたいな味のやつもいるんだぞ

杉元

本当によく知ってるねえ、アシㇼパさんは

アシㇼパ

全部、アチャが教えてくれた

アシㇼパ

山のことも、アイヌのことも、すべて

アシㇼパ

杉元

杉元

ん?

アシㇼパ

私は…怖い

アシㇼパ

アイヌを殺して金塊を奪ったのっぺら坊が、私の父だったらどうしよう

杉元

アシㇼパさん、ここまで来たらもう会うしかない

杉元がアシㇼパの肩に手をおく

アシㇼパ

あ……

杉元

何があっても、最後まで俺がついてるから

忠成

俺も最後までいるからな…(小声)

木の上から、忠成はそう呟いた

杉元

網走監獄は、周囲を山に囲まれていて、数十箇所で武装した看守が見張っている

白石

山側は囚人の舎房があるので特に厳重なんだ

永倉

脱走だけでなく、のっぺら坊を奪いに来る連中も警戒しているということだ

白石

とすれば、侵入経路は警備の手薄な網走川に面した堀、

白石

ここだ

白石

この計画は、鮭の取れる今しか出来ねえ

忠成

(ミスったら最後だな……)

白石

トンネルの入り口を、アイヌの小屋で偽装する

門倉

あんたちさあ、困るよ、こんなとこに

チカパシ

誰か来たよ(小声

門倉

すぐに片付けてくれよ

門倉

わざわざこんな所でやらなくたっていいだろう

キロランケ

……

谷垣

もっと鮭をよこせというのか

門倉

ん?何のこった?

谷垣

ここでの漁を許す代わりに、毎日鮭を3匹渡す取り引きをしたはずだ

谷垣

そっちの看守に聞いてみろ

男性

う……

門倉

お前ら賄賂取ってたのか

男性

……

門倉

ハア……

門倉

5匹もってこい、嫌なら撤去だ

門倉

わかったな

キロランケ

これじゃキツネに食われたほうがマシだ

男性

門倉部長、犬童典獄にはご内密に……

門倉

あったり前だろバカたれ

キロランケ

ハア…

谷垣

ん?

インカラマッが、川の向こうで遠くを見つめていた

アシㇼパ

アイヌにとって、鮭は主食だった

アシㇼパ

鮭が極端に少ない年は、餓死する者が出たほどだ

アシㇼパ

だから私たちは、鮭1匹を余すことなく利用する

アシㇼパ

頭を切り落として、上顎の真ん中の氷頭という軟骨を切り取る

アシㇼパ

これを使う珍味があるけど…杉元、何かわかるか?

杉元

ええ、ウソ〜まさかまさかあれなのぉ?

アシㇼパ

チタタプだ

杉元

はい出ましたチタタプ!

アシㇼパ

チタタプとは本来、鮭のチタタプのことを指すんだ

杉元

チタタプの中のチタタプ!(キロランケの脇腹をつねりながら)

キロランケ

イテテッ、つねった!

アシㇼパ

エラと氷頭をチタタプする

アシㇼパ

すればするほどおいしくなる

白石

チタタプ、チタタプ、チタタプ

チカパシ

(和泉守兼定を持ってきて)これでチタタプしてもいい?

永倉

あ………

土方

チタタプ、チタタプ、チタタプ……

永倉

ああ……

忠成

チタタプ、チタタプ……

尾形

……

アシㇼパ

尾形、みんなチタタプ言ってるぞー、

アシㇼパ

本当のチタタプでチタタプ言わないなら、いつ言うんだ?

忠成はニコニコしながら尾形を見ている

アシㇼパ

みんなと気持ちを1つにしておこうと思ったんだが……

尾形

……チタタプ

アシㇼパ

ん…!

忠成

(言ったー!)

アシㇼパ

言った!聞いたか!?今尾形がチタタプって!

忠成

尾形、チタタプちゃんと言えたな、偉いぞ!

アシㇼパ

んも〜!忠成以外聞いてなかったのかぁあ?

アシㇼパ

おかゆにイクラを入れたチポロサヨ

アシㇼパ

ジャガイモを潰したものにイクラを混ぜた、チポロラタシケプだ

杉元

(mgmg)ん…軟らかくて滑らか!これが本当のチタタプだ

アシㇼパ

取れたてだから臭みがないんだ、ヒンナヒンナ!

キロランケ

串焼きも脂が乗ってるな

牛山

……

牛山

インカラマッさんっていったかね

牛山

あんた、いい人いるのかい?

チカパシ

ん……

チカパシが谷垣の椀を強引に取る

谷垣

あ…おい

チカパシ

はい!

チカパシがインカラマッに渡そうとする

インカラマッ

あ……

谷垣

何のつもりだ?チカパシ

アシㇼパ

女が男の家に行ってごはんを作り、男は半分食べた器を女に渡し、女が残りを食べたら、婚姻が成立する

杉元

アイヌの求婚のようなものか

チカパシ

本当の家族になれば?

白石

ヒュウッいいねえ!お熱いぜ!

谷垣

チカパシ、返しなさい

チカパシ

あ……

チカパシ

んー……

谷垣が外へ行く

キロランケ

ん?

それに続いてインカラマッも外に行く

牛山

おっと、まだ微妙な関係だったか

チカパシ

(チカパシは落ち込んでいる)

忠成

……

尾形

……ん

忠成

あ…何だ?もう腹いっぱいか?

尾形

……

忠成

(さっきの話の通りならば婚姻を申し込んでいる…でも、尾形もそんなつもりは無いだろうし単に腹いっぱいなだけか……)

忠成

食べられないなら食べるぞ?

尾形

成立だな…(小声

チカパシ

こいつ谷垣ニシパのごはん食べてる!

杉元

おいキロランケ、この上はどこに出るんだ?

杉元

大丈夫なのか?

キロランケ

土方歳三が指定した距離を掘ったんだ、信じるしかねえ

杉元

頭を出したら看守たちの酒盛りのど真ん中じゃ、シャレにならん…

杉元

あ…

杉元

(頭を出す)ん…

杉元

う…!

門倉

いらっしゃい、予定どおりだな

杉元

あ…ここは?

門倉

俺の宿舎だ

門倉

犬童典獄の指示で、のっぺら坊は毎日独房を移される

門倉

だがその移動先を、俺は正確に予想できる

門倉

次の新月の晩に、のっぺら坊がいる房はここ

門倉

第4舎第66房だ

白石

侵入してアシㇼパちゃんをのっぺら坊に引き合わせ、何事も無かったように脱出出来れば大成功だ

土方

失敗すればこのトンネルはすぐに見つかり、門倉はお尋ね者だな

門倉

その時は土方さんにお供します、死んだ俺の親父は、あなたと共に戦った旧幕府軍でしたから

門倉

そのほうが、親父も喜ぶ

杉元

もし、のっぺら坊がアシㇼパさんの父親だとして

杉元

連れ出すのは難しいのか?

杉元

片足の腱を切られているので、かなり困難だが、不可能では無い

アシㇼパ

危険を冒してまで連れ出す必要は無い

アシㇼパ

父が本当にのっぺら坊なら…

土方

ん?

土方

盗み聞きしとらんで上がってこい

忠成

尾形、

尾形が顔を出す

土方

聞いてるぞ、

土方

尾形百之助は自刃した第七師団長の妾の息子、

土方

ただの金塊目当てで軍を脱走したにしては、

土方

出自がやっかいだ

尾形

ハッ、第七師団の上に立つなんて冗談じゃねえよ面倒くせえ

尾形

てめえらだって、お互いに信頼があるとでも言うのかよ

新月の夜

杉元

インカラマッとチカパシ、永倉と家永はコタンで待機

杉元

尾形は山に隠れて、何かあれば狙撃で援護

杉元

谷垣は、川岸に用意した丸木舟で待機

杉元

キロランケ、牛山、土方は宿舎で待機

杉元

のっぺら坊のいる舎房へ侵入するのは、俺と白石、忠成とアシㇼパさん

杉元

敷地内は消灯されている、新月の真っ暗闇を突っ切って舎房へ近づく

杉元

先導するのは都丹庵士

都丹

風の音が強いが、建物の位置関係などは把握出来る

都丹

遠くへ伝わる舌の音もかき消してくれるだろう

杉元

よし、行こう!

男性

何だお前ら!

ドゴッ(殴る音)

男性

う……うう……

キロランケ

いきなり見つかってんじゃねえかー…!

白石

都丹てめえ耳クソ詰まってんのか?

杉元

聞き逃してんじゃねえよバカ野郎…!

都丹

てめえらこそランプの光見逃してんじゃねえか

アシㇼパ

シッー!

忠成

(速攻見つかったー!……)

キロランケ

ここはいいから行け!

牛山

これで門倉部長は明日から無職のお尋ね者だな

キロランケ

幸先が悪い…

都丹

ここだ

白石

すべての窓には鉄格子がはめられているが、唯一鉄格子の無い窓がある

白石

天窓さ、侵入できる場所はここ以外ねえってことだ

ロープを張る

木を切る音が漏れてしまっている

門倉

音が漏れてるぞ…

門倉

ん……

男性

ん?

門倉

(ガチャッ)今夜はホント風が強いなあ

男性

ええ

門倉

おっと!

門倉の湯呑みが落ちて割れた

門倉

あちゃ〜、俺の湯呑みが…イテッ!

男性

大丈夫ですか?

男性

指、切っちゃいました?

男性

いいですよ門倉部長、片付けますから

門倉

ごめぇん…

その隙に杉元たちが降りていく

白石が鍵を開ける

アシㇼパ

(アチャ……)

独房の扉を開ける

アシㇼパ

アチャ…?

アシㇼパ

アチャ、なのか?

アシㇼパ

私だ、アシㇼパだ…

アシㇼパ

小樽から会いに来た

杉元

白石、マッチを

男性

ああ…あ…うう…!

アシㇼパ

ハッ!

男性

あああああああああ!

アシㇼパ

違う、アチャじゃない…!

銃声

門倉

侵入者だ!

杉元

門倉ァァァ!

鐘の音が響き渡る

忠成

うっせぇー!

アシㇼパ

杉元!

杉元

アシㇼパさん!

杉元

逃げろ!アシㇼパさん!

アシㇼパ

杉元ー!

忠成

(銃を撃つ)……

男性

あれ?弾が出ないぞ

男性

俺のも変だ!

門倉

手入れしないからだろ!

のっぺら坊が叫ぶ

白石

こいつがインカラマッちゃんの言ってた、キロランケの仲間ってことなのか?

男性

おい、看守!

男性

何が起きてんだ?一体!

杉元

てめえ!キロランケの仲間なのか?

杉元

どうなんだ!

男性

んんん……

忠成

こいつ喋れねえのか!?

白石

こいつは替え玉ってことか、

白石

マジかよ、そこまでする?

杉元

わかんねえが、とにかく、俺たちがハメられたのは確かだぜ

門倉

(お前らにはまだここにいてもらうぜ)

忠成

うおおお!何だこの音ぉぉ!

門倉

第七師団がせめてきやがった!

忠成

第七師団!?

鐘の音

男性

おい看守!第七師団が攻めてきたのか?

男性

俺たち殺されるぞ!

男性

ここを開けろ!

白石

杉元、どうすんだよ

杉元

逃げるしかねえだろ!

杉元

ここから脱出する方法を考えろ!脱獄王!

忠成

頭フル回転しろ、敵は足止めしとく!

白石

うう……

銃声

杉元

ん……

谷垣

今日までずっと、鶴見中尉と内通していたということか

谷垣

インカラマッ

インカラマッ

杉元さんたちは失敗しました、こうなった今、

インカラマッ

のっぺら坊とアシㇼパちゃんを無事にここから連れ出せるのは、

インカラマッ

鶴見中尉だけです

谷垣

そうしたら、アイヌの金塊は第七師団にわたる

谷垣

お前はそれでいいのか?

インカラマッ

金塊なんて誰が手に入れようが、私にも谷垣ニシパにも関係のない話でしょ?

谷垣

(女というのは恐ろしい……)

鶴見

前進して蹴散らせ!

兵士たちが向かって行く

杉元

白石、何やってんだ?

白石

すべての監房の床下には、通気のための狭い空間があるんだ

男性

ああ!あああ!

白石

うるせえなマジで!

杉元

おとなしくしろよてめえ!

杉元

え?

忠成

どうした!

忠成

は?

のっぺら坊の方を見るとそこには火が…

男性

ああ!ああ!ああああ!

3人 ああ!ああ!ああ!

忠成

ハッ

杉元

来た!

男性

あ……ああ……

門倉

何やってる、早く逃げろ!

銃声

鶴見

のっぺら坊は?

門倉

あ……

門倉

(宇佐美!?)

鶴見

ん?

杉元が扉の外にのっぺら坊を出す

鶴見

不死身の杉元

杉元

下がれ!

杉元

言っとくが、こいつからはまだ金塊の在処を聞けてねえぞ!

忠成

……

鶴見

総勢63名の部下を連れてきた

鶴見

その方法で我々から逃げ切るつもりかね

杉元

試してやろうじゃねえか、全員武器を置いてここから…

銃声

杉元

うわ…!

忠成

うわ!

鶴見

二階堂!

浩平

キヒヒッ

浩平

う…離せ!俺が殺す約束だろ!

杉元

バカ野郎!のっぺら坊に当たったらどうすんだ!

血が流れる音

忠成

ん?

杉元

え?

白石

ああ…あ…

杉元

ぐっ……早く全員この建物から出ろ!

杉元

のっぺら坊の頭をぶち抜くぞ!いいのか!

宇佐美

ん?

宇佐美

門倉部長殿ー…

門倉

あ……

宇佐美

お久しぶりです

門倉

ああ……

門倉

何なんだよそのほくろ!

銃声

門倉

うッ……

宇佐美

門倉部長すいません、首を狙ったんですけど

宇佐美

ん……

門倉

新人……まだ、この装置のこと説明してなかったっけ?

宇佐美

ん?

門倉

フッ……

レバーを下げると、独房の扉が一斉に開いた

門倉

樺戸監獄で考案された一斉開房装置だ

宇佐美

ハッ……

門倉

フハハッ700人の凶悪犯と戦う覚悟はできてるか?

月島

ん?

囚人たちが飛び出す

宇佐美

ヒイッい…!

鶴見

着け、剣!

鶴見

一匹残らず駆除だ!

浩平

(這いつくばって)ハア…ハア……

浩平

杉元!え…

浩平

杉元?

床下の空間

杉元

土方のジジイが全部仕組んだに違いねえ

白石

都丹庵士もグルなら、アシㇼパちゃんは今頃、ジジイと一緒かもな

忠成

(マズイぞこの状況……)

白石

俺たちを偽ののっぺら坊がいる舎房に侵入させて

白石

騒ぎを起こせば、不安に駆られた犬童は、本物ののっぺら坊の隠し場所に向かうはず

白石

最初から、それが土方の狙いだった

杉元

門倉が俺たちを舎房でくぎづけにしている間に、アシㇼパさんを父親に引き合わせ、

杉元

金塊の在処を聞き出して脱出

杉元

この機会に、アシㇼパさんから俺を引き剥がすつもりだ

杉元

いつか俺が邪魔になるはずだから

白石

フッん……うう

忠成

行けそうか

白石

よし、両肩外せば出られるぞ、フッ

2人 できるかァ!

杉元

クッソ、ここから出る方法はないのかよ

白石

何か壊せるもの探してくる

杉元

俺らは!自分で何とかするから、アシㇼパを捜しに行け!

杉元

アシㇼパさんを、確保できたら正門で待て!

忠成

アシㇼパを頼むぞ、白石!

アシㇼパ

あ…白石!

白石

あ…アシㇼパちゃん!

アシㇼパ

杉元と忠成は?

白石

舎房の床下に閉じ込められてる、通気口が狭くて、俺しかでられなかった

アシㇼパ

ハッ

白石

待て待て行っちゃダメだ

白石

兵士がうじゃうじゃいる

アシㇼパ

でも……

キロランケ

わかった、杉元たちは俺が助けに行く

アシㇼパ

杉元を教誨堂に連れてきてくれ

アシㇼパ

土方歳三が、のっぺら坊はそこにいるって

白石

そっちにも行っちゃダメだぜ、杉元に、アシㇼパちゃんは正門で待つように言われた

アシㇼパ

いや、私が会ってアチャかどうか確かめないと

白石

土方の所に戻っちゃダメなんだ、あのジジイは、アシㇼパちゃんを杉元から引き剥がそうとしてんだよ

アシㇼパ

あ……杉元から?

キロランケ

杉元たちを助けたら教誨堂へ行く、何とか正門までのっぺら坊を連れてくる

アシㇼパ

待て!

キロランケ

ん?

アシㇼパ

これを杉元に

杉元

んっぐぐ…どうやったら肩を外せるんだよ!

忠成

無理すんな、肩終わるぞ

キロランケ

杉元!

杉元

キロランケ!

キロランケ

バカかよお前ら、出られるわけねえだろ!

杉元

どうすんだ?

キロランケ

壁と土の隙間に、手投げ弾を詰め込む

杉元

え?

忠成

え?

杉元

ええええ!?

キロランケ

どこかに身を隠せ!

杉元

ええ!?ちょと、待……

爆発音

浩平

え?おなら?

二階堂が布団をめくる

そこには逃げるための穴があった

杉元

ゲホッゲッホッ、教誨堂に?

忠成

ゲフッゴフッ……

キロランケ

アシㇼパがこれをのっぺら坊に見せろって

杉元

あ……

忠成

これは…

杉元

これは、アシㇼパさんのマキリ

杉元

父親が作ったマキリか…

杉元

正門で待っててくれ、白石だけじゃ心配だ

杉元

俺がのっぺら坊を連れてくる、

杉元

必ず合わせると、アシㇼパさんに伝えてくれ

キロランケ

分かった

杉元

……

忠成

(どこだろうか……)

銃声

浩平

く…う……

剣が杉元に刺さる

杉元

クッ……

その頃、土方の方では、犬童との戦いが始まっていた

杉元

オラッ!

浩平

ウッ……

忠成

杉元!

杉元

待ってろ!すぐ片付ける!

杉元

うおおおおぉ!

浩平

(義足を杉元に向ける)

杉元

何だ?

杉元

フンッ

義足を下に向けたことで、銃弾は足を掠めた程度だった

杉元

ぐっ…あ……

浩平

洋平、杉元がそっちに行くぜ!

即座に杉元が義足を奪い、浩平の手を撃った

そのまま義足で殴る

杉元

うおらッてやッ!

忠成

は…

杉元

ん?

男性

おい見ろ、誰か倒れてる、

男性

あ……

男性

二階堂だ、

男性

生きてるか?

杉元

のっぺら坊……

杉元

アシㇼパさんに会わせる、アシㇼパさんに……

忠成

……

しばらく進んだ

杉元

ハア、ハア

杉元

あ……

忠成

アデッ、どうした

忠成

誰か…いる

光で照らされて、その人物の正体が明らかになった

杉元

あ…!

杉元

青い目…

忠成

(のっぺら坊……!)

杉元

これが、なんだかわかるか?

のっぺら坊

それは…

のっぺら坊

アシㇼパに作ってやったマキリだ

のっぺら坊

なぜお前が持っている?

杉元

やっぱりか……

杉元

やっぱりのっぺら坊は、アシㇼパさんの父親だったのか

のっぺら坊

来ている、のか?ここに?

杉元

来い、全部話してもらうぜ

のっぺら坊

う…

掴まれた手を振り払う

のっぺら坊

金塊の在りかを知りたければ、アシㇼパを連れてこい

のっぺら坊

娘にしか話さん

忠成

……

杉元

金塊の在処も聞かせてもらうけどよ、

杉元

ずっとあんたには言いたいことがあった

杉元

ホントはな…

杉元

あんたをアシㇼパさんに会わせたくねえよ

忠成

(同意見だ…)

杉元

あの子は、アイヌを殺して金塊を奪ったのっぺら坊が、

杉元

本当の父親だったらとおびえていた

杉元

どうして小蝶辺明日子の和名を土方歳三に教えた

杉元

どうしてアシㇼパさんを巻き込んだ!

のっぺら坊

未来を託すためだ

のっぺら坊

アシㇼパは、山で潜伏し、ゲリラとなって戦えるよう仕込んだ

のっぺら坊

私の娘はアイヌを導く存在となる

杉元

アイヌを導くだって?

杉元

アイヌの独立運動に、アシㇼパさんを利用する気か?

杉元

あの子を、ジャンヌ・ダルクにでもしようってのか?

忠成

自分勝手な願望だけで、己の娘に怖い思いをさせるのか?

杉元

あの子を俺たちみたいな人殺しにしようってのか!

杉元

あんたらの大義はご立派だよ!

杉元

誰かが戦わなきゃならないかもしれん!

杉元

でも、それは…

杉元

あの子じゃなくたっていいだろ!

杉元

アシㇼパさんには…

杉元

山で鹿を取って、脳味噌を食べて、チタタプしてヒンナヒンナしていて欲しいんだよ俺は!

のっぺら坊

シサムよ、あの子にずいぶんと仕込まれたようだな

杉元

うう…

のっぺら坊

あ……

のっぺら坊

あの着物は……

インカラマッ

あ……

インカラマッ

赤い囚人服、隣は…

インカラマッ

アシㇼパちゃん!上に来てください!

アシㇼパ

あ…

のっぺら坊

あ…

杉元

どうだ、見えるか?

のっぺら坊

インカラマッ

アシㇼパは、恐る恐る双眼鏡を覗く

のっぺら坊

お前は、アイヌの未来

キロランケ

どうだ!アシㇼパ、お前の父親か!

キロランケ

どうなんだ!

アシㇼパ

アチャだ…

キロランケ

間違いなくウイルクなのか?

杉元

アシㇼパさん、どんな顔してる?

アシㇼパ

(アチャ…どうして……)

のっぺら坊

アイヌを殺したのは私じゃない

杉元

ああ?

のっぺら坊

アシㇼパに伝えろ、金塊……

銃声

忠成

はっ……!

インカラマッ

ウイルクが撃たれた!

アシㇼパ

え…

キロランケ

ん?

杉元はウイルクを掴み、前に出す

銃声

忠成

杉元!

アシㇼパ

杉元ォ──!

インカラマッ

アシㇼパちゃん、今すぐ逃げなさい

インカラマッ

これで金塊の謎を解く鍵は、あなたの中だけにしか存在しなくなってしまった

インカラマッ

みんながあなたをめぐって殺し合いになる!

アシㇼパ

アチャ!杉元!

キロランケ

助からん、諦めろ!

アシㇼパ

放せ!放せ!

キロランケ

逃げるぞアシㇼパ!

アシㇼパ

死んでない!置いていけない!

アシㇼパ

放して!すぐそこにいるんだぞ!

キロランケ

ダメだ!

アシㇼパ

放せ!

キロランケ

2人を撃ったやつが近くにいる!

白石

杉元が?マジかよどうする!

忠成

ハア……

忠成

(何故俺のことは撃ってこない?)

忠成

(杉元を、アシㇼパの父を、避難させなければ……!)

尾形

もう少し左か……

忠成

あ…谷垣……!

谷垣

う……く…

谷垣

んん……

銃声

谷垣

うぐ……く…

谷垣が2人に覆いかぶさる

忠成

手助けする!

谷垣

ハア、く…う……

忠成

う…

忠成

大丈夫か、谷垣!

忠成

なんだ、この煙は

忠成

は……今だ!逃げるぞ!

谷垣

ハア…ハア……

忠成

あぁ……!

谷垣

ん、

谷垣

インカラマッ!

谷垣

どうした!何があった!

インカラマッ

う……

インカラマッ

ウイルク……が撃たれた時…

インカラマッ

キロランケがどこかに……合図していました…

谷垣

キロランケが?

鶴見

谷垣源次郎一等卒

谷垣

ハッ

鶴見

忠成くぅん、久しぶりかな?

忠成

鶴見中尉……!

鶴見

不死身の杉元、脳味噌が欠けた気分はどうかね

鶴見

我々は脳味噌欠け友達だな

月島

まさかお前みたいな凶悪犯が名医だったとは

月島

天才と何とかは紙一重とは言うが……

家永

私は趣味の拷問で何人もの開頭手術を行ってきました

家永

ちょっとずつ脳味噌を切り取り、まだ意識がある本人の目の前で焼いて食べるのです、ショウガじょうゆで

家永

まあ、驚異的な回復力の杉元さんだから助かったのですけれど

家永

それよりもインカラマッさんが危険な状態です

家永

情報を聞き出したければ今のうちです

忠成

……

インカラマッ

キロランケたちは…

インカラマッ

樺太へ向かったはずです

インカラマッ

ウイルクと…杉元さんを撃った発砲音は、照明弾に打ち上げる轟音にかき消されて、分かりませんでした

杉元

あんな狙撃ができるのは尾形しかいねえ

杉元

撃たれた瞬間、あいつを感じた

忠成

だが、俺は何故か撃たれなかったんだ、あいつなら邪魔なやつは全員撃つはずなのに……

キロランケ

杉元まで撃つ必要があったのか?

尾形

のっぺら坊が父親だと確認された直後に、杉元が何か言葉を交わした、

尾形

金塊の在処か、アシㇼパしか知らない暗号を解く鍵か…

尾形

あるいは、あんたのことか……

尾形

ひょっとしたら生きてるかもしれんぞ

尾形

アシㇼパも奪われて、今頃不死身の杉元は怒り狂ってるかもな

杉元

尾形もキロランケもぶっ殺してやる

鶴見

辺見和雄、二瓶鉄造……

鶴見

よくぞこいつらを捕まえたなあ

杉元

それで、キロランケたちが樺太へ渡ったという根拠は?

鶴見

のっぺら坊は、7人のアイヌを殺したあと、金塊を少量持って、

鶴見

樺太へ向かう途中で捕まった

鶴見

確かな情報を持っていき、本隊を動かすつもりだったと私は見ている

鶴見

アシㇼパという重要な鍵を手に入れた今

鶴見

キロランケは、かつて極東でゲリラ活動をしていた仲間と合流する可能性が高い

鶴見

パルチザンにアシㇼパが確保されるとやっかいだ

杉元

アシㇼパさんを取り戻す

杉元

俺と忠成を樺太へ連れて行け

杉元

あんたらだけで行っても、アシㇼパさんは信用しない

谷垣

俺も行きます

谷垣

アシㇼパが信用してるのは、俺たち3人だけのはずです

杉元

いいのか?

家永

アシㇼパさんを絶対に取り戻してください!

家永

アシㇼパさぁぁあん!!

忠成

お前杉元の脳味噌つまみ食いしただろ

鶴見

網走監獄で暴れた後片付けが残っているので、私はまだここを離れられん

鶴見

樺太へは少数精鋭で先遣隊を送る

鶴見

月島軍曹と鯉登少尉、お前たちが同行しろ

鯉登

キエエエエ!

月島

どうして私が、鶴見中尉から離れなければ行けないのかと

鶴見

父上である鯉登閣下からの頼みだ

鯉登

ハァッ……

忠成

ほらぁ少年、元気だせー、立てー

杉元

かわいい子には旅をさせよのつもりですか?

杉元

息子さんは、死体で帰ってくるかもしれませんよ

待ってろよ、アシㇼパさん

アシㇼパ

あいつは……

杉元

俺は……

アシㇼパと杉元 不死身の杉元だ

忠成

だいぶはしょりました、すいません(;_;)

忠成

ではまた

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚