律
お、今日こそ俺の方が早かったな?

またある日の屋上。
ある日じゃないな、私が落ちて1ヶ月と4日。死後35日目の屋上だ。
まるで先回りしてた、と言いたげな彼だけどそんなことはない。
沙希
そんなわけないでしょ。私はずっとここにいるんだから

律
ずるい言い訳だなぁ

沙希
いい訳じゃなくて本当だし

律
さきちゃんがそう言うならいいけどさぁ。そういうとこ直さないとこの先苦労するぞ

沙希
先とかないし。それとも来世の話?

律
いやいや、頑張ることに価値があるんじゃよ

沙希
キャラ統一しなよ・・・

なんてくだらない会話だろう。
用事なんてない。毎日こうやって話すだけ。
彼には授業があるから、放課後だけだけど。
律
やっぱりたまにはカフェでお茶とか飲みたいよね

沙希
写真撮ったり?

律
俺めちゃくちゃ得意なんだよ、写真

沙希
え、初めて聞いた。写真見せてよ

律
おーちょっと待ってろ

彼は横に乱雑に放り投げられた使い古しのカバンの中を漁り出す。しばらくそうしていたものの、目当てのものは見つからなかったのか大袈裟に肩を竦めて見せた。
律
携帯ないんだったわ

沙希
また忘れたの?鳴らしてみようか

律
いいよ、母さんとかが家でとったら・・・その、まずいだろ

沙希
あ、確かに・・・律のお母さんと会ったことないしね。お付き合いさせていただいてます・・・みたいな?

律
うわ、恥ずかしいし家帰れねぇわ

沙希
なにそれひどいなぁ。まぁ、かけられないけど電話もうないし

律
そんなこと言ってないで帰れよー

沙希
こっから動けないってば。それとも律は私に消えて欲しいの?

律
いやいて欲しいけど

沙希
・・・もう。ほら、そろそろ帰りなよ

律
はいはい

そしてまた、私は暗闇に消える律を見送る。
また明日も、律は来てくれるかな。