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第1話 - あ

2023年06月12日

#恋愛

結城真矢

マイ

アイさん、辞めていただけません？

アイ

え？

アイ

どういう意味？

マイ

だから、仕事辞めていただけませんか？

アイ

突然なにを言い出すの？

アイ

どうしてやめなきゃならないわけ？

マイ

育休の予定でしたよね？

アイ

ええ、そうよ。

アイ

今妊娠して、育休を取る予定でね。

マイ

育休ではなくて、そのまま退職をしていただきたいんですよね。

アイ

は？

アイ

何が狙いなわけ？

マイ

アイさんって主任じゃないですか。

マイ

その主任枠を私に譲っていただけないかなぁってw

アイ

今のあなたに、そんな大役ができるとは思わないけど？

アイ

前回のイベント企画だって、ミスしたばかりじゃない。

マイ

あれは、取引先との確認をちょっとだけ怠ったって話じゃないですか。

アイ

それに、今人手不足で忙しいっていうときによくそんな呑気なこと…

マイ

えー、でもアイさんがいなくならないと、私出世できないじゃないですか？

アイ

出世って…甘過ぎ。

マイ

大丈夫ですって。

アイ

その少しのミスが、会社にとってどれだけの打撃か考えたの？

マイ

はいはい、分かりましたーすみません。

アイ

そんな適当な人に、主任なんて任せられないわ？

マイ

でも、育休なら結局いないんですよね？

マイ

私が今後指導していくんですから、同じことじゃないですか。

アイ

そうかもしれないけど…

マイ

ですよね？

マイ

だから、退職の方をぜひ、よろしくお願いします。

アイ

あ、そう。

アイ

いいわ、考えとくわ。

マイ

ほんとですか！？

マイ

ありがとうございます。

アイ

また何かわかったら、連絡する。

～数日後～

アイ

来週から私退職することが決定したの。

アイ

主任もあなたがすることになったわよ。あとはよろしくね。

マイ

え、そうなんですか！？

マイ

私もついに出世できるんですね！そしてお疲れ様でーす。

アイ

引継ぎはきちんとできなかったけど、今いる上司に教えてもらってちょうだい。

マイ

わかりました。任せてくださーい。

～数か月後～

マイ

ちょっとアイさん！

マイ

聞いてください。

マイ

最近後輩が言うこと聞かなくて困ってるんですよ。

アイ

突然なに？

マイ

私、主任なのに、なめられてるっていうか…

アイ

久しぶりの連絡でなにかと思えば。

マイ

だって、私の言うことに対して適当に返ってくることとかあって。

アイ

それは、あなたの指導に問題があるんじゃあ？

マイ

どういうことですか。

アイ

そのまんまよ。

マイ

私、ちゃんと教えてますよ？

アイ

どうかしら？

アイ

この数か月、社長から聞いたわ。

マイ

え、アイさんって社長と仲がいいんですか？

アイ

知り合い繋がりで、たまにご飯行ったりするのよ。

アイ

その中で聞いた話によると、あなた人使いが荒いみたいじゃない。

マイ

えー？そんなつもりないですけど。

アイ

私がいなくなって、新人たくさん入ったって聞いたわ。

アイ

ちゃんと教育してる？

マイ

私の指導が悪いってことですか。

アイ

部下に残業させても、ねぎらいの言葉もないって。

マイ

残業なんて当たり前だし、いいかなって思っただけです。

アイ

あなたね、当たり前だなんて非常識よ？

マイ

どうしてですか？

マイ

雰囲気でわかるじゃないですかー

アイ

それは、あなたの勝手な判断でしょう。

マイ

だって、毎日忙しいって朝礼で言ってますし。

マイ

残業してくださーいって、お願いしてます。

アイ

残業は強制じゃないのよ？

マイ

いやいや、この忙しいときに断る人こそおかしいです。

アイ

そういう問題じゃないのよ。

マイ

どういう問題ですか。

アイ

それと、部下が失敗をしても責任をなすりつけてるってね？

マイ

そんなことしてないです。

マイ

私は間違えたことに対して、違うって指導しただけで。

アイ

責任を部下になすりつけたりしてない？

マイ

なすりつけるだなんてｗ

マイ

まぁ、間違えたら自分の責任だよってことは言ってますよ。

アイ

それよ。

アイ

部下が間違えても、責任もって主任がとらなければいけないの。

マイ

責任って、間違えたのは部下なんですよ？

マイ

どうして私が悪いことになるんですか。

アイ

そういうこと含めて、主任の仕事なの。

アイ

出張に行った際も、手土産と差し入れ無し、奢ったこともないって。

マイ

ちょっとちょっと、どうしてそのことまで知ってるんですか！

マイ

怖いんですけどーｗ

アイ

常識なことをしてなさ過ぎて、私も驚いてるのよ。

マイ

そんな面倒な作業、頭にも入ってないし、必要ないと思うんですよね。

アイ

クライアントの前でも、平気で罵倒するってことも聞いたわ。

マイ

罵倒だなんて。言い方悪いじゃないですか？

アイ

ほら！さっさと働け、ノロマ！とか

アイ

何年この仕事してるんだ？お前はバカか？とか言ってるんだって？

マイ

いやいや、ほんとに超絶遅いんですよ？その部下。

マイ

びっくりするぐらいに！

アイ

あのね、そういうことを言ってるんじゃないの。

アイ

クライアントの前で、そういう発言を慎みなさいってことよ？

マイ

本音を言ったまでです。

～二年後～

アイ

今日からまた、復帰することになったからよろしくね。

マイ

え、そうなんですか？

アイ

社長から直々にお願いされたの。

アイ

あなたの部下がどんどん辞めていくっていうことを聞いて。

マイ

そうなんですよ、やっと教えたのに次々に辞めてくんです。

マイ

ほんと、迷惑極まりないっていうか。

アイ

その真意を探って欲しいと頼まれたの。

アイ

マイちゃん、それで大丈夫なの？

マイ

どういうことですか？

アイ

会社に辞めさせられるかもって思ったりしないの？

マイ

そんなのありえないです。

アイ

どうしてそんなに自信があるのよ。

マイ

私、実はコネ入社なんで、クビはありえないですｗ

アイ

よく、堂々と言えたものね…

アイ

大手取引先の部長の娘だから？

マイ

そうですねｗ

マイ

ある程度のことは、許されるっていう特権ですか？ｗ

アイ

ある程度…ね。

マイ

あー、でも最近ちょっとやばいかなぁって思うことといえば、

マイ

クライアントの名前を間違えた？ことですかね。

アイ

名前を間違えた！？

マイ

らしいですけど、そんな大げさじゃないかなぁって。

アイ

それで？

マイ

大失態したぞって聞いたんですけど、詳細は教えられず気にするなと。

アイ

なにそれ。

マイ

ま、私のパパがどうにかしてくれたのかなって、勝手に思ってますｗ

アイ

背後で動いてくれたと、安心してるってことね。

マイ

そういうことです～

マイ

大手取引先の部長の娘でよかったですよ。

アイ

自分で言うことじゃないでしょ。

アイ

その大失態した内容は、どうなったか気にならないわけ？

マイ

どうにか収まったなら、いいかなって。

アイ

ほんと、それで主任として大丈夫？

マイ

言っときますが、今はもう私があんたより立場上なんで。

マイ

上司の言うことには従ってもらいます。

アイ

そうだったわね…、失礼のないようにしていきます。

アイ

あ、話を戻すけど質問いいですか？

マイ

なんです？

アイ

テーマパークに外部発注したっていう話なんだけど。

アイ

あれ、大したことないとか思ってないわよね？

マイ

え、そんなにやばいことですか？

マイ

何か知ってるんですか？

アイ

知ってるわよ。

アイ

発注した見積書の内容を改ざんしたっていうことも。

マイ

ほんと、あんた怖いんですけど…

マイ

どこまで知ってるの。

アイ

単刀直入だけど、本当なの？改ざんだなんて。

マイ

そうですね…。だってあり得ないと思って。

アイ

その勝手な判断が、今大変なことになってるのよ？

マイ

そんなにですか？

アイ

さっき、どういう失態だったか、教えられてないって言ったわよね？

マイ

はい。

アイ

超有名テーマパークのUSDが外部発注をするはずがないと思い、

アイ

以前に発注履歴のある、大手銀行のUSBに見積書を送信したわよね？

マイ

はい、全くその通り…

マイ

ほんと、何なの、探偵？あんた怖いんだけど

アイ

クライアント、USB銀行じゃなくてテーマパークのUSDだよ？

マイ

へ？

アイ

へ、じゃないわよ。

マイ

そ、そんなはずないですってー…

マイ

あのテーマパークのUSDがそんな、外部発注なんてするはず…

アイ

その思い込みが落とし穴なのよ。

アイ

正しい見積書の確認はきちんとしたの？

マイ

確認は…

アイ

してないのね。

アイ

勝手に改ざんして、関係のない会社に送信したってことね。

マイ

でも…

アイ

情報漏洩の罪は重いのよ？わかってる？

マイ

へ、へ～…でも、私のパパがなんとかしてくれてるはず…

アイ

そのUSB銀行の社長、私の夫なの。

マイ

え、そそうなんですか！？

アイ

双方の会社に詫びに行った際に、「部下の手落ちだったと」

アイ

虚偽の言い訳をしたらしいの。

マイ

それ、私は関係なくないですか？私してないし。

アイ

あなたの父が、そういう風に伝えてくれと指示したらしいのよ。

アイ

考えられないことをしたわよね。

マイ

さすが、パパ。

アイ

喜んでるのも今のうちね。

アイ

その虚偽で、収拾がつかなくなったことにより、あなた異動が決定よ。

マイ

え？

マイ

異動って、ど、どういうことですか？

アイ

問題児ってことになったわけ。

アイ

社内に器材整備課という閑職を新たに設けて、そこに異動って言ってたかな。

マイ

ちょ、なんでそんな急に…

アイ

とりあえず、これ以上問題を起こすなってことじゃないかしら。

マイ

問題って…

アイ

何でも、父がどうにかしてくれるとか甘え過ぎじゃないかしら。

～数日後～

アイ

あなたの父から会社に娘の失態の謝罪があったわ。

アイ

そのことは聞いてるかしら。

マイ

そうみたい…ですね。

アイ

まさか、虚偽の言い訳を仕向けた本人が謝罪をしてくるだなんて、

アイ

会社側もびっくりしたみたいでね。

マイ

その件について、本当に申し訳ないと、私自身も思っていて。

アイ

ま、そういう心の入れ替えは褒めるわ。

アイ

でも、やってはいけない問題という自覚はあるのね。

マイ

異動してから、私が下の立場に切り替わってから

マイ

私に対する態度がきついんですよ。

アイ

そんなの、あなたが言うこと？

アイ

もっと酷いことを、自分は部下にしてきたこと覚えてる？

マイ

あー、いや、それは…

アイ

誰のおかげで、退職していったか…

マイ

それは…！

アイ

それともう一つ、あなたの父から報告があったの。

アイ

あなた、今日で退職らしいわ。

マイ

え？

マイ

ちょ、そんなの聞いてないですよ！

アイ

父からの申し出で、社長もすんなり受け入れたわ。

マイ

明日から私…どうすれば。

アイ

金銭的な援助をしてもらってるらしいけど、それも解消するって。

マイ

は？そ、それは困る！

アイ

これだけ問題おこしたんだもの。再就職は難しいかもねぇ。

アイ

アルバイト生活かしらね。

マイ

あの、ずっと疑問だったんですが、どうしてそこまで情報知ってるんですか…

アイ

私、実は探偵の仕事もしてるの。

～後日談～

アイ

アルバイト生活をしていたマイに、外国人の彼氏ができたという噂が立った。

アイ

彼氏ができたという噂には、どうでもよかったのだが、

アイ

その相手とは一度も会ったことがない、サイト上のみの彼氏という。

アイ

それゆえ、ロマンス詐欺にあったとか。

アイ

詐欺だと信じたくないマイは、実体のないジェームズを探し

アイ

遠くイギリスへ旅に出て、それっきり消息を絶ったという。

アイ

私はというと、また主任の役職へ復帰。

アイ

夫やマイの父の力添えもあり、これまでのトラブルも解決しました。

アイ

部下にも恵まれ、来春には関西支店長に就任する見込みとなって、今後が楽しみです。

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