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俺が……俺が…
魔法を使えば……?
俺は頭を抱え、ぎゅっと目を閉じた
その場にしゃがみ込む
……、無理だ
俺に魔法なんて使えるわけ無いだろ!!
俺は魔法が嫌いだ
何故かって?
俺にそれを教え込んだのが
俺の師匠…だった人だからだ
もう、決めたんだ
あの人のことは信じないって
だってあの人は
俺を裏切ったんだぞ?!
信じちゃ…ダメなんだ
俺はなんでここにいる?
あの人に復讐するためだろう
三年前のあの日、自分に誓ったはずだ
どんなものでも切り捨てる覚悟は 疾うの昔にできている
いるまやいふさん
俺の周りにいる人たちは
俺にとって
ただの都合の良い駒に過ぎない
だから彼らが死のうが生きようが どうだっていい
俺には関係のないことだ
そうだろ?な?
俺は必死に
自分の心にそう言い聞かせた
そうでもしないと
俺のこのガラスの心は
罪悪感と失望感で
いとも簡単に砕け散ってしまうから
俺は何もしなくていいんだ
このまま目を瞑ってたらいいんだ
もう少し時間が経てば
何もかも終わってるはずだから__
手足の感覚が薄れていく
俺の意識も…深く沈んでいった
足音が聞こえる
俺のものでも 隣の商人のものでもない
……新手か
幅の狭い廊下で反響するそれは
敏感な俺の鼓膜を無作為に揺らした
なんで耳障りな音なんだ
消えてくれ
俺はそう願うが
残念ながら 不快感を与えるその音が止まることはない
最悪なことに、徐々に接近してきたそれは
俺のすぐ手前で静止した
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身を屈めて俺と目線を合わせた足音の主は
俺に手を差し伸べて
ふわりと微笑んだ
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椅子の上でうずくまってる俺に
その男は毎日毎日飽きもせず話しかける
こんな抜け殻を相手にして
一体何が楽しいのやら
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知るかよ
そっちの都合だろ
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俺を諭しているつもりなのだろうか
そんな言葉
今更俺の心に響くはずないのに
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感覚が戻ってくる
どうやら過去の思い出から帰ってきたようだ
音がしない……?
俺はゆっくりと瞼を開ける
あの火柱はすでに消えていて
先程と特に変わった様子のない部屋が そこにはあった
壁が吹き飛んでいるわけでもなく
棚や書物が焼け焦げているわけでもない
あれだけ炎が舞っていたというのに 嘘みたいだ
終わった、ってことでいいのか?
安心して息を吐く
だが次に俺を襲ったのは“後悔”だった
俺は一体、何を……?!((震
焦りと恐怖で正気を失っていたとはいえ
俺は我が身可愛さで
人間としてやってはいけないことをしてしまった
恩を仇で返すような真似をしてしまった
昔と何も変わっちゃいない
怖かったんだ__
もしまたあの人の言葉を頼りにすれば
あの人に対する復讐心が
揺らいでしまう気がして
とても、怖かったんだ
だから
大切な人たちを駒呼ばわりするなんて
馬鹿げたことをを考えてしまったんだ
本当はそんなこと思ってない!!
いるまは俺に生きる理由をくれた
3年間ずっと俺の支えとなってくれた
いふさんは人見知りな俺に
根気強く声をかけて 最大限のサポートをしてくれた
あれが俺の本心なわけが………
そう、なのか?
あれは俺が本気で思ってたこと…?
冷静になり、想いが揺らぐ
以前誰かから聞いたことがあるのだ
人間は危機的状況に置かれて初めて
隠れていた本性が顔を出すのだ、と
この理論に則った場合
俺がいるまたちを大切だと思う気持ちは
良好な人間関係を築きたいがための
取り繕った偽の感情で……
本当は___
……ヤット気ヅイタノカ
悪魔の囁きが脳に響く
君ハ自分サエ良ケレバ 他人ハドウダッテ良イニンゲンダ
ちがう……
違ワナイ
違う!!
彼ラノコトヲ 便利ナ駒トシテ見テハイナイ、ッテ
断言デキル?
………
デキナイダロ?ww
……ッ
イイ加減認メルトイイ
君ハ自分ノコトシカ眼中二ナイ
最低ナクズ野郎、ッテコトヲサ
「そんなわけない!!」
俺の頭はそう訴えかけている
だが“捨て駒扱い”という捉え方は
皮肉にも
俺の心にストンと落ちた
頭では理解はできないが
妙に納得する自分がいたのだ
これが俗に言う
利己主義者(エゴイスト)
ってやつなのかもしれない
俺は……最低な人間?
ピンポーン!大正解〜!
良クデキマシタ〜!パチパチ〜!
悪魔は陽気に拍手した
奥底に眠っていたドス黒い塊が
ゆっくりと
だが着実に
俺の心を蝕んでいく
なんで?
なんで俺はこうなってしまったんだ……
………ワカラナイ??
心当タリ アルデショ?
あの人が…俺を裏切った、から…
御名答
モシ、裏切ラレテナカッタラ……?
この疑問を抱くこともなかった
悪魔は不敵な笑みを浮かべる
モウ、分カッタヨネ
ああ、良く分かったよ
そこから俺の歯車は狂い始めたんだ
全ての元凶は……
俺を裏切ったあの男だ
抱えていた重い絶望感が
負のエネルギーへと変換されてゆく
持ち場のないこの感情の矛先は
この瞬間全てあの男に向けられた
肩が軽くなり、力が漲ってくる感覚
もはや誰にも俺を止めることなど 出来やしないだろう
俺の復讐の終着点が
今ここで決定した
魔法が嫌いなどとほざいてる場合ではない
あの男は俺の持ちうる全てで
確実に殺してやる
いるま
俺はそう呟きながら走り始めた
開いた本を片手に呆然と立ち尽くす
いふさんの元へ
炎がいふさんを包みこんだあの時
頭よりも体が先に動いた俺は
いるま
発動までの時間が極めて短く
炎に対して最も有効であろう水魔法を
俺の出せる最大出力で叩き込んだ
これで消えてくれ
そんな期待とは裏腹に
消え去るどころか威力を増していく炎
俺の魔法をかき消すことなど へでもなかったのかもしれない
もう一度高威力の魔法を 放ちたいところではあるが
先の水魔法で 魔力を半分以上持っていかれたため
それも叶わない
小規模魔法数発が限界だ
俺にもっと魔力があれば……!
何度思ったことだろうか
もう一発…魔法を発動できていたら
あとMPが1でも残っていれば……と
俺は生まれてこのかた
魔法を強化することに心血を注いできた
雨の日も雪の日も
誰に何と罵られようが努力を怠ったことはない
その結果がこれだ
俺は火柱1つ消すことさえ出来ない弱者だ
理由は明白
努力不足?
違う
解答:魔力不足
どれだけ訓練を重ねても
俺のMPはある数値を境に
ピタリと増加しなくなってしまった
才能がなかったのだろう
努力は報われる
そんな事を言ったのは何処の馬鹿だ
いるま
魔力は底をついた
残る手段は……
俺はおもむろに虚空を掴む
数秒後、その手に握られていたのは
一振りの剣だった