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絵里とLINEを始めて一ヶ月が経ったけど、やっぱり通話すらできないままだった。
気にしていないと言えば嘘になる。
親が九州の出身だと言っていたから少し訛っているらしいけど、それがどんな風なのか。
どんな声でどんな喋り方をするんだろうと想像しても、切なくなるだけだ。
LINEしかしていないのに変かも知れないけど、俺は彼女に恋をしていた。
だから日が過ぎることに胸は苦しくなっていって、夏も終わりかけになった頃。
康太
絵里
康太
康太
遊びに誘ったのは初めてだった。
そもそも以前に通話を断られているんだから遊びに誘えるはずもない。
絵里
断られるような気がしていたのに、わかっていたのに少し苛ついた。
康太
康太
康太
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
そして、俺は彼女とLINEするのをやめた。
気持ちの悪いもやもやだけが胸に残って、枕を叩きつけても気が晴れることはなかった。
翌日も絵里からおはよーと来ていたけど返す気にはならなかった。
続けて昨日はごめん、とあって。
その後には、
絵里
絵里
と、告白があったけど。
だったら尚更通話も遊びも無理なのがわからなくて、なんでと問い詰めても意味がなさそうだったから、スマホを暗くする。
絵里
絵里
既読無視。
友達にすらしたことなかったけど、こういう時にするもんなのかな。
母
一階の母に呼ばれたから支度をする。
絵里からお願い、ともう一度LINEが来ていて、なんでこんなに必死なのかと後ろ髪を引かれたけど、反応することはなかった。
歩いて近くのスーパーに行き、買い物を終えた帰り道、俺は米を持たされていた。
康太
母
康太
左手に10キロの米と右手に(俺が頼んだ)ジュースのペットボトル。
家までは近いから大したことじゃないにしろ、重いものは重い。
夏も終わりとはいえまだ暑い。
流れる汗をなんとか拭うと、ポケットの中のスマホが鳴った。
取ろうとするも荷物が重くて上手くいかない。
そうこうしているうちに鳴り止んでしまう。
絵里
不在着信
康太
掛け直そうとする前にLINEが届く。
絵里
康太
絵里
康太
言われるがままに前を見ると、イヤホンで音楽を聴きながらスマホに視線を向けた男が、自転車に乗って走っていた。
危ない奴だな…
康太
母
察したのか、母と一緒に端に寄る。
すると自転車は俺たちを通り過ぎる直前で大きくふらついた。
自転車乗り
康太
咄嗟に声が出ただけでなにができたというわけでもない。俺は荷物を持っているし自転車を引っ張るなんて突然には無理だ。
そのまま自転車は道路側に倒れて、そこを車が突っ込んできた。
突然の飛び出しに車はけたたましいクラクションと共に急に曲がり、ガードレールに突っ込んで衝突した。
自転車乗りは運転手のお陰で無事だ。運転手もスピードを出していなかったのか、エアバッグは痛々しいけど血を流れている様子もない。
康太
母
康太
母
言われて車が止まった場所に注目してぞっとする。
そこはさっきまで俺がいた場所だった。
警察が来たり救急車が来たりと慌ただしいあれそれは終わり、家に着いた俺は急いで絵里にLINEした。
康太
康太
康太
絵里
絵里
半信半疑だったものが確信に変わる。
俺は絵里に助けられたんだ。
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
康太
康太
康太
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
康太
康太
康太
絵里
絵里
康太
康太
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
康太
康太
それから数時間、彼女からLINEはこなかった。
なにがあったんだろうと頭を捻って良く考えた。
そして恐らくこれが正解なんだろうな、と気付いてしまった。
彼女は俺の死を体験してるからより身近に、不幸な結末を予測できたのだろう。
そしてこれだけ音沙汰がないのは当たってしまったのだろう。
夜になって、改めて彼女にLINEを送った。
康太
康太
康太
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
康太
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
絵里
絵里
絵里
絵里
康太
その頃にはもう涙が止まらなかった。
彼女も画面の向こうで、時間の向こうで泣いているんだろうか?
康太
康太
康太
絵里
まるでノイズのように。
絵里
絵里
絵里
学校が始まって、俺は早速絵里を探した。
絵里は二つ隣のクラスで、前髪で目を隠した地味な女の子だった。
廊下を歩いていたから、わざと、なるべく自然に見えるようスマホでもいじりながら彼女にぶつかった。
康太
絵里
とても小さなか細い声。
不安がたくさん詰まったかのような、LINEとは全く違う声。
康太
黙って見つめていると彼女は挙動不審に辺りを見回した。
俺は
康太
そう言って、その場を後にした。
絵里。
俺は本当に絵里が好きだよ。今でも好きだ。
でもそれは一ヶ月後の君であって、俺の死を体験した君であって、俺を助けてくれた君であって、
現在(いま)の君じゃない。
ほら、初恋は実らないって言ってただろ?
俺の初恋は、実らなかったんだ。
夏の終わりといえどまだ暑い。
けれど白昼夢にも似た夢のような夏は、
ただ切なさだけを教えて過ぎていった。