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スズ

……そんなに知りたい?

もったいつけてくる彼女。

僕は少しためらったが、ゆっくりとうなずく。

すると彼女はほんの少しだけ、困ったような表情を見せた。

視線を右に逸らし、考え込むように虚空を見つめ--

スズ

言葉を、食べるの

そんなことを、言った。

スズ

わたしね、

スズ

人間の言葉を食べないと、生きられないの

ユウヤ

…………え?

スズ

それで、言葉を食べると……

スズ

そこに込められた気持ちがわかるんだ

ユウヤ

食べるって……

ユウヤ

普通の食べ物みたく食べるってこと?

ユウヤ

……言葉を?

スズ

そう

逆光に照らされ、表情はよく見えない。

でもその雰囲気は、冗談を言っているようには思えなくて--

スズ

私、人間じゃないから

時間が、止まった気がした。

スズ

わたし、小悪魔なの!

ユウヤ

(…………へ?)

ユウヤ

こ、小悪魔?

スズ

そう!

スズ

食いしん坊の小悪魔ちゃん!

スズ

君みたいな堅物でも、メロメロにしちゃうの!

ユウヤ

そ、そっかぁ……

ユウヤ

(予想の斜め上だった……)

どちらかというと彼女は、真っ白な羽衣を身にまとった天使か……、

あるいは女神と言う方がしっくりくる感じもするけど。

ユウヤ

(でもしょっちゅう僕をからかって笑うところなんかは--)

ユウヤ

確かに、そうかも

スズ

ふぅ~ん

スズ

やっぱメロメロなんだ?

ユウヤ

え?

ユウヤ

…………あ

ユウヤ

(……やられた)

ユウヤ

いっ……

ユウヤ

いや、その……

スズ

ちょ、キョドりすぎだよ!

スズ

あははっ!

爆笑しながら、僕の左胸の辺りをペシペシと叩く立花さん。

スズ

は~、おっかし……

ユウヤ

(……やっぱり、小悪魔だな)

ひとしきり笑い終えた彼女はそう独りごちながら、目尻を拭っている。

そして数秒かけて呼吸を整える。

スズ

ほら!

スズ

行こ!

ユウヤ

あっ……ちょ

彼女はいきなり僕の前から姿を消し、小走りで歩道橋の上を駆け出す。

スズ

置いてくよ~!

あっという間に半分ほど駆け抜けてから、片手をメガホンにして僕に呼びかける。

特に予定もないんだから、急ぐ必要なんてないのに。

だけどそんなところも立花さんらしい。

ユウヤ

--待ってよ! 立花さん!

前方を見据えると、歩道橋の上から望む街並みが広々と開けていた。

天高く聳え立つ高層ビルたちが、僕たちを歓迎しているみたいだった。

僕は、右足を踏み出す。

彼女に置いていかれないよう、大きく、一歩。

彼女の華奢な肩にかかったハンドバッグが、ゆらゆら揺れていた。

手招きするみたいに、ゆらゆらと。

なぜだか脳裏に、さっきのダイヤル付きのおかしなケースの映像が浮かんだ。

こっちだよ、と。

バッグの隙間から、そう聞こえたような気がした。

--この時、僕はまだ知らなかったのだ

立花さんの秘密も。

僕を待ち受ける運命も。

「愛してる」を食べさせて

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