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天野ゆい
天野ゆい
主だよ~
彩side
モブ
このひと言で、クラスの大半の女子の顔が輝いた。 私も、ちょっぴり耳を大きくする。
モブ
KZとかいてカッズと読む。 今、最高にカッコいいサッカーチーム。 秀明ゼミナールっていう進学塾が体も鍛えないと受験に勝ち抜けないからと 言う理由で自分の塾の生徒の中から希望者を募って作ったんだ。 KZ高等部、KZ中等部、KZ小学部って3つのチームがあって、 秀明ゼミナール自体が、かなり難しい塾で、入塾テストで落ちる人も かなりいるんだけれど、そのレベルの高い秀明のなかでも偏差値が70以上 でないと、KZには入れない。 つまりKZは、エリート集団なの。 そんなこともあって、最初はみんなが、どうせ秀才チームだから 弱いだろうってバカにしていた。 でも、県主催の小・中・高のサッカーリーグで、KZ高等部とKZ小学部が みごとに優勝したものだから急に注目され始めたんだ。 テクニックもよかったのだけれでど、とにかくみんなが、 すごくカッコよかったの。 全員が、鎧みたいなメタリックのシルバーのユニフォームでね、 すらりと長い足を出して。 決勝戦になったときなんかもうお母さんたちまで キャーキャーだったんだから。 うちのママもよ。 もちろん、お父さんたちも、彼らをたっぷり褒めた。 男の人の中には、いくら勉強ができてもスポーツのできんヤツなんかは、 男としちゃ認めんぞって気持ちがあるみたい。 でもKZは、その障害を軽く乗り越えて、いちはやく このあたりのみんなのアイドルになってしまったのよねぇ。
モブ
モブ
モブ
モブ
モブ
モブ
女の子たちの視線がこっちに向けられるのを感じて、 私は手が震えてしまった。 そう、私は秀明に行ってるの。 このクラスの人たちの何倍も勉強してる。 なぜって、私立のいいとこか、国立の付属に行きたいから。 そのために、今の自分にできることを精一杯やったほうがいいと思うから。 後で後悔したくないから。 ママもそう言うし、私自身も本当にそう思うんだ。 でも、行きはじめたのは、つい1年前から。 だから、塾のなかでは、遅れてる方。 本当にいいとこ目指す人は幼稚園から行ってるし、遅くても、小学校の3年までには、もうほとんどの人が通ってる。 私は、2年のハンデを負ってるのよね。
今井さん
少し尖った声は、今井さんだ。 はっきりと私を意識して言っているのが、声の調子で分かる
今井さん
今井さんは、この間、ウサギ係だった。 でも、なにか用事があるとかで、エサをやるのをかわってほしいって、 次の当番だった私にたのんだの。 私、本当はかわってあげたかったんだけれど、 でもちょうど塾の日だったから、できなかった。 今井さんに今井さんの都合があるように、私にも、私の都合があるから、 しかたがないと思うんだ。 でも今井さんは、すっごい目で私を見た。 それから、ずっとツンツンしてる。 私のこと、嫌いになったのかもしれない。 でも、それならそれでしかたがないな。 だって、どうしようもないことなんだもん。 それに私は、ママの意見だけで秀明ゼミに行っているわけじゃない。 自分でちゃんと選んだんだから。 ミエでもない。 私立か公立の付属に行って、自分の選んだ学校で中学、高校と同じ環境で 教育を受けたほうが、絶対おもしろいと思う。 今、秀明にいる子は、そういう子ばっかりだもん。 知りもしないで、勝手な意見をふりまわすなんて、最低。 でも、私は、それを言わなかった。 だって、今井さんは、クラスのボスの中のひとりだもの。 今井さんのまわりには、今井さんの意見に合わせる女の子たちは何人もいる。 だから、言い返しても絶対ムダだもの。 私は、なるべくみんなと目を合わさないようにしてそっと教室を出た。 私がいなくなったら、今井さんが中心になって、 きっと私の悪口を言い始めるに違いない。 そう考えると嫌な気持ちだったけど、でも それでもかまわないような気がした。 だって、どうせ学校のみんなと親しくする時間なんてないんだもん。
1週間に4日は、秀明に行かなくちゃならないし、行かない日は、 予習と復習をしなくちゃならない。 放課後も日曜日も、遊んでるひまなんてない。だから 好かれてても嫌われてても同じなんだ。 それに、正直いって、クラスの子たちって、一緒にいてもあまり 面白くないし。話とかも、全然ちがうんだもの。 みんなが話すのは、テレビやアイドルのこととか、占いのこととか。 私は、テレビ見てないし、占いもくわしくないから 一生懸命まじろうとしても、結局ついていけない。そんなに興味もないし。 私が今、関心を持っているのは、進路のこと。 自分がどこの学校に受かるのか、どこに行けるのか、すごく心配。 でもクラスの子たちは、そんなことチラッとも言わないんだもの。 気にもしていないみたい。だから、友達になりにくい。 そのへんは、秀明ゼミの同じクラスの子たちのほうが、 話が合うはずだと思う。といっても、秀明にも友達なんていないけど。 行くと、すぐ授業だし、終わるともう夜の9時過ぎだから、私もみんなも、 さっさと帰らなけりゃならないんだもの。 結局、今は私、友だちってひとりもいないんだ。しかたないけれど、 たまに昔はよかったなって思う。みんなでいっしょにいるだけで 楽しいってこと、よくあった。 今は...そうだな、充実してはいるんだけど、なんだか、 自分の体の中に大きな穴があいてる感じ。 そこをときどき、風が通りぬけるの、ヒュウッって。こんなこと思うの、 私だけかな。それとも塾に行ってる子たちは、みんな、そうなのかな。 小学3年から行きはじめた子なんて、 私より2年もよけいにこういう思いしてるのかな。 あれこれ考えながら私は、昇降口を出た。