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彩side
体育館の前を通り、グラウンドの隅の並木の間を歩いて、裏門をくぐり 外に出る。 瞬間、耳にキイッというブレーキの音。
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ビクッとして私が立ちすくむのと、目の前に飛び出した黒い自転車が 横すべりし、乗っていた1人の男の子ごとひっくり返るのとが同時だった。 自転車ともつれるように倒れたその男の子は、もうちょっとで 後から来た別の男の子たちの自転車にひかれそうになった。 私は、ヒヤリとした。 でも、男の子たちは次々にブレーキをかけて自転車を止め、 地面に片足をついた。
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全員が、ハーフパンツに白いハイソックス、白のTシャツの上からまっ赤な ウインドブレーカーをはおっている。 胸には、はっきりKZのマーク。 カッズだ! 私は、息が止まりそうになった。 KZの男の子たちをこんな近くで見るのは、初めてだったから。 とたんに、心臓もドキドキし始めた。 秀明ゼミナールでは、成績別のクラスに分かれているから、それが違えば 顔を合わせることもない。 6つあるクラスの中で、私は、下から3番目の受験Bクラス。 KZに入るためには、偏差値が70以上必要だから、KZのメンバーは、 ほとんどトップの三谷Cクラスか、その下の三谷Bクラスのはずなんだ。 それで、たいてい開成か、麻布、武蔵なんていう中学に行く。 その後は東大とか、一橋とかに行って、高級官僚になったり、大企業や マスコミに就職したりして、日本をリードする人間になっていくんだ。 誰もがそれを知ってるからKZの人たちをあこがれの目で見てる。 女子はもちろん、男子も、お母さんたちもお父さんたちも、みんな、KZに注目している。 KZは、エリート集団なんだ。 今、そのメンバーたちをこんなに近くに見て、私は、コクンと息をのんだ。 自転車といっしょに転んだ男の子は、車輪の下から足をぬき、ふてくされて 地面にすわりこんでいた。 こすれて赤くなった頬にふりかかるサラサラの髪を、くやしそうに かき上げながら自分の自転車をにらむ。
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ほかの男の子たちが、自分のハンドルに腕をかけ、 身をのり出すようにして口々にからかった。
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その子は、すばやく手をのばしてコンクリートの間にはえていた雑草を 引きぬき、土ごと彼らに投げつけた。
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1人の男の子が、まともにそれを顔に受けてムセかえると、みんなが笑った。 それで私もつられて、笑ってしまったのだった。 瞬間、地面にすわりこんでいた子がチラッと私を見上げた。 まつ毛の長い、すごくきれいな目で斜めにじっと見つめられて、 私はドキリとした。 とたん、その子は、プイッと私から顔をそむけたのだった。 立ち上がって自転車をおこすと、すらりとした脚をまわしてまたがり、 片足をペダルにのせる。 丈の短い赤のウインドブレーカーが、よく似合っていて、カッコよかった。 私がちょっと見とれていると、その子は、片手でハンドルの付け根をにぎり、すべるようにこぎ出しながら、男の子たちをふりかえって言った。
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男の子たちがドッと笑って私を見、私はポカンとした。 直後に、自分が赤い服を着ていることに気づいたのだった、 まるでポストみたいな。 イヤミだっ! 私はムッとした。 だって、出会いがしらの衝突なんだから、悪いのはお互いさまじゃない。 でも、そのときにはもう当人は、グラウンドのはるか向こうまで 行ってしまっていて、声も届きそうになかった。 私は、くやしい思いをかみしめながら、その子を追って次々とこぎ出していくKZのメンバーを見送った。 あいつ・・・・・、もし秀明で会ったら、言いかえしてやろう。 そう決心して、私がギュッと口を結んでいると、メンバーの1番後から 走りだそうとしていた男の子が、ちょっとこっちをふり向いて言った。
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私は、びっくりした。 そんなこと言われるのって初めてだったし、そのときには、思いっきり あいつの後ろ姿をにらんでいるところだったんだもの。 私は、あわててにらむのをやめながらその子を見た。 とてもきれいな男の子だった。 長めの髪、少し悲しそうなふたつの目、甘い形の唇。
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青く見えるほど澄んだ目で、やさしくほほえまれて、 私はドギマギしてしまった。 なんて言っていいのか、わからなかった。 ただ、全然知らない男の子に、やたらに名前なんか教えたら、 ママに怒られるに違いないって思った。 言えない!
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そう言いながら男の子は、いたずらっぽく笑った。 きらめくようなその笑顔が、私の心に魔法をかけた。 私は、一瞬、ママの不愉快そうな顔を忘れ、その子に名前をあててもらいたいという気持ちでいっぱいになった。 だって、とてもすてきに見えたんだもの。
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わ、近いっ!
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そのときだった。 1台の自転車が猛スピードで引きかえしてきて、私とその子の間にジャッと 止まったのだった。
主だよ~