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古びた駅のベンチに座る

僕の他には、背の高い女性と、小さな女の子がいた

 

…………

待っている間は暇だから、スマートフォンを開きSNSを見ていた

 

……?

…そこで、気になる呟きが。

『なんか変な駅に着いた』

 

………

どうやら呟きの主は、現在進行形で奇妙なことに巻き込まれているらしい

新しい呟きが加わった

『きさらぎ駅って書いてある』

 

…はあ

それを見て、僕は溜め息をつく

そして、小さく呟いた

 

嘘つき。

電車はまだ来ていないじゃないか

 

ったく、

 

 

ここは簡単に来れる場所じゃないんだよ

そのまま画面を切り替え、今度はネットニュースのサイトを開く

『臨時放送』の文字が目に入った

 

おっ

 

今日は誰かな…

項目をタップすると、次々に文字が現れる

《明日の犠牲者はこの方々です》

そんな一文の下には、人の名前がいくつか並んでいた

《皆様 くれぐれも後悔のなきよう》

《以上 臨時放送でした》

 

ふーん…

 

さっきの嘘つきはいないのかな

まあ、本名なんて知らないけど

そんなことを考えているうちに、電車が来たようだ

背の高い女性が立ち上がる

2メートル以上はありそうな彼女は、白いサンダルのヒールを鳴らし、ドアに向かって歩き出す

その時、女性が被っていた帽子が地面にぱさりと落ちた

 

あ…

 

落ちましたよ、これ

僕は帽子を拾い、女性に手渡した

女性

…………

長く真っ白な腕が頭上から伸び、帽子のつばを掴む

女性

……、………

頭に深く被ると、女性はぺこりと頭を下げた

頭をぶつけないように、腰を曲げてゆっくり電車に乗る

女性を見送りながら僕は思った

 

……?

たしか、もうひとりいたはず

小さな女の子だ

プラスチックの携帯電話を大事そうに抱えて、ベンチからは動かない

 

君、乗らないの?

気になって声をかけた

女の子

うん

女の子

まだ、行く時間じゃないから

 

そっか

明るい色の髪は、ところどころ傷んでぼろぼろになっている

よく見ると、頬に真っ黒な何かがこびりついていた

 

それ、洗わなくていいの?

女の子

いいの

女の子

どうせ、もうとれないから

女の子は悲しそうに言った

電車のドアが閉まり、少しずつ速度を上げてホームから出て行く

女の子

今日はあの子のおうちに行くの

女の子

やっと会えるんだ

女の子

それまで、いっぱい電話しなくちゃ

女の子

楽しみだなあ

どうやらこの子は、離れ離れだった友だちの家に行くらしい

 

喜んでくれるといいね

女の子

うん!

女の子

ねえ、おにいちゃん

 

ん?

女の子

お名前、なんていうの?

女の子が聞いてきた

 

うーん

 

僕、名前が決まってないんだよね

女の子

えー、そうなんだ

僕に正確な名前はない

生まれた頃からそうだった

 

だから、そうだな…

 

「きさらぎ」って呼んで

いつからかそう呼ばれるようになった

今ではもう、ほとんど正式名称のようなものだ。

女の子

きさ…き、らぎ…

女の子

なんか呼びにくいね

 

そうかな

女の子

だから、きーくん!

 

えっ?

女の子

きーくんって呼ぶね

女の子

かわいいでしょ!

 

あー、うん

 

それでもいいよ

僕がそう言うと、女の子は嬉しそうに肩を揺らす

その拍子に、携帯電話につけられたストラップが、小さな音をたてた

先端についた金属製のプレートには、筆記体で『merry』と掘られている

 

君、メリーっていうの?

女の子

そうだよ

女の子

パパがつけてくれたの

 

いい名前だね

女の子

ありがとー

きゃあきゃあ笑う

すると、二本目の電車がやってきた

先ほどとは違い、デフォルメの猿が描かれた、可愛らしいデザインの車両だ

女の子

あ!

女の子

わたし、これに乗らなきゃ

女の子はそう言って立ち上がる

地面に着いた右足から、細かい破片がぽろぽろこぼれ落ちた

 

歩ける?

女の子

うん!

女の子

またね、きーくん

 

またね

女の子が乗り込むとドアが閉まった

独特の機械音を響かせながら、電車は走り出て行く

駅は静かになった

 

…………

 

あ、そうだ

僕は立ち上がって、ベンチの下を覗き込んだ

砂埃が溜まったそこに、クマのぬいぐるみが横たわっている

お腹の布が破れ、白い何かが飛び出していた

 

もう直せないかも…

 

濡れてるし、ボロボロだ

黒いビーズの瞳が虚空を見つめている

二度と動けないだろう

 

落とし物かな?

 

保管しておこう

破れた箇所は、刃物で切り裂いたあとに赤い糸で縫われていたらしい

ほつれた糸は中に詰められたものを守れなかったようだ

茶色い布の影に生米と人の爪が見えた

 

あーあ、もったいない

 

誰が隠れようとしたのかな

ぬいぐるみを持って、僕はホームの外へ歩き出した

 

また誰か来ないかな…

誰もいない駅は、案外寂しいものだ

この際、あの嘘つきを呼んでやろうか

 

あいつ、喜ぶかも

 

嘘が本当になるんだから

どんな顔するかな?

そんなことを考えながら、僕はにまりと笑った。

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