吉雄
僕だよ、永く待たせたねすまなかった花子君の扇をいつも大事に持っていたんだ。
花子
私の…扇…
吉雄
そうだよ。夕顔の花を描いたそして、君のその雪の扇は僕の扇だ。
花子
私の扇…貴方の扇、扇がどうしたの?扇を探していたの?
吉雄
そうじゃない君をだよ。花子をだよ
花子
私は扇を…
吉雄
僕がわからないのか花子!
このとき実子力を得て立ち上がり凝然と佇みつつ二人を見守る
花子
吉雄さん?
吉雄
そうだよ。僕が吉雄だ
永き間
花子
ちがうわ。貴方はそうじゃない
吉雄
何を言うんだ忘れたのかい?僕を
花子
いいえ、よく似ているわ。夢にまで見たお顔そっくりだわ。でもちがうの世界中の男の顔は死んでいて吉雄さんの顔だけは生きていたの貴方はちがうわ。貴方の顔は死んでいるんだもの
吉雄
え
花子
貴方は髑髏だわ骨だけのお顔骨だけのうつろな目でどうして私をそんなに見るの?
吉雄
しっかりごらんしっかり僕をごらん
花子
見ているのよ。貴方よりもっとしっかり見ているのよ実子さんまた私をだます気なのね。騙して無理やりに旅へ連れてゆくつもりなのね。こんな知らない人を呼んできて吉雄さんなんて言わせたのね。待つことを昨日も今日も明日も同じように待つことを私に諦めさせようと言うつもりなのね…私は諦めないわ。もっと待つわもっともっと待つ力が私に残っているわ。私は生きているわ死んだ人の顔はすぐにわかるの
実子
おかえりなさいもう諦めたほうがいいわ
吉雄
花子!