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コメント
1件
威榴真side
制服がまだなんだか よそよそしく感じられる。
夏休みが終わってから 1週間が経つのに未だに俺の体に 馴染む気配がなかった。
紫龍いるま
塾の合宿と重なったからだが 乾と顔を合わせないで済む 正当な理由になったことに ホッとしたのも事実だった。
蘭との「デート」に出くわして以来 冷戦状態が続いている。
紫龍いるま
SHRを終え、 部室に向かいながら 暑さに負けて第二ボタンを外す。
休み自体はあっという間に 終わってしまったが まだまだ残暑は続きそうだ。
紫龍いるま
窓の外には花壇の前に うずくまる乾の姿があった。
公園で会った時は蘭と並ぶ程に 白かったが部活で花壇の世話を するうちに少しは日に焼けたらしい。
俺は足を止め、ふわふわとした 髪が忙しなく動く様子を眺める。
紫龍いるま
以前から予想はしていた。
クラスメイト、共通の趣味の友人と いう相手には不釣り合いなほど 蘭に向ける視線に熱が こもっていたからだ。
確信に変わったのは公園で 投げかけられた言葉だった。
乾ないこ
あれは蘭の『彼氏の座をめぐって』 という意味だろう。
紫龍いるま
もしも告白されていたら 蘭なら確実に顔に出る。
それとなく様子を伺っていたが 全くそんな素振りはなかった。
桃瀬らん
公園から自宅まで連れ帰った翌日 部屋に押しかけてきた蘭は 開口1番にそう言った。
桃瀬らん
苦しい言い訳のようにも 聞こえたけどそれ以上の 追及はなんとか飲み込んだ。
どうしても納得いかないことが 他にあったからだ。
紫龍いるま
蘭を目を見開き、 そわそわと視線を泳がせた。
俺は辛抱強く、そして 下手な誤魔化しは許さないとばかりに じっと見つめ続けた。
やがて蘭は胸の前で腕を組み 思いきり首を傾げて言った。
桃瀬らん
こっちが聞きたい!
叫びそうになるのを必死に堪え あの手この手で聞き出そうと 質問をぶつけた。
だが、『よく覚えてないんだよね』 と笑って宣言されてしまっては 匙を投げるしかない。
おまけに無防備すぎる蘭に苛立ち その日は喧嘩別れになってしまった。
紫龍いるま
2人の間に築き上げられた 見えない壁のようなものを 蘭も感じているはずだ。
告白予行練習も中断してるし 会話をしても妙にぎこちない。
紫龍いるま
呟きが聞こえたかのように 乾がこちらを振り返った。
視線があった気がして 俺は咄嗟に窓から離れる。
紫龍いるま
そう思い直し再び窓の外を覗くが そこにはもう彼の姿はなかった。
紫龍いるま