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弘樹
5歳の弘樹が叫んだ
祐希
3歳の祐希は興奮気味だ
父親である一樹は息子二人と手をつなぎ、電車に乗り込んだ。
3人が乗ると同時にドアは閉まり、電車はすぐ発車した。
2人
大きな声で叫んだ2人の言葉はピタリと重なった
昼間のこの時間、乗客はまばらで、電車はすいていた。席も十分に空いている。
しかし、弘樹と祐希は、キャーキャーと甲高い声を上げながら電車の中を走り始め、落ち着いて席に座ることなど考えもしないようだ
その様子を見て、皆が「ほほえましい」と感じるわけがない。
その中に、露骨に不愉快そうな顔をした、1人の女性客がいた。その女性は頭痛持ちだった。
子ども達のはしゃぐ声を聞きながら女性は心の中で、毒づいた。
女性客
弘樹
祐希
弘樹
靴を履いたまま二人は座席で立ち上がる。
そこは、頭痛持ちの女性が座るすぐ横だった。
カーブで電車が大きく揺れる。
小さな二つの体もバランスをくずしてよろける。
女性客
女性の白いスカートには、無残にも祐希の靴跡がくっきりと付いてしまった。
女性客
女性は、子どもではなく、寝たフリをしているであろう父親に向けてそう怒鳴ると、子供たちから遠く離れた席へと移動していった。
その様子を見ていたのが、品の良い老夫婦と、その夫である厳格そうな老紳士だった。
老夫婦
老紳士
父親
周囲の声など耳に入る様子もなく、父親は、下を向いたままブツブツとつぶやいた。
老夫婦
老紳士が体を震わせながら立ち上がった
老紳士
老夫婦
老紳士
父親
老紳士
父親は、力なく口を開いた
父親
老紳士
父親
老紳士
父親
老紳士
予想外の展開に老紳士は言葉を失った
立ちつくす老紳士。
涙を目に浮かべうなでる父親
子どもたちが老紳士のところへ来て、
弘樹
祐希
と、小さな拳で、老紳士の足を力いっぱい殴り付ける。しかし、老紳士は、足に痛みを感じなかった。ただ、殴られるたびに胸がえぐられるように痛んだ
老紳士
もう、老紳士の顔からは怒りは消えていた
老紳士
父親
父親の目から涙がこぼれ落ちた
彼は立ち上がり、老紳士に向かって深々と頭をさげた。
老紳士は何も言わず、何度もうなずきながら妻の待つ席へと戻っていった。
父親
弘樹
祐希
弘樹と祐希も父親の口まねをした
そして親子そろって頭を下げた。
改札口への階段を幼い兄弟は、はしゃぎながら下りていく
その後ろ姿を見つめながら、父親は大きく息を吸った
そして噛み締めるように自分に言い聞かせた。
父親