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淡雪悠理
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コメント
1件
もうこの二人、見てるこっちが切なくなるわ…。もかの「好きなの」の一言に全部詰まってる。設定の重さをちゃんと抱えながら、感情の機微が丁寧に描かれてて、特に春の「隠してた」とか「逃げられるから」の台詞が刺さった。この気まずさと切なさの描き方が本当に巧い。次がどう転ぶか…すごく気になる。
あの日以来、春との仲が少し気まずい。
春が告白されていた場面を目撃した日から、彼と距離を取るようにしてる。
朝起きれば普通に挨拶もするし、ご飯だって一緒に食べてる。
食卓を囲んで交わす会話だって、他愛の無い話題で盛り上がったりする。
でもそれは、郁兄がその場にいる時のみだ。
極力、春と2人きりになってしまうような状況を避けた。
話す内容も、当たり障りの無い話題をあえて選んだ。
春への想いをこれ以上募らせない為にも、これらは必要な事だと自分に言い聞かせた。
いとこ同士の恋愛が成り立つのは知ってる。
私と春が交際に発展しても、法的には何の問題もない。
でも私は幼い頃から、この家で兄弟と、2人の両親と一緒に暮らしてきた。 家族同然の人達だ。
もし私の想いが春に通じて付き合えたとしても、周りはどう思う? 2人の両親はどう思うの?
法律的に許可していても、世間の倫理観は別問題だ。
ひとつ屋根の下で暮らす、家族のような関係の2人が恋人になるのは、やっぱり良い印象を抱いてもらえない気がする。
ましてや、身体の関係まで持っている。
そういうのを意識してしまうと、どうしても前に踏み出せない。
私が独占欲を発揮したことで、結果的に春の将来を縛り付けることになるなんて避けたいし。
だから「普通の家族」に戻らなきゃ。
家族に戻れたら、春への気持ちを消し去ることができるかもしれない。
……なんて、色々な言い訳を並べながらも。
本当のところは私自身、怖かったのかもしれない。
もし自分の気持ちに制御が効かなくなって、春に気持ちが伝わってしまったら。
そうなったら、春の傍にはいられない。
だったら最初から諦めた方が楽だと、そう考えていた。
それに、いつか春に彼女が出来た時に私の存在が重荷に感じてしまったら、その彼女をちゃんと大事に出来ない。
そんなのだめ。 私は、春の足枷にはなりたくない。
私が意図的に避けていることを、春もなんとなく気付いているようだった。
時折、複雑そうな表情で見つめてくる視線に気付いていたけれど、あえて気付いていない振りをした。
何か言いたそうにしているのはわかったけど、聞きたくなくて目を逸らした。
そして結局、春が何かを言うことはなかった。
――また、元に戻れると思っていた。
今はぎこちなくても、いつかは、「あんなこともあったよね」なんて、笑い話にできる日がくるかもしれない。
辛いのは、今だけ。
いつか痛みを忘れられる日が来る。
春のことも、きっと諦められる。 過去にできる。
そう思っていたんだけど。
・ ・ ・
高校からの帰宅後、慎重に玄関扉を開く。
足下に視線を落とせば、そこに春の靴は見当たらない。
まだ高校から帰ってきていないようで、ほっと安堵の息をつく。
きっと放課後も教室に残って、友達と勉強中なんだろう。
もか
そのまま階段を駆け上がって自室に入る。
ぽいっ、と鞄をベッドの上に放り投げ、クローゼットを開けた。
もか
部活を引退したせいかな。
毎日のように身体を動かしていた頃と比べたら、当然だけど体力も落ちている。
郁兄とバスケの練習でもしようかな。 なんて考えながら、胸元のリボンも取っ払って、無造作にポイッと放り投げた。
スカートのホックを外せば、足元にすとんと力なく落ちる。
シャツのボタンに手をかけて、ひとつずつ外していた――その時。
部屋の扉が勝手に開いた。
春樹
いないはずの春の声。
これ自動ドアだったっけ?
いや、そんなわけ――
もか
もか
咄嗟に胸を隠しながら、声にならない悲鳴を上げる。
まさか、春が帰って来てるなんて思わなくて。
もか
もか
もか
春樹
尋ねても春の反応は薄い。
表情を変えることもなく、後ろ手でドアを閉めて部屋の中に入ってきた。
その無機質な音が、今、この場に2人きりだという現実を私に呼び起こす。
もか
……これ、絶対によくない雰囲気になる。
そんな予感を覚えて警戒心が生まれる。
それと同時に後悔も。
もか
もか
もか
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
図星だったから何も言えなくなった。
心の準備も整わないうちに、2人きりの空間が生まれてしまった。
ドアも閉じられて、入口に立つ春に完全に逃げ道を塞がれている。
心なしか、春の機嫌も悪そうに見えて。
春の纏う空気が怖くて、目を合わせられない。
春樹
いつもより低めの声が、不穏な影を帯びる。
春樹
……ああ、やっぱり気づいていたんだ。
わざとそうしてる、って。
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
つい語尾が強くなってしまった。
気まずい沈黙が訪れる。
そしてその沈黙は春によって破られた。
有無を言わさぬ足取りで、私に近づいてくる。
急に腕を引かれて、そのままベッドの上に押し倒された。
もか
ギシッ、と軋む音が鼓膜に響く。
咄嗟に身体を起こそうとしたけど、両手首を春に押え付けられて無理だった。
もか
私の上に覆い被さったまま、春はただ真っ直ぐに私を見下ろしている。
その瞳に映る感情が何なのかわからなくて、私は怯えた目で春を見つめ返した。
このままじゃ、また触れられる。 また流されてしまう。
そう思って、許しを請うように必死に首を横に振る。
春樹
もか
春樹
もか
春樹
あんまりな言い分に言葉が出なかった。
急速に体の熱が冷えていく。
もか
ショックだった。
まるで、「仕方が無いから私に付き合ってあげてる」ように聞こえて腹が立った。
やっぱり春は、ただの好奇心から私に触れていただけなんだ。
したかったから、しただけ。
特別な意味なんて何もない。
そんなの既にわかっていたはずなのに、面と向かって告げられたら悲しかった。
春樹
もか
春樹
もか
自暴自棄な感情に苛まれて、思ってもいない不満が零れ落ちた。
春に対して、敵意みたいなものを向けている自分に嫌悪感も湧いてくる。
でももう、止まれなかった。
堰を切ったように溢れ出てくる感情が抑えられなくて。
勢いに乗った私の言葉を、春はじっと黙って聞いていた。
もか
もか
春樹
もか
……違う。
そんなこと思ってない。
腹なんか立ってない。
春に触れられている時間は本当に幸せだった。
好きと言われても嬉しかった。
未来の見えない恋はただ苦しかったけれど。
一時的な繋がりでも、不毛な関係でも、春と一緒にいられるなら、何だってよかったのに。
春樹
吐き捨てるように呟かれて、私は唇を噛む。
射抜くような強い眼差しで私を見下ろしていた春が、傷ついたように顔を歪めて、私の両手を解放した。
春樹
春の瞳はとても悲しそうで。
私がこんな顔をさせているんだと思うと、胸が痛む。
春樹
もか
春が静かに呟いた言葉が、ふっと宙に舞った。
そして春はベッドから下りて、私に背を向けて立ち去ろうとする。
扉を開けて出ていこうとする彼の姿に、私は我慢できなくなって腕を伸ばした。
もか
思わず呼び止めた。
引き止めなきゃダメな気がして。
遠ざかっていく春の背中を追いかけて、腕を掴んで歩みを止める。
もか
『――もかも、俺が好きなんだと思ってた』
もか
もか
春の腕を掴む手が震える。
胸の奥から込み上げてくる激情の波が抑えきれなくて、涙がじわりと溢れてきた。
春樹
もか
春樹
もか
春樹
もか
春樹
春樹
もか
言った瞬間、ぽろりと一粒の涙が零れた。