私の姿を目にした途端、彼女の表情がぱっと明るくなるのがわかった。
ステラ
姉様!
ステラ
来てくださったんですね…!
グレイス
…
グレイス
…あのね、ステラ
グレイス
今度から、あんな面倒なことをするのはやめてちょうだい
グレイス
他の候補者にも同じことをしたら、
グレイス
間違いなく狙われるわよ
ステラ
ご、ごめんなさい…
ステラ
で、でも、あれしか方法が思いつかなくて…
グレイス
…
ステラ
…すみません
ステラ
どうしても姉様とお話がしたくて、
ステラ
つい…あんなことを
グレイス
…
しょんぼりと肩を落とすステラに、私は一度大きなため息をつく。
グレイス
…
グレイス
…まあ
グレイス
味はさほど悪くなかったわ
グレイス
ありがとう
ステラ
…!
ステラ
は、はいっ
ステラ
ありがとうございます…っ!
グレイス
それで
グレイス
話というのは?
グレイス
そのために私を呼び出したんでしょう?
ステラ
あ、そうですね…
ステラ
えっと…
ステラ
どこからお話したらいいか…
シオン
では
シオン
ここからは、僕がお話ししましょう
シオンはそう言って一歩前に出ると、私の前に紅茶の入ったティーカップを差し出し、話し始めた。
シオン
グレイス様は、僕とステラの母が平民であったことはご存じですよね?
グレイス
ええ
グレイス
聞いているわ
グレイス
…確か、2人が小さいころにご病気で亡くなったのよね…?
シオン
そうです
シオン
母は、前の夫…僕の実父と別れたあと、
シオン
僕を連れて公爵家の9番目の妻に入り、
シオン
ステラを産みました
グレイス
…
シオン
しかし、そんな平民の血をよく思わなかったのでしょう
シオン
母の娘であるステラは、幼い頃からこの家で冷遇されてきました
シオン
その仕打ちは…挙げていけば、きりがありません
グレイス
…
グレイス
…それで?
シオン
このままでは、ステラが継承戦で生き残ることは難しいでしょう
シオン
ですから…
ステラ
ですから、
ステラ
私に、姉様が継承戦で勝ち抜くお手伝いをさせてほしいんです!
グレイス
お手伝い…?
ステラ
はい
ステラ
私は今後、姉様が継承戦で生き残れるよう尽力します
ステラ
ですから、その代わりに
ステラ
私を他の候補者から守ってほしいんです
グレイス
!
ステラ
お願い、できませんか…?
グレイス
…
グレイス
(たしかに、悪い話じゃないわ…)
グレイス
(ステラを守れば、他の候補者に今以上に敵対視されてしまう…)
グレイス
(けれど、)
グレイス
(その分、あのシオンやカルセインの手を借りることができる…)
グレイス
(彼らの戦力を得られるのは大きいわ…)
グレイス
…
グレイス
…
グレイス
…そうね
グレイス
悪くないわ
ステラ
ほ、本当ですかっ!?
ステラ
でしたら…!
グレイス
だけど
グレイス
仮に上手くいったとして、
グレイス
そのあとはどうするつもりなの?
グレイス
継承戦は、一人になるまで終わらないのよ
グレイス
途中放棄も許されない
グレイス
最悪の場合、最後にあなたと私が殺し合うことになるわ
シオン
ええ
シオン
ですからその時は、
シオン
『グレイス様だけが生き残った』と、公爵家に思わせれば良いのです
グレイス
…?
グレイス
どういうこと…?
カルセイン
だぁーかーらー
カルセイン
『ステラを死んだことにする』っつてんだよ、俺らは
グレイス
!!
ステラ
私は、当主の座に興味はありません
ステラ
ですから私と姉様が生き残れたその時は、
ステラ
私たちは隣国へと移り、残りの時間を平民として静かに暮らすつもりです
グレイス
…
シオン
もちろん、公爵家を欺くことは容易ではないでしょうが…
シオン
死体さえ偽造できれば、僕たちが隣国に亡命するまでの時間稼ぎはできるでしょう
ステラ
私は…
ステラ
姉様と一緒に、この継承戦を生き抜いてほしいんです
グレイス
…
ステラ
お願いします、姉様
ステラ
私にはもう、姉様しかいないんです
ステラ
ご迷惑をおかけしないように頑張りますし、
ステラ
もちろん、姉様が継承戦で勝ち抜けるよう精一杯力を尽くします
ステラ
ですからどうか…どうか、受け入れてはくれませんか
グレイス
…
シオン
僕からもお願いします、
シオン
グレイス様
グレイス
!
グレイス
シオン殿…
シオン
グレイス様にとっては、多くの兄弟のうちの一人
シオン
ましてや、殺し合う間柄の憎き相手なのかもしれません
シオン
ですが…
シオン
僕にとっては、たった…たった一人の、大切な妹なのです
シオン
どうか、この提案を受け入れてはくれないでしょうか
ステラ
…
ステラ
姉様…、
グレイス
…
グレイス
………
グレイス
…わかったわ
ステラ
!
ステラ
ほ、本当ですか…!
グレイス
けど…
グレイス
…一つ、聞いてもいいかしら
ステラ
なんでしょうか?
グレイス
どうして私だったの?
グレイス
あなたの話に乗ってくれる兄弟は、他にもいたんじゃない?
ステラ
あ…
ステラ
そ、それは…
ステラ
…その、
グレイス
…?
ステラ
それは…
ステラ
姉様が、
ステラ
姉様が、一番優しい方だと思ったからです
グレイス
優しい…?
グレイス
私が…?
ステラ
はい
グレイス
…
グレイス
…あなたに優しくした覚えはないわよ
ステラ
そうでしょうか…?
グレイス
むしろ、あたりはきつかった方だと思うけれど
ステラ
ですが姉様が私に厳しいのは、
ステラ
私を思ってくださってのことでしょう?
グレイス
…!
ステラ
違いましたか…?
グレイス
…
グレイス
…さあ、どうかしら
グレイス
あなたの思い違いじゃない?
ステラ
でも
ステラ
姉様は私が平民の娘だからとといって、差別しませんでした
グレイス
…
ステラ
それが、なによりの証拠です
グレイス
…
グレイス
…本当にいいの?
グレイス
期待に応えられるかどうかはわからないわよ
ステラ
かまいません
ステラ
私は、姉様を信じていますから
グレイス
…そう
グレイス
なら、あなたの好きにすればいいわ
ステラ
!
ステラ
ありがとうございますっ
グレイス
今日はこれで失礼するわ
グレイス
今後の話は、また今度にしましょう
ステラ
わかりましたっ
ステラ
これからよろしくお願いいたします、姉様
グレイス
…
グレイス
…ええ、よろしくね