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上長

で、1ヶ月間

上長

まさしく『地獄』のような環境を見てきたわけね

フレッド

はい

フレッド

暴力がまた別の暴力を誘発する、あのような環境は

フレッド

とてもじゃないですが「教育機関」とは言えないと思います

フレッド

少なくとも、僕は見過ごせない

上長

そういうことなら早速仕事よ

上長

明日の朝刊に特集記事を載せたいのだけど、いけそう?

フレッド

ええ、徹夜で仕上げてみせます

翌日

フレッド

(『聖クライトン学園で虐待か』)

フレッド

(今日の朝刊の特集記事だけど)

フレッド

(僕が徹夜で仕上げた記事じゃなくて例の逃げてきた教員からのインタビューがメインになっている)

フレッド

あの、上長?

上長

言いたいことは分かるわよ

上長

でもね、あなたのことはいわば切り札なの

フレッド

はあ

上長

実際、この記事を受けて一帯の領主がこれから申し開きをするそうだから

上長

あなたも行って聞いてきたら?

領主

我が領地が誇る学び舎、『聖クライトン学園』において

領主

斯様な疑惑が述べられていることは非常に遺憾であります

領主

新聞というのは公正な報道機関であるべきですが

領主

それが学園の元職員からの一方的な言い分のみを信用し

領主

それをさも真実であるかの如く民衆に広めることは

領主

果たして報道機関として真っ当に機能していると言えるでしょうか?

フレッド

(…………ッ)

フレッド

(黙って聞いていれば……!)

上長

あら、マクレガー
お帰りなさい

フレッド

上長!
今日の夕刊には領主の申し開きについて

フレッド

僕に記事を書かせてください!

上長

ずいぶんなやる気ね?

フレッド

夕刊で申し開きの件を報道して

フレッド

明日の朝刊で僕が学園に潜入した結果を大々的にブチ上げます

上長

いい案ね
確かにそれぐらいやらないと

上長

お貴族様や学園の責任者たちの鼻は明かせないわ

フレッド

僕自身、あの『地獄』を実際に見た人間として

フレッド

最後まで責任は持ちますよ……!

     

上長

マクレガー

フレッド

はい

上長

学園への潜入とここ連日の原稿作業で疲れているでしょうけど

上長

もう少しだけ頑張ってもらえる?

フレッド

もちろんです

上長

ついに騎士団が動いたのよ

上長

学園の調査を行ったようだけど、結果は空振りだったと発表されたわ

フレッド

……

上長

『聖クライトン学園にやましいことは何もない』

上長

『我々騎士団の中にも出身者がいるが、誰もそのような事実があるとは認識していない』

フレッド

皆、自分の今の地位を脅かされるのが嫌で口をつぐんでいるんだ……

フレッド

ふざけるな、ふざけるな!

上長

でね、騎士団とは別部門で教育機関の監査とかを行っている王城直轄の厚生局が

上長

直々に学園の視察をするんですって

上長

学園長への聞き取りも行うそうよ

上長

これが終わったらしばらくバカンス休暇をあげるから

上長

取材、行ってきてくれる?

フレッド

任せてください!

聖クライトン学園 学園長室

厚生局職員1

では、この学園において、報道されているような事実はないとおっしゃる訳ですね?

聖クライトン学園長

ええ、当然です

聖クライトン学園長

ご存知の通り、この学園は全寮制

聖クライトン学園長

大事なお子さんをご家庭からお預かりし、学問や実践的な剣術、魔法など

聖クライトン学園長

さまざまな分野をその道の専門である教職員が分担して

聖クライトン学園長

心血を注いで教えさせていただいています

聖クライトン学園長

教育とは文字通り、『教え育てる』こと

聖クライトン学園長

大事な生徒たちをどこに出しても恥ずかしくないように

聖クライトン学園長

基本的な礼儀作法などについて教育することもありますが

聖クライトン学園長

確かにそういった点で教える側の熱が入り過ぎることはあるかもしれません

聖クライトン学園長

しかし、我々はいわば、あの子たちの親代わりなのです

聖クライトン学園長

親が子を叱り、導く

聖クライトン学園長

これのどこがおかしいと言うのでしょうか!

フレッド

(よくもまあ堂々と)

聖クライトン学園長

事実、我が校の生徒や卒業生たちから

聖クライトン学園長

実際に暴行を受けたというような話を聞いたわけではないのでしょう?

フレッド

(それは度重なる暴力で半ば洗脳状態にあるからだ)

フレッド

(オリバーも言っていたように、皆もう、逃げる気力を奪われているからだ……)

厚生局職員2

……分かりました
聞き取りは以上です

厚生局職員1

お手数をお掛けしました

聖クライトン学園長

いえいえ

聖クライトン学園長

我が校始まって以来の窮地とあらば

聖クライトン学園長

いくらでも協力しますとも!

フレッド

(まずいぞ……このままじゃ逃げ切られる)

フレッド

(どうしよう、ここまで来て……)

フレッド

(うん? 待てよ)

ふとポケットを探ったフレッドは、ハンナから預かっていた魔道具に触れた

一見すると石コロのようなそれを拾い上げた瞬間、閃く

厚生局職員1

では失礼して……

フレッド

あの、すみません

フレッド

少し待ってもらえませんか?

厚生局職員1

はい?

聖クライトン学園長

おやおや、誰かと思えば貴方

聖クライトン学園長

例の記事を書いてくれた三流……いや失礼

聖クライトン学園長

一介の新聞記者さんが、何か?

フレッド

ちょっと試したいことがあって

厚生局職員2

試したいこと?

フレッド

あの、本当に少しだけでいいので……

フレッド

ええと、これはこうやって起動するのか

フレッド

範囲指定……この学園全体

フレッド

対象指定……この学園にいる全員、と

フレッド

よし、やるぞ

フレッド

すーっ、と……

フレッド

『聖クライトン学園の皆さん』

フレッド

『僕はミミズク瓦版の記者、フレッド・マクレガーです』

聖クライトン学園長

おい、一体何を……

厚生局職員1

学園長、少し静粛にお願いします

厚生局職員2

……

フレッド

『僕はこの学園に生徒として潜入し』

フレッド

『1ヶ月という短い間ですが皆さんと一緒に生活しました』

ザワザワ ザワザワ

生徒

何だ何だ?

教員

何よ、授業中だって言うのに

フレッド

『1ヶ月間ここで過ごして』

フレッド

『僕は生徒の皆さんが置かれている状況を理解しました』

フレッド

『はっきり言います』

フレッド

『この学園は異常だ』

生徒

おい……

生徒

なあ……

教員

ちょっと、あなたたち静かにしなさい!

フレッド

『今、学園長室に王城直轄の厚生局の方々が来ています』

フレッド

『状況を変えるなら、今しかない』

フレッド

『お願いします皆さん』

フレッド

『皆さんが受けた仕打ちを伝えに、ここまで来てください』

教員

バッカバカしい

教員

あなたたちまさか行かないわよね?

生徒

……

生徒

……

フレッド

『オリバー』

オリバー

……!

フレッド

『オリバー・アッシャー君』

フレッド

『お願いします』

フレッド

『君の身に起こったことを話しに、ここまで来てください』

オリバー

オレはオリバー・アッシャー

オリバー

学園から脱走しようとして……

オリバー

捕まったんだ

オリバー

オレも脱走しようとしてこんな目に遭ったから、もう逃げようなんていう気力もないし……

オリバー

卒業までどうにか我慢するよ

オリバー

……

オリバー

オレは……

オリバーは席を立つと

学園長室の方に向かって真っ直ぐに駆け出した

教員

あっ!
ちょっと!

フレッド

『それから』

フレッド

『5回生寮長、ロジャー・クレンツ君』

ロジャー

……

フレッド

『君が他の生徒に対してしたことは、許されないことだ』

フレッド

『でも、君自身も本当は、救われるべき被害者だったはずだ』

ロジャー

……ッ

フレッド

『君の話を、彼らにも聞かせてほしい』

フレッド

『お願いします』

生徒

ぐえっ!
おえぇ!

ロジャー

このクソボケが!!
学校の備品壊したら誰が責任取ると思ってんだ!?

生徒

げぼっ!
ごほっ!

ロジャー

ぐっ、ああぁぁぁ!?

教員

これね、最近開発した魔法なのよ

教員

相手の耳に不快で大きな金属音を響かせるのだけど

ロジャー

ああぁ、頭が、頭が痛いぃぃ……!

ロジャー

あ゛

教員

あら、鼓膜が破れちゃったのね

ロジャー

……

ロジャーは黙って席を立つと

彼もまた学園長室に向かって走り始めた

再度、聖クライトン学園 学園長室

フレッド

フレッド

魔道具の効果時間が切れた……

聖クライトン学園長

フ、フン!

聖クライトン学園長

何をするかと思えば

聖クライトン学園長

こんな妄言に踊らされるほど我が校の生徒はバカでは……

オリバー

あの!

聖クライトン学園長

!?

厚生局職員1

君は?

オリバー

オレ、オリバー・アッシャーと言います!

オリバー

この学園から逃げようとしたら捕まって、教員たちからひどい暴行を受けました!

オリバー

その時の傷がまだ残ってるんです!

オリバー

調べてもらったら多分、他人によってつけられた傷だと分かると思います!

聖クライトン学園長

アッシャー君、ひ、ひとまず落ち着いて……

ロジャー

失礼します

厚生局職員2

あなたは?

ロジャー

この学園の5回生寮長、ロジャー・クレンツです

ロジャー

私……いや、俺は寮長として他の生徒たちに規律を守らせるよう

ロジャー

時には暴力を使い、彼らを従わせることがありました

ロジャー

しかし規律が少しでも乱れると寮長である俺の責任とされ

ロジャー

教員たちから暴行や理不尽な魔法による攻撃を受けることもありました

ロジャー

これだけで償いになるとは思いませんが……

ロジャー

俺が寮長になる前となった後に起こった出来事について、洗いざらい全てお話する覚悟です

聖クライトン学園長

ク、クレンツ君……

厚生局職員1

これは……

厚生局職員2

ええ、そうですね……

聖クライトン学園長

待ってください!

聖クライトン学園長

我が校に何人生徒がいるとお思いですか!?

聖クライトン学園長

たった二人だけの証言で……

その時、多数の足音がこちらに向かって駆けてくるのが聞こえた

生徒

僕、試験の成績が前回より下がったという理由で、担当教員に殴られました!

生徒

オレは腕を折られたぞ!

生徒

私は裸にされて鞭で打たれたわ!

生徒

あたしなんか至近距離で火炎魔法を撃たれて大火傷を負ったのよ!

聖クライトン学園長

……

聖クライトン学園長

……まれ

聖クライトン学園長

黙れ黙れ黙れ!!

聖クライトン学園長

このクソガキ共が!

聖クライトン学園長

誰がお前らみたいなボンクラを拾ってやったと思ってるんだ!?

聖クライトン学園長

お前らみたいなクソガキをこっちは引き取って、一流の教育をしてやったうえに

聖クライトン学園長

貴様ら如きでは到底入れないような就職先まで斡旋してやっているんだぞ!

聖クライトン学園長

多少殴られたり蹴られたりしたぐらいで、大げさに喚きやがって……

厚生局職員1

……

厚生局職員2

……

聖クライトン学園長

……あ……

聖クライトン学園長

いえ、あの、違うんです

聖クライトン学園長

今のは何と言いますか……

厚生局職員1

おい、今の聞いたか

厚生局職員2

ええ、バッチリ

厚生局職員1

はい
という訳で学園長、我々と同行願えますか

厚生局職員2

ちなみにこれはいわゆる任意ではありませんので、拒否した場合法的な責務に問われることになります

聖クライトン学園長

あああぁぁ……

聖クライトン学園長

畜生、ちくしょう……

フレッド

……

フレッド

とりあえず、あとは専門の人たちに任せようかな

おい、地獄さ行ぐんだで

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