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#極道
鷹槻れん

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夢語りの浮浪者
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世羅 鈴🎨🎤
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月銀澪
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自分はいつもあの人物のことを心の中では「あの人」と呼んでいた
普通なら「彼」や「彼女」、それか名前で呼びたいところだが、生憎自分はあの人の性別と名前を知らない。
いや、名字は知っていた。
でも自分が直接あの人に尋ねた訳ではないので、うっかり心の中で呼んでいるように名字で呼んでしまったとき「え、なんでコイツ名字知ってんの?キモ」とか思われたら悲しいもんな。
看護師
あの人は看護師に「佐藤」と呼ばれていた。
佐藤
いつもカーテン越しからあの人の中性的な声が聞こえる。
同じ病室だから当然、何度か顔を合わせたこともある。
佐藤
その度にあの人はこちらに向かって軽く会釈をするので、自分も会釈で返す。
田中
見た目も中性的だった。
自分はあの人のことをほとんど知らない。
年は多分自分と同じぐらいだと思う。
性別は知らない。声も容姿も中性的だった。
男にしては華奢で、女にしてはからだの丸みがない。
名前も、看護師が呼ぶ「佐藤」という名字しか知らない。下の名前はわからない。
だけど、自分と同じ病気らしいことと、自分より少し前に入院を始めたことは知っていた。
この病室は自分とあの人の二人しかいなかった。
だから、自分があの人と話したいと思ったのは人間として当然の心理だと思う。
自分はあの人とほとんど話したことがなかった。
同じ病室で二人きり、カーテンを挟んでいつも隣で寝ているのに。
田中
ほんの気まぐれだった。
田中
自分とあの人を区切るカーテンは薄く、声もよく聞こえる。 よく耳を澄ませば寝息や鼻息も聞こえそうだ。
佐藤
自分が話しかけてきたことに対し驚いたのかあの人からの返答は遅かった。
佐藤
佐藤
あの人も自分と会話をしたいと思っていたのか、それとも唯々そういう性格なのか、あの人は会話を広げた。
田中
やはり昨日の病院食は誰にとっても不味かったらしい。
会話の内容は世間話だ。面白味もあまりない。
だけど会話の内容よりもあの人と会話できていること自体が楽しかった。
佐藤
佐藤
田中
佐藤
田中
嘘。
自分の今日のメニューに魚料理はない。
同じ病院で同じ病気でも料理が違うらしい。
佐藤
田中
佐藤
田中
田中
佐藤
田中
田中
佐藤
佐藤
田中
田中
佐藤
自分が話しかけた日を境に、自分とあの人は毎日会話を交わす仲になった。
あの人と話すのは大体世間話だった。
互いに相手の情報を聞こうとしなかった。
名前も、年齢も、性別も、血液型も、誕生日も、家族構成も、恋人の有無も、聞かなかった。
多分、興味がなかったんだと思う。
自分はあの人と話したかった。けれど興味はない。 これは矛盾なのだろうか。
あの人はどうだろう。
あの人について知ろうとしない自分に合わせて、あの人も自分に何も聞かないでいたのだろうか。
それとも、あの人も自分に興味がなかったのか。
ある日、朝起きるとカーテンが開いていた。
隣にあるベッドが見えた。
いつもはそこにいるはずのあの人がいなかった。
田中
看護師さんがベッド周りの清掃をしていた。
田中
看護師
田中
初めて「佐藤さん」と呼んだ。
口に出して「あの人」と呼ぶのも変だと思って。
今まで散々心の中で「あの人」と呼んでいたから、違和感は拭えなかった。
看護師
看護師さんは言いづらそうに口を開いた。
亡くなりました
田中
田中
看護師
田中
しばらくすると看護師さんは清掃を終え、病室を出ていった。
田中
確かにあの人はよく咳き込んでいたし、肌も白く、体も細くて、いつ亡くなってもおかしくなかったと思う。
同じ病気なのに病院食のメニューが違ったのも、あの人の方が重症化していたからだったのかもしれない。
だが、中々受け入れられなかった。
いつも隣にいたあの人が、もういないなんて。
寂しかった。
悲しかった。
辛かった。
そして、後悔した。
田中
もう、知ることは出来ないのに。
もう、あの人は存在しないのに。
今更、あの人に対して興味が湧いた。
コメント
1件
みぅです🤍 うわ……これ、すごく切なくなる話ですね。 カーテン越しに毎日交わす「何でもない会話」が、あとからこんなにも重くなるんだなって。名前も知らないまま、気づいたときにはもう隣にいないっていう終わり方、すごく心に刺さりました。 「もっと知っておけば良かった」って最後に思ったときにはもう遅いっていう、その後悔が本当にリアルで……。読んでてじわじわ来ました。 第2話、すごく気になります……! 続き、絶対読みますね🌙