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詩來姉弟の過去妄想
「やまとなでしこ」
「お淑やかで完璧なお嬢様」
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」
「欠点なんて微塵も無いお人形のような女の子」
モブ
モブ
絢香
名門校に通い、日々友人達と優雅に会話に花を咲かせ にこやかに微笑み勉学にも励む優等生
名家の跡継ぎとして相応しい能力をもち 親や先生の言うことを素直に聞いて成績を出す
それが名門詩來家の長女 "詩來絢香"
そのことを不満に思ったりしたことなんて無い
そう言われるのが好きだったし
それが"私"であり "詩來絢香"なのだから 逆らうということは頭に微塵もなかった
毎日毎日出来ないことを積み重ねていけば 完璧は崩れない "私"は崩れない
そう、信じていた
絢香
杏香
絢香
絢香
杏香
でもある日、弟がピアスを開けて、メッシュをいれていたのを見て 何かが弾けた感覚がした
絢香
「お父様やお母様にバレたら杏香が怒られる」 それだけは絶対に嫌だった
杏香は私のたった一人の弟で 昔から優しくて私の隣で一緒にお勉強も頑張ってて、 でもとっても泣き虫で私が守らないといけない子だから
そんな子がピアスを開けるだなんて 信じられないことだもの
絢香
絢香
杏香
絢香
絢香
絢香
杏香
杏香
絢香
絢香
杏香
絢香
その言葉を聞いた時 一瞬のはずの時間がやけに長く感じた
「出ていく」 家を?なんで?学校は?将来はどうするの? お父様達にバレたらいけないのに...
色々なことが頭の中をぐるぐると回った
絢香
必死に探して、絞り出した言葉は 情けないほど弱々しく完璧じゃない声だった
杏香
杏香
そんな声とは反対に 杏香の声はまっすぐでもうすっかり男の人の声に近付いている
絢香
杏香
杏香
ふと、私が顔をあげたら、すっかり背丈も伸びて 喉仏も少しある、切長の目をした杏香がいた
私の中で思っていた私が守らないといけない泣き虫の杏香じゃない。 もう自分で自分のことをできる。
言われたことだけをやって、 毎日毎日消費していくだけのどこか空っぽな日々を送り
本当にやりたいことを幾つも諦めてばかりで 現実を信じない情けない姉の私とは違う
気づかないうちに、いや、気づけてなかったうちに 私より沢山物事を考えられる子になっていた
涙が目に浮かんだ時 「どうせなら...」と 飲み込もうとした言葉を
人生で初めて言う 私としての言葉を口に出した
絢香
杏香
絢香
喉が渇いて様々な考えが頭を巡ったが そんなのはどうでもよかった
ただ、今は、今だけは
"私"が"私"として生きて 許されるまで杏香と一緒にいたい
そうしか思えなかった
困惑する杏香をしり目に財布やいるものをバッグに積める時 鼓動がやけにうるさかった
杏香
絢香
杏香
絢香
今まで溜まっていたのが溢れ出るように 杏香に対してきつく当ってしまうのは申し訳なかったが
時効ということで許して欲しいな
ごめんね?許してよ?
杏香
絢香
杏香
背丈や声などは変わってはいるけど
いつまでも優しい杏香と、いつまでも完璧になりきれない私は 結局姉弟なんだと痛感した
それに昔のように杏香の手を引っ張って歩くのは なんとなく嬉しかった
そして、こんな風に言ってても 結局は呆れながら一緒にいてくれる杏香に 情けないけど内心甘えている自分がいた気がする
『素直にありがとうって言えない姉でごめんね』 と心の中で言いながら私は月を見た
その時の満月はいつもよりずっと大きくて
何かを暗示してるんじゃないのかと疑うくらい 黄色くて、清々しいほど美しかった
コメント
21件
ぅわ、超いい…めっちゃ良い…( ᷄ᾥ ᷅ )
うっっっわ!!!!うっわ!!(?) どちゃクソ幸せになってくれ!!!!