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更生

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更生

1 - 更生

♥

510

2020年10月12日

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サカモト

お嬢さん。うちの事務所のモデルにならないか?

サカモト

生憎お嬢さんが想像している大手の事務所じゃないんだけどね。人気者になれるかどうかは君次第だ。

サカモト

___お、引き受けてくれる?嬉しいよ。ありがとう

サカモト

それでは早速事務所に案内したいんだけど、今時間大丈夫?

サカモト

大丈夫か。それならついて来てくれ

サカモト

着いたよ。____え?なんでこんな人目を忍んだ場所にあるかって?

サカモト

言っただろう。大手の事務所じゃないのさ

サカモト

怖じ気付いたかな?人気者になれるチャンスを棒に振るかい?

サカモト

___そうだな。そう来なくちゃ。お嬢さんならそう言ってくれると思ってたよ。
さぁ来て

サカモト

お嬢さんの名前は………スズネと言うのか。いい名前だね
僕はサカモトと言う者だ

サカモト

何か飲もうか。リラックスしていいんだよ。
何を飲む?ジンジャエール?分かった。持って来させよう

サカモト

さぁ飲んでいいよ。リラックスしてくれ

サカモト

___目が覚めたかい。スズネさん。
睡眠薬がよく効いたようだね

サカモト

驚いているようだね。
まぁ目が覚めたら がんじがらめに拘束されてて猿ぐつわまで噛まされてたら驚くよね

サカモト

__ああモデルにはなれるよ。君は人気者になれる。
君が想像しているモデルではないけどね

サカモト

こんな人目を忍んだ場所に事務所があるんだ。全部説明しなくても分かるだろ。

サカモト

___怯えなくてもいい。殺したりはしない。ただ君の恥態を記録するだけだ

サカモト

そろそろ最初の社員が来る。相手をしてくれるね?

これが俺の仕事だ。

そこそこ大きな公園の西側の入り口に設けられている階段で、昔人が死んだ。

だからこの階段を利用する人はいない。 利用するのは毎月花束を添える俺くらいだ。

しかし今日は先客がいた。

小学生くらいの少年が階段に腰掛けていた。

サカモト

___そこの君。心霊写真でも撮りに来たのか?

努めて優しい声を出したが、少年の肩は震えた。

サカモト

君の30センチ程横で人が死んだんだ。頭を強く打ってね

サカモト

人が死んだ場所なんてゾッとしないだろ。現にこの当たりに住んでる子供も逆側の階段を利用してる

__僕この当たりに住んでないから

サカモト

そうか

俺は花束を添えると、少年を盗み見た。

所々ほつれた くたびれた服。10月も後半なのに半ズボン。 日が沈んだこの時間帯には いささか寒いのではないか。

現に少年は背中を丸めて震えているように見えた。 ___俺は乱暴に頭を掻いた。

震えている少年の横を通りすぎて、階段を上って、近くの自販機で紅茶を2本買った。

また階段を下りて、大きくため息を吐いた。

サカモト

あーー。どうしようかな。間違って2本買っちゃった

サカモト

丁度いい。なぁ君1本飲んでよ

少年は驚いた顔で俺を見上げた。

端正な顔立ちだ、と思った。 美少年好きの社員は喜ぶだろう。

俺が紅茶を差し出した姿勢のままでいると、少年は おずおずと受け取った。 白くて細い手だった。

ありがとうございます

少年が鼻をすすったのは寒さのせいだと解釈した。涙を拭ったのは見なかったことにした。

サカモト

__もうすぐ真っ暗になるぞ。こんな所で誰かと待ち合わせでもしてるのか。それともやっぱり心霊写真か?

大事そうに紅茶を飲む少年にそう尋ねた。 うすうす見当はついてるけど。

少年は紅茶に視線を注いだまま、ポツリポツリと語った。

____お母さんが病気で天国に行っちゃって

今お父さんが1人で頑張ってる

お父さんの唯一の楽しみが夜のビールなんだけど、僕がいたら せっかくのビールも不味くなるんだって

__お父さんはどれだけ遅くても9時には帰って来る。10時ぐらいになったら、ビールも飲み終わってるから

僕はお父さんの唯一の楽しみを邪魔しないであげてるの

俺は眩しい物を見るように目を細めた。

半ズボンから伸びる少年の足に、いくつもの痣や火傷の跡があることに、だいぶ前から気づいていた。

サカモト

__なぁ君。名前は?
僕はサカモトと言う

聖(ひじり)。お母さんが付けてくれたの

サカモト

そうか。なぁ聖くん

ターゲットは決まった。

サカモト

今度うちの事務所に来ないか?

ヒカル

社長~~それは無いっすよ~

ヒカル

かなり頑張って調べたのにノーギャラっすか?

サカモト

正式な依頼じゃないからな。
だから今日の夕飯は俺が出すと言っている

サカモト

それに俺も大変だったんだぞ。なだめすかして ここに連れて来るのは

サカモト

まぁとは言っても大切な社員をタダ働きさせるのは気が引ける。仕事が終わったら飯に行こう。どこがいい?

ヒカル

寿司!寿司がいいっす!

ヒカル

ウニとトロで10皿行くっす!
なぁクロさん

クロ

………………(コクリ)

サカモト

分かった。
睡眠薬を飲ませる前に顔写真は入手した。これで後はよろしく頼む

クロ

………………(コクリ)

ヒカル

まぁ寿司で元を取ればいっか…

クロ

……………………美少年なら

ヒカル

喋った!「言わざる🙊」のクロさんが喋った!!

クロ

むしろこっちが金を出したい。………1万円からでいいですか

ヒカル

ダンディーな低音で何言ってんのコイツ!?

サカモト

___おっと。そろそろ睡眠薬が切れるぞ。お目覚めだ

サカモト

目が覚めましたか。
聖くん

サカモト

____の、お父さん

サカモト

すみませんね。貴方のご子息をモデルに、と言う話は嘘です

サカモト

モデルになるのはご子息じゃない。貴方だ。………ああ、貴方が想像しているモデルではありませんよ

サカモト

聖くんのお父さん。貴方は妻を亡くしてから息子に暴力を振るうようになった

サカモト

__うちの事務所にはコンピューターに強い社員がいましてね、いろいろと調べて貰いました

ヒカル

遠足とか音楽会とかの写真販売ってあるじゃないっすか。最近はネットで販売している学校が多いので、少し見せて貰いました

ヒカル

まぁそしたら、その聖くんの服装が大体同じだったんすね。どれも くたびれてるし

ヒカル

そしてそして、担任にメールで確認したところ何ヵ所か気になる痣がある、と返って来たっす

サカモト

その担任は家庭訪問も行ったが貴方が追い返したそうですね

サカモト

聖くんは貴方に虐待を受けている可能性が高いんですよ。____さて ここからが本題です

サカモト

この いろいろ調べてくれたチャラそうな男。ネットの中では かなりの人気者なんです

サカモト

ネットの世界に限りますが、彼の発言の影響力は凄まじいんです。
ネットの世界では、何を言ったかより誰が言ったかの方が重要ですから

サカモト

そんな彼が貴方のことを書き込んだら どうなるでしょうか

ヒカル

__社長。スレッド立てたっす

ヒカル

タイトルは「鬼畜親を許すな!ストレスの捌け口に我が子を利用している父のスガタ【顔写真あり】」、でどうすか

サカモト

上出来だ。
聖くんのお父さん、こんな物を投稿されたらどうなるかくらい想像出来るでしょう

サカモト

マトモな生活は出来ませんよ。
今の時代 指1つで人生を動かせますからね

父親の目が零れんばかりに見開かれ、呼吸が早くなる。

猿ぐつわを噛ませているので声を出すことは出来ない。 ただ青い顔で首を横に振るだけだ。

その時、事務所のドアが控えめに開けられた。皆が一斉にそちらを見る。

サカモト

__やぁ聖くん。ちゃんと迷わず来れたようだね

聖くんは何も言わず、俺と拘束されている父親に視線を行ったり来たりさせていた。

クロ

………………

ヒカル

…前のめりになるなよクロさん

聖くんの視線が俺に固定されたのを確認して、俺は精一杯の優しい笑顔を向けた。

サカモト

今から君の父親を社会的に痛めつけようと思うんだけど

サカモト

君はどうする?仕返しのチャンスだよ

サカモト

父親は抵抗出来ない。何をしてもいいよ。手を出してもいい、罵倒してもいい。君がボタンを押してスレッドを投稿してもいい。

聖くんの視線が、ゆっくりと俺から父親に移った。

サカモト

前に会った時より痣が増えているじゃないか。
テーブルに醤油を1滴こぼしただけで殴られたんだろ

サカモト

報復とかは考えなくていい。君が望むなら ここに住めばいいさ

サカモト

そこの いかつい彼はね空手が強いんだ。君のボディーガードになってくれるよ

クロ

………………ウェルカム

サカモト

どうする?聖くん。今まで散々理不尽な暴力を振るって来たお父さんが無抵抗だよ

拘束されたまま必死で首を横に振る父親の姿を無言で眺めていた聖くんは、

小さく、だけどしっかりと 首を横に振った。

___お母さんが天国に行く前に、お母さんと約束したんです

僕が子どものうちはお父さんが頑張ってくれるけど、大人になったら僕が頑張って

お父さんを支えてあげてねって

息を吸い込んだ音が父親からした。 ヒカルが肩をすくめて、クロさんが目頭を押さえた。

僕は、お母さんと約束したから

そんなこと しない。
お父さんと暮らしたいです

聖くんは はっきりとそう言った。 俺は1つ息を吐くと語りかけた。

サカモト

聖くんのお父さん

サカモト

片親だなんだと言われて苦労していることは調べていて分かりました。思い通りにいかないことだらけでしょう

サカモト

それでも貴方の息子は、貴方と歩もうとしている

サカモト

そんな息子に貴方は何をしましたか。これから何をするんですか

父親の目から水滴が零れた。 ゴミでも入ったのだろうか。

サカモト

スレッドを投稿するのは保留にしましょう。縄もほどいてあげます。

サカモト

晩酌だけじゃなくて、もっと楽しみを増やすことですね

解放してやると、父親はまっすぐ聖くんの元に向かった。

死んだ妻と重ねたのだろうか、父親は聖くんを強く抱きしめると声をあげて泣いた。

万が一を想定してクロさんをスタンバイさせたけど、問題は無さそうだ。

ヒカル

うっ、うっ……クソォ。あんなの見せられたらギャラとかどうでも良くなってきたっす。ズルイっす

サカモト

まだ「思い出し泣き」してるのか

ヒカル

俺は涙もろいんす!………ぁ~もう聖くん聖人っしょ……

クロ

……………(コクリ)

サカモト

__じゃあ先日の依頼料が入って来たけど、ヒカルはどうでも良くなったらしいから俺とクロさんで折半だな

ヒカル

そんなっ!
…………てか先日の依頼料って何すか

サカモト

スズネさんだよ。モデルにならないかと言ったらホイホイ付いて来た

サカモト

スズネさんはクラスメイトをいじめて楽しんでたけど、俺が少し脅しをかけたら心を入れ替えたようだ

サカモト

スズネさんにいじめられてたクラスメイトから、依頼料が振り込まれてた

そこそこ大きな公園の西側の、誰も利用しない階段が見えて来た。

寒さに震えていた聖くんは、もういない。この階段を利用するのは、毎月花束を添える俺くらいだ。

昔 男がいた。

男は早くに妻を亡くし、男手1つで娘を育てた。

娘が高校生になったある日。部活で帰りが遅くなった娘は そこそこ大きな公園を通った時

何者かに性的暴行を受けた。

明るかった娘は塞ぎ込み、自殺した。 男は娘を襲った犯人を執念で探しあて

西側の階段で 揉み合いになり、犯人が足を滑らせて____

犯人は 会社をリストラされ妻と子供に捨てられた可哀想なサラリーマンだった。

今でも思う。 もしかしたら俺は犯人を救うことも出来たんじゃないか

更生させることが出来たんじゃないか もしかしたら死なずにすんだんじゃないか

だから俺は人目を忍んだ場所で、人々を「更生」させている。

1人の男を「殺した」俺の、大きな声で言えない裏の仕事。

これが俺の仕事だ。

この作品はいかがでしたか?

510

コメント

10

ユーザー

もう、これだから非リアさんのお話大好きなんです🥺🥺🥺 キャラクターの一人一人が魅力的で、際立っていて…!!!!!!!

ユーザー

深い

ユーザー

素敵なお話でした(●︎´▽︎`●︎)

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