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緑の好きな食べ物は、唐揚げ。
寝癖がつきやすいのは、左側。
宿題はギリギリまでやらないし、だけどテストの点数はそこそこいい。
苦いコーヒーが苦手で、でも大人っぽく見せたくて無理して飲むこともある。
私は、そんな緑の全部が好きだった。
全部知ってる。
知ってきた。 知ろうとしてきた。
橙が緑のどんなところの惹かれたのか、私には分からない。
だけど、緑の良さならいくらでも言える。
どれだけ時間があっても、足りないくらい。
学校で見せる何気ない仕草も、他人には気づかれないような優しさも、全部_
私の宝物だった。
でもそれは、もう"独り占めできる関係"じゃない。
授業中、ふと前の席を見ると、緑はノートの端に小さな落書きをしていた。
よく見ると、それは顔文字だった。
昔、私が教えたやつ。
懐かしくなって、思わず微笑みそうになる。
でもすぐに気づく。
今、あの顔文字を見せたい相手は、私じゃない。
授業が終わったあと、緑が振り返った。
緑 。
緑 。
桃 。
本当は、行きたくなかった。
緑と橙が一緒にいるところを、見たくなかった。
だけど、断ったらもっと遠ざかってしまう気がして_私は嘘をついた。
緑 。
緑 。
そんなふうに、笑わないで。
その笑顔が、私のことじゃなく、"みんなの中のひとり"として向けられてるって気づいてしまうから。
_それでも、緑が笑う度に、心臓が痛くなるほど好きだと思ってしまう。
誰にもわかって欲しいなんて、思わない。
ただ、私自身くらいは、私の想いを大切にしてあげたい。
だから私は、心の中でそっと呟いた。
「私は、緑の全部が好きだったんだよ」