この部屋はとても寒くて暗い
あぁ、私は前にも
こんな風に冷たい床に転がっていたことがあったっけ…
……私の日記、私は
まるで昨日の事のように全てを思い出すことができる
私は書いたこともないその日記の書き出しを
知っている…
私は病気だから 誰も 私と遊んでくれなかった
私は生まれつき病気だった
だけど 生まれた時からこのくらい部屋に いたわけじゃない
この窓から空は見えないけど
私は空の青さを知っている 草の匂いも知っている
ただ 生まれつき顔や足の皮膚はただれ
関節にも異常があるらしく 歩くのにも痛みがあった
原因はわからない
治す方法なんて尚更
ここにはまともな医者なんていなかったし
かかるお金もなかった
母
エレン
このままでいたら
いつか私は母に見捨てられる
そう直感した
次の日から私は外へ遊びに行くのをやめた
嫌だ、捨てられたくない
外で遊べないことよりも 母を失うことのほうが よっぽど恐ろしかったのだから
私は7歳にしてすでに囚人だった
母に捨てられることは 死ぬことも同然だった
私を愛してくれるのは 母だけだったから
皆自分が生きることに 必死だったように
まるで溺れたものが必死に何かにしがみついて離さないように 母の愛にしがみついていた
父は、私を見ていなかった
私をまるでいないもののように扱った
エレン
母
母
エレン
母
いつも2人は 私の見えない所で 話を進めていた
彼らが何をしているのかは知らない
ただ、男女が関わり合うことで必要な何かとは感じていた
エレンと同じ髪の色のお人形はなかったの
でも、服の色がエレンと同じ髪色よ
父と同じ紫の髪 母と同じ茶色が良かった
だって、母と同じなら 父も私を見てくれたかもしれないじゃない
『痛いな』
うるさい 痛くないでしょ 人形なんだから
『あなたも人形みたいなくせに』
……私が人形?
『そうよ』
違う
『路地裏しか見えないのに?』
バアン!
この人は生きている
私は今しがた生まれた気持ちを悟られないように必死にしがみついた
それは、憎悪だった
生きていることを感じさせる母を
私がもらえない父からの愛をその身で享受し続ける母を
どうして こんなに優しくて 私を愛してくれる母を 憎むことができるのか
私はエレン 母の愛する娘 それでいいじゃないか
『本当に…?』