家でゆっくり過ごした後
アーサー
菊の身体を休めるだけで今日を終えるはずだったが
外に出ていなかった菊を外に出した方がいいと思った
菊
ベッドの上で、手をぎゅっと握りしめる菊がいた
アーサー
菊
アーサー
菊
アーサー
アーサー
俺がそう聞くと
菊は考えて、メモ帳を見た
菊
そうか、記憶が無いんだ
そんな菊は、自分の言葉すらも曖昧であった
アーサー
菊は眉を下げる
菊
これは、記憶障害が原因なのか?
友達という言葉を、 菊は知らなかった
アーサー
アーサー
菊
母親以外と会話をしたことが無い
勉強もできない
食事のマナーも
友達の作り方も
何も分からない菊は
まるで
絵だった
なんの意味もない
存在しない
ただ観賞用に描かれた絵のようだった
どんな性格で、 どんな生活をして、 どんな友人、家族がいたのか
何も設定されていない
美しい
絵のようだった
菊
菊
俺は鞄に荷物を入れる手を止め、目を見開いた
菊
何も言い返せなかった
魔法を使えなかったら
どうするのか
菊
菊
菊
アーサー
アーサー
メモ帳を開こうとはしなかった
菊は
自分自身に聞いているのだろう
菊
菊
菊
気づけば俺は
菊を抱きしめていた
強く
骨が折れるくらいに
抱きしめた
菊
菊は何も分かっていないようだった
首を傾げ、少しの口角を上げている
アーサー
俺がそう言えたのは
菊が絵のようだったからだ
菊を
人間と同じように
思わなかったから──
歩いている途中
菊は俺の後ろを着いていく
外は真っ暗だった
流石に危ないと思った俺は
菊の横に行き、手を差し出した
すると菊はまた、首を小さく傾げ、 目をうろうろとさせていた。
菊
俺が菊に向ける目線の意味がわからないのか 菊は困っていた
アーサー
アーサー
そう言った途端、菊はやっと理解したのか、 手を差し出してきた
手の繋ぎ方が分からないのだろうか
俺はその差し出された手を見て 手を繋いだ
その時の菊の手は とても冷えていた
震える手が、怖かった
細いその手を、大切にできる気がしなかった
アーサー
菊は少し、目を見開いた
菊
アーサー
俺は巻いていたマフラーを菊に巻いた
すると
急に泣き始めるものだから 俺は困った
菊
アーサー
アーサー
菊
菊の寒いという意味が
ひとつではないこと
それはもう知っている
そう言ったのは2回目なのだから
菊は寒いという言葉で 悲しい、辛い、そういう感情をまとめていた。
そして
その瞬間は
菊を守りたいという意思が 固まった時だった──
大きな噴水のある公園に着いた
噴水の周りに座り、 俺は先程買ったパンを上げた
アーサー
アーサー
菊
アーサー
菊はもくもくとパンを食べた
小さな口で、小さなひと口を
アーサー
菊
菊は、返事が1拍遅れて帰ってくる
菊なりに、返事を考えているのだろう
アーサー
菊は、また考える
きっとまた
分からない
そう帰ってくると思った
菊
カレー
俺に問いかけるようにそう答えた。
アーサー
菊
菊は小さく頷いて、少しだけ口角を上げたような気がした
アーサー
アーサー
作ってやる
そう言いかけたが、 そういえば前にフランシスという友人に
「お前の料理は人を殺す」
と人聞の悪いことを言われたな。
それにその場にいたヤツらは皆、小さく頷いてやがった。
アーサー
菊
菊
家に帰り
漸く お風呂などのするべきことを終わらせた。
菊は疲れ果てたのか ぐったりとベッドに沈んでいた。
そして
今日も菊についての記録を残す
・菊はスプーンすらも使えなかった。
幼児がスプーンを持つように、 手のひらでぎゅっと握っていた。
・菊は1人ではお風呂に入れない
髪を洗っている様子を見ていれば、 何度も指がつっていた。
それなのに、ふけや汚れはなかった。
きっと、指を攣らせながらも 時間をかけて髪を洗っていたのだろう。
そのため俺は菊の頭を洗い、髪を乾かした。
元の髪質が良いのか、 今までもサラサラだったが
俺が髪を洗って乾かした時、いつも以上にツヤがあった。
菊が今までどうやって生きてきたのか
想像がつかなかった──
そして
3日ほど家で体を休めて
テーブルマナーを習得することが出来た。
テーブルマナーがあればとりあえず学校に行けるだろう
アーサー
菊は、魔法学校の制服に着替え、ベッドに座っていた。
菊は怖いことや緊張することがあると手をつねる癖がある
それでいつも血を出して絆創膏が増えていく。
アーサー
俺は菊の手を強引に掴み、 こちらに引き寄せ、手のひらを上にするようにした。
菊
アーサー
俺は 菊の掌の上にエメラルドでできたネックレスを置いた。
大きな、 ひとつのエメラルドは陽の光で輝いている
菊
アーサー
菊は目を見開いて、口角を少し上げた。
そんな菊に俺はネックレスを掛ける。
菊
菊は急いで立ち鏡の前まで行って、ネックレスを見た。
その場でぎゅっとネックレスを握った。
俺はそんな菊を見て、自然と頬が緩んだ。
まるで、我が子のようにも思えた。
菊
アーサー
そして遂に魔法学校へ着いた
アーサー
菊
アーサー
アーサー
菊
菊は 俺が歩き出すと家鴨のように後ろを着いてきた
アーサー
その様子を見て 菊に手を差し出すと
菊は俺の手を見て ぎゅっと握った
あの時のことを覚えているようだった 手を繋ぐという、糸を──
着いた場所は 石垣で出来た壁に囲まれた広い部屋
天井は筒抜けで太陽光が心地よい
アーサー
アーサー
紫色に光る魔法陣の中心部に頭程の大きさの卵を置く
俺は壁の隅に寄り、 菊を魔法陣から少し離れたところに立たせる
アーサー
アーサー
アーサー
俺がそう言うと
菊はネックレスをぎゅっと握りしめた
1分
2分
3分
10分
何分待っても卵が割れる気配がなかった
菊
パキッ──
菊が何かを言いかけた時 卵が割れる音がした
パキパキッパキッ
殻が割れていく
すると
2.5mほどの高さの翼が出てくる
これは珍しい
そして遂に
全身を露わにした
ギラッと光る赤い目
大きく羽ばたく翼
菊は後退りをした
アーサー
アーサー
菊は足が震えて、 その場でしゃがみ込んでしまった
ドラゴンは菊を見つけると ドシドシと大きな音を立てて近づく
ドラゴン
低く大地を震わせる声なのに、どこか柔らかい。
これは菊に対して甘えている証拠だ
そして翼を畳み、 静かに首を深く垂れ、首を上げると菊と目を合わせる
その行為は 神の仕えのようにも感じた
菊
菊が恐る恐る手を伸ばせば、 ドラゴンは再び首を深く垂れ、額を菊の手に触れさせた
アーサー
アーサー
アーサー
そう言うと、 菊はドラゴンの額に顔を擦り付ける
菊
ドラゴンに感謝を伝えた
ドラゴンもその見た目をして とても愛らしい顔をした
ここまで懐く生き物は珍しい
世間を知らない菊だからこそ
純粋無垢な性格に惹かれたのだろう
何も無い白紙の菊
菊を守る
そんな忠誠心もある筈だ──
コメント
1件
菊視点かアーサー視点かで迷ったのですが結局アーサー視点にしました💦 3話では菊視点です