オリバー・エバンス
長尾景
長い髪を綺麗にまとめた、 色白の男は、 相方のベッドに遠慮なく どっかりと腰掛け、 熱心にスマホを見ている。
ように見える。
が、しかしこの男、 実は怒られるのが怖くて 顔を見ないように しているのである。
オリバー・エバンス
長尾景
もうかれこれ二時間ほど ずっとこんな感じだったのだが、 遂に返事もなくなってしまった。
オリバー・エバンス
先程から少しずつ怒気を孕み、 口調は強くなっていく。
優しく諭すような いつもの声色とはうって変わって
明らかに怒っているであろう 相方の声にビクリと肩を震わせ、 弱々しく返事をする。
長尾景
オリバー・エバンス
あまりにも短く、 気の抜けた返事に、 普段温厚な男も キレざるを得なかった。
長尾景
と手をひらひらと振り、
目の前の華奢な男は またスマホに目を落とす。
飄々とした態度で 毅然に振る舞っているが、 傷を負っている。 心にも体にも。
辛いはずなのに、 それをおくびにも出さない。 でも、慣れてるったって、 限度はある。
会うたびに怪我が増えていく。
絶対無理してる。
振ったその手に巻かれた包帯が 痛々しい。
少し血も 滲んでいるように見える。
また無茶をやったんだな。
本当に長尾景という男は 優しすぎる。
オリバー・エバンス
次の言葉が出てこない。
ただでさえ白い肌に巻かれた もっと白い包帯にばかり 目が行って、
何を言おうとしたのかとか、 何で怒ってたのかとか 全部わからなくなった。
ひたすらに心配になる。
長尾景
オリバー・エバンス
線は細いが しっかり鍛えられた体で、 一体どれだけの人を 救ってきたのだろう。
その細い指にそっと 自分の手を重ねる。
ゴツゴツの手は 包帯を隠すように包んで、 彼の手はすっぽりと 手の中に収まった。
長尾景
僕と景くんは恋人とか、 いわゆる そういう関係ではないので、
急に手を握るという行為は もっと気持ち悪がられたり、 嫌がられたりするはずだが
彼は違ったようで、 手を握られても平然としている。
きっと友人以上のなにかは 彼の中では『ない』のだ。
彼にとって僕は、ただの相方。
だから警戒心もなく 家まで来て、 ベッドに座っている。
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
と小さく付け足す。
もし辛いことがあるなら、 何でも言ってほしい。
嫌なことも、嬉しいことも、 できるだけ共有していたい。
もっとわかってあげたい。 一人で戦わないでほしい。
だって君のことが。
長尾景
ははっと乾いた笑いが 薄い唇から漏れる。
長尾景
と言って彼は立ち上がった。
オリバー・エバンス
長尾景
思わずその手を 反射で掴んでしまう。
長尾景
オリバー・エバンス
長尾景
嘘だ。
長尾景
オリバー・エバンス
言わなければ。
長尾景
オリバー・エバンス
長尾景
オリバー・エバンス
やっと出た言葉は 言いたかったものとは違って、
彼は わかりやすく眉根を顰める。
長尾景
思いたくないけどそうでしょ。
長尾景
何がだよ。
長尾景
違うでしょ。 金さえ貰えればって 言ってたじゃん。
長尾景
本当のことを言ってよ。 帰ってくるなら 何でそんな顔してるの。
長尾景
オリバー・エバンス
不思議そうな顔をして 景くんは僕の顔を覗き込む。
ゾクリとするほど整った顔。 陶器のように白い肌。 豊かに光を含んだ藍鼠色の瞳。
ガラスのような瞳が僕を捉える。
オリバー・エバンス
長尾景
言った。
言ってしまった。
景くんはぽかんと口を開けて 僕を見つめている。
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
矢継ぎ早に言葉を投げ、 景くんの腕を掴んで 玄関に向かおうとする。
長尾景
オリバー・エバンス
長尾景
オリバー・エバンス
大丈夫。落ち着け。
居なくなったりしない。 だって彼が そう言ったんだから。
でも、
でもでもでもでもでもでも。
消え入りそうな声で僕は言った。
オリバー・エバンス
たぶん今僕は とても情けない顔をしている。
景くんの負担になると わかっているのに。 止まらない。
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
オリバー・エバンス
だから、だからさ、
オリバー・エバンス
長尾景
長尾景
オリバー・エバンス
僕、今なんて言ったっけ。
オリバー・エバンス
長尾景
長尾景
ちゃんと帰ってくるから。
相方を安心させるため ニッコリと笑ってみせた。 絶対に悟られてはいけない。
俺が明日 死ぬかもしれない ということを
次の任務が 最期の任務に なるかもしれないことを
隠さないといけない。
オリバーが俺のことを 好きなんだろうとは 前から薄々気づいていた。
『景くん』と俺を呼ぶ時、 いつも声が少し高くなる。
目が合うと必ず 微笑みを返してくれる。
配信で言い合いをしても、 終わった後に 『ごめんね』と言ってくれる。
俺だって強い口調で やっちゃったのにさ
やさしんだよなぁコイツは。
そういうとこだよ、 そういうとこ。
そういうところが好きなんだよ。
やめろよ、死ねなくなる。
もう諦めたのに。
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
オリバー・エバンス
長尾景
もくもくの
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