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主
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引っ越してからしばらく。
潔は相変わらず口を閉ざしたまま、家の隅にうずくまるように生活していた。
男の人の気配が近づくだけで、息が詰まりそうになる。
けれど、ただ一人。 凪誠士郎だけは違った。
凪
ソファに転がったまま、眠そうな声で凪が問いかける
潔はびくりと肩を震わせるが――次の瞬間、そっと凪の隣に近づき、座布団の端にちょこんと腰を下ろした。
潔
凪
二人の間に流れる静けさは、なぜか苦しくなかった。 潔はスケッチブックを広げて、ペンを走らせる。
『凪くんは……怖くない』
その文字を見て、凪はまぶたを重そうに瞬かせた。
凪
潔は小さく頷く。 その表情はまだ怯えを含んでいたけど――少なくとも、凪の隣なら呼吸ができた。
数日が経つうちに、潔は当たり前のように凪のそばにいるようになった。
ご飯のときも、寝るときも、テレビを見るときも。 まるで小動物のように、いつも凪の影に隠れて。
凪も特に追い払うことはなく、ただ自然に受け入れていた。
凪
そんな風にぽつりと言ったこともあった。
――だからこそ。
ある日の夜。
凪
凪はスマホをいじりながら、何気なく声をかける。
凪
潔の手が止まった。 ペンを握る指がかすかに震える。
潔
スケッチブックにそう書き、必死に見せる。
凪は少しだけ眉をひそめた。
凪
潔は大きく首を横に振る。 (知らない人……怖い……)
その様子を見て、凪はソファに寝転がったまま天井を見上げた。
凪
潔はスケッチブックに急いで書く。
潔
凪
潔はしばらく考え――小さくペンを走らせる。
潔
その文字を見て、凪はかすかに笑った。
凪
潔はその言葉に、目を丸くした。 心臓がじんわり熱くなる。 ――「一緒にいる」 その一言が、どれほど救いになるのか。
凪
凪はあくびをしながら、何でもないように言った。
凪
潔は、ぎゅっとスケッチブックを抱きしめて頷いた。
その夜、ほんの少しだけ。 潔は安心して眠ることができた。
翌日。 スタジオの煌びやかなライトの中。 潔は凪の背中に隠れるように歩いていく――。
主
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