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やばい…なんか不思議な感覚(?)
開いていただきありがとうございます! このストーリーは、この連載の第二話となっております。 注意事項等、第一話の冒頭を"必ず"お読みになってから この後へ進んでください。
この話以降、 連載オリジナルである「苗字」が頻繁に出てきます。 作者が作り出した名前が苦手な方は、 ここでブラウザバックをお勧めします。
ターゲット
そう笑って差し出された手は、 真っ直ぐにこちらへ伸びてきて。
「赤瀬りうら」の元気な声と共に、 繋がれたその握手の形は。
…「スパイと獲物」の手だという風には、 見えなかったと思う。
書類審査は難なく通過。 その後にあった面接では、 適当にそれらしいことを喋って採用となった。
ここから始まる、 およそ二ヶ月の研修期間。 俺の担当はきっと、言わずもがな狙いの彼だ。 そうなるよう、先方が仕組んでいるはず。
会社へ入り込んで仕舞えば、 任務達成は時間の問題だろう。 写真で見る限り、 彼にはそこまで苦労をしなさそうだ。
…ライア。 その偽名を、覆そうと。
俺は今日だって嘘をつく。
会社の入り口。 初日に相応しく、施設案内をすると言った彼は、 「案内がてら喋ろーぜ!」と俺に笑いかけた。
ターゲット
ターゲット
ターゲット
少し俺の肩を小突く彼に、 俺はからから笑ってみせる。 警戒心は全く無さそうだ。何より何より。
彼のこのフロアの説明に相槌を打ちつつ、 先ほど聞かされた自己紹介を反芻する。 資料との差異は無かったはずだが、 どうだっただろう。
"俺は黒木悠佑っていいます! 悠佑、は地味に珍しいけど、 黒木はまんま黒い木やで! お、苗字に色入っとんのお揃いやな、w"
そう言ってにこっと微笑んだ彼。 新入社員の緊張を解くためのフレンドリーさだろう。 通りで指導係をしているわけだ。
"後輩とかからは、黒木先輩か兄貴やな、w 兄貴ってちょっと気まずくて呼びづらいやろ? 一応まあ、指導係やしな、w …でもな、意外とそうなったりするねんで!w"
それも資料通りだった。 後輩、特に指導を担当した後輩からは、 尊敬の意を持って「兄貴」と呼ばれることもあると。 資料を見た時には眉を顰めたが、 この人柄なら納得がいく。
生憎俺はそういう性分ではないが、 ここでは俺でなく「赤瀬りうら」だ。 頃合いを見て、兄貴と呼んでおこう。
"メモはそんな必死に取らんくてもええからな〜、 言うて為になること言わんし、w 今日は施設説明が主やから!"
そこまで言い終わり、 俺がそこまで緊張状態では無いことを確認すると、 「そんじゃ行くかー!」と歩き出した。 焦っている感じもないが、工程は早い。 資料通り、優秀な人材なのだろう。
その間の自分の相槌も思い返し、 特に問題がなかったことを確認する。 「赤瀬りうら」という人格は、 俺の中でしっかり形成されていた。
…まあ、このくらいの嘘なら。 誰も不完全だとは言わないだろう。
ターゲット
にっこりと笑って、彼の後を追う。 今までの言動を思い返していた間の話も、 しっかりと頭の中に入っていた。
…今の所。 彼が悪事を知っていて、 尚身内を庇っている状況だということなど、 微塵も感じないような雰囲気だった。
先方の仕事の振り分けには、 基本的に意図がある。 …そう、今回も例外なく。
彼は、雰囲気が滲むほどの「良い人」だ。 普通の人なら、 疑うことすら罪悪感を覚える。
もちろん、俺達に同情は無い。 ただ任務をこなすだけ。それだけ。
けれど、感情を押し殺す 同業者のうちのいくらかは。 あまりにも罪悪感が強いと、 壊れて消えていってしまうから。
だから、俺を選んだ。 何にも感情が湧かない、 アンドロイドのような俺を。
俺はその期待に、 答えなければならない。
「ライア」として、 その仕事を全うしなければならないのだ。
ターゲット
ターゲット
ターゲット
ターゲット
くすくすとこちらを見る彼に笑い返し、 俺は奢りである昼食に箸を付ける。 ターゲットに借りを作るのは気が進まないが、 ここで変に意地を張っても怪しまれるだろう。
…あ、美味しい。
ターゲット
ターゲット
ぱちん、と音を立てて手を合わせる彼。 そのまま箸を取って、食べ始める。 一つ一つ注目して見たって、 怪しい動作はどこにもない。
…いや、それより。 俺が考えるべきことは。
ターゲット
ターゲット
あれ、なんだっけ。 僅かに感じた違和感と、 それに対する急き立てられるようなもの。
なんだか漠然としたものだけが、 爪痕のように心に残っている。 気持ち悪いような、変な感じ。
…気にするな。 そんなの、ほんの気の迷いだろう。
ターゲット
ターゲット
ターゲット
少し探りを入れる。 顔が広いというのは資料に記述済みだったが、 一応確認だ。
ターゲット
ターゲット
首をこてっと捻り、 なんで?と問いかけてくる彼。 飲み会参加してみたいんです、といえば、 合点がいったように笑って。
ターゲット
ターゲット
よし、一歩前進だ。 箸を握る手に少し力を込め、 昼食を口に入れる。
お酒の力を借りて吐かせるのもありだろう。 彼ではなく、幹部本人でも別に構わない。
ああそうだ、本人にしよう。 義理が固い人間は吐かない。 そう、それは彼も例外ではないだろうし。
ターゲット
右足が、忙しなくリズムを取っている。 随分前に注意されたが、 直らない俺の癖。 興奮した時や、気分が上がった時の仕草。
"ライア、そういうとこだよ〜?w"
くす、と俺を見て笑う表情。 俺の不完全な部分。
別に、そう言われたって。 ターゲットにさえバレなければ。
ターゲット
案内図から顔を上げた彼と目が合い、 にっこりと笑う。
…貴方にさえこの嘘がバレなければ、 俺はまだ「ライア」でいれるんだ。
「ライア -その線で⬛︎して-」 第二話