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ぬいぐるみ
279
崎戸
放課後の保健室。ガラガラと小気味いい音を立てて引き戸が開くと、聞き馴染んだ声が響いた。入ってきたのは、高校2年男子バレー部天才セッター、川崎崎戸(かわさき さきと)だ。いつも人懐っこい笑顔を浮かべている、絵に描いたような大型犬タイプの生徒だ。
神崎
校医の俺――神崎雅也(かんざき まさや)は、あきれ顔で白衣のポケットから消毒液を取り出した。
崎戸
神崎
パイプ椅子に座らせた川崎の前にしゃがみ込み、擦りむいた膝の手当てを始める。川崎は、じっと俺の頭頂部や手元を見つめている。視線が熱くて、なんだか落ち着かない。
崎戸
神崎
崎戸
不意に投げかけられた言葉に、消毒綿を動かす手がピタリと止まった。見上げると、川崎はいつものやんちゃな笑顔を消し、ひどく真剣な目で俺を見下ろしていた。
神崎
崎戸
心臓がドクン、と大きく跳ねた。川崎の真っ直ぐな好意は、ずっと前から気づいていた。けれど、教師という立場がある以上、気づかないフリをして受け流すのが俺の役目だったはずなのに。
神崎
崎戸
そう言って、川崎は俺が絆創膏を貼ろうとしていた手を、下からそっと包み込んできた。部活で鍛えられた手のひらは、俺のものよりずっと大きくて、熱い。
神崎
崎戸
グイ、と手を引かれ、俺の身体が川崎のほうへ傾く。顔があと数センチで触れ合いそうな距離。男らしい体温と、部活終わりの汗の匂いが鼻腔をくすぐって、頭がどうにかなりそうになる。
崎戸
川崎の意地悪な指摘に、自分の顔が一気に火照るのが分かった。不器用な年上の余裕なんて、この真っ直ぐな年下に、最初から全部見透かされていたのだ。
神崎
崎戸
そう言って、川崎は俺の指先に小さくキスをした。ちくりとした甘い痛みが走る。
放課後のチャイムが遠くで鳴り響く中、俺は「あと1年」を無事に耐えきれる自信を、完全に失くしていた。
コメント
1件
あおいです🤍 第1話、一気に惹き込まれました…! 保健室のちょっとした距離感と、崎戸くんの真っ直ぐな視線がすごく印象的でした。怪我をわざと作りながら通う姿に切実さを感じつつ、先生がつい「耳が赤い」って見透かされてしまうもどかしさが、たまらなく甘酸っぺえ…。 「卒業まで我慢してる」というセリフが胸に刺さりました。あと1年、どうなっちゃうんだろう…続きが気になります!