テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
王宮の空間は、血と鉄 汗の匂いが濃密に満ちていた
踏み込む度に瓦礫が微かに崩れ 跳ねた砂や小石が軋む音を立て、
金属の擦れる音が鼓膜を震わせ 鎧の繋ぎ目の軋みが、全身に響いた
胸の鼓動は早鐘のように打ち 手のひらの汗が剣を滑らせる
対峙する仮面の男は 髪や衣服も刃のかすり傷すら受けず
踏み込む瓦礫の音すら 吸収するかの様に、軽やかに動く
息を切らすこともなく 全身の軌道が光と影に溶け込み
宙を舞う刃の残像が、煌めいた
俺の攻撃は 空気に吸い込まれるように流れ
剣の軌道は嘴を象った仮面に反射し 光の帯となって男を中心に舞う
振り下ろす刃が空を斬る度 光が壁や床に跳ね
空間全体が 一瞬の静止と緊張で凍りつく
火花が散り 金属の軋む音が重なり
戦場は、呼吸すら忘れる程の 緊張感に包まれていた
────だが
仮面の男の太刀筋は 蝶のように、軽やかで流麗……
宙に描かれる刃先の残像は 光と影の彫刻のように、美しい
深淵よりも 遥かに深い闇を宿しながら
木漏れ日のような光を纏う 洗練されたその太刀筋に惹かれつつも
胸の奥を焼き尽くすような 醜い嫉妬が溢れていく
仮面の男が左腕を振るうと その指先から紋章が強く光り、
暗黒魔道士ラマンダーに 集中していた魔力が逆流する
ラマンダーは膝をつき 身を硬直させ、床に沈む
────瞬間
仮面の男の視線が 人質であるリンゴ姫に向けられる
その目は 仮面で口元が隠れていても
優しく、穏やかで
「安心して」と、告げる様な 温度を帯びているようだった
リンゴ姫の足元に 魔法陣が浮かび上がる
軽やかに持ち上げられるかの様に 宙に浮かび上がり、
フッと 光の残滓を残して消えたかと思うと
バナナ王妃の側へ 音も無く突然姿を現した
バナナ王妃の視線が 仮面の男の瞳と重なった瞬間
仮面に隠れ、表情は見えないが 目元の柔らかな光が
無言の安心と信頼を伝えた
安堵から涙を零すリンゴ姫を バナナ王妃はぎゅっと抱き締めた
剣を握る手に力を込め 胸の熱を押し込み、鼓動を整える
焦燥と怒りが混ざり 一撃に全神経を集中させるも
眼前の仮面の男は微動だにせず 完全に研ぎ澄まされた動きで応じる
足元の一歩一歩も無駄が無く 床の瓦礫を踏む音すら吸い込むように
軽やかに身を滑らせていく
太刀筋は緩急自在……
止め、払い、突き、振り下ろす
────全てが、流れる水のように 余白の無い美しさが、視覚を圧倒する
刃が空を斬る度
金属のこすれる音と 瓦礫の崩れる音が響くが
仮面の男はそれすらも完全に包み込み 存在感だけが、余韻として残る
焦燥、熱、鼓動────
俺の全感覚が この男の太刀筋と 正確な足捌きに引き込まれ 思考すら、支配されていく……
踏み込む度に力を込めても 男は軽やかに身を翻し、剣を受け流す
視界に映るのは 研ぎ澄まされた足捌きと 嘴を象った仮面が放つ 冷たくも美しい、光だけだった
────
そう言えば………貴方に 私の『正体』を伝えていませんでしたね
“前”までは 全てに制限がかかっていましたが… “今”なら………… ほんの一部を、貴方に伝えられそうです
『他の誰よりも、彼らを知っている者』
“今”伝えられるのは このぐらいでしょうか……、
まだ…私の名には 制限がかかっているので…… 私の事は
『観照者』
────と、お呼び下さい
これからも、最後まで
“彼”の物語の結末を 見届けてあげて下さいね